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 『あらしにあこがれて』11


 バーナードの工房にたどり着くと、少年の従事がはきはきと迎えた。
「ルナさま、お話は聞いています。シャビから戻られたとか、ですが主は懐疑的です」
 頬を赤くして必死に訴える少年がかわいそうに思えて、ルナはその子に同情した。
「機械が全部揃っているから、それを確かめてほしいの、全部やってね。信じないだろうと思ったから全部持ってきたの。テストしてほしいの」
 親指を立てて、蒸気機関が稼働していてぶるぶると震える竜車を指すと、やっと意味がわかったようだった。
「あー、主に伝えに行きます!」
 ばたばたと少年は奥へと戻っていく。
「ここはいつも変わらないわねぇ・・・、ハッカビー兄弟の工房みたいにすんなりとは行かない」
 セレンは遠慮がちに言う。
「も、もしかして、ここって面倒な工房なんですか・・・?」
「あー、うーん・・・、そうかも・・・。そんなこと考えたこともなかったけれども、面倒といえば面倒かも。馬鹿と天才は紙一重と言えばいいの? 売り方がわからなかったから放置してたけど、今回の件でどうも役立ちそうだと思ったから、お願いしたの。わかるでしょ? 天才肌の、すごく神経質な工房なの」
 セレンがメモをし始めるのを見て、いやぁ、困るなあと思ってしまう。
 わたしが考えていることがだだ漏れじゃないか。
 ただ、セレンがわたしの仕事のだいぶの部分を肩代わりしようとしてくれているのは、心強かった。屈んで耳元で囁く。
「言っちゃ駄目よ。わたしがあなたが天才か馬鹿なのか掴みかねてるって言ったら問題でしょ? ちょっと問題はあるけど、天才だから許す、くらいでちょうどいいの」
 すぐに初老の男が駆け寄ってきて、口を開く。
「す、すみませーん。来る気はしてたのです。それで最終試験をしていたのですが、あれ? どうしたのですか?」
 バーナードがきょとんとした顔をする。
「ああ、驚かせてごめんね。ハッカビー兄弟のポンプが素晴らしかったから、ぜひ、合わせてみたいと思って、持ってきたの。テストする準備はできているんですよね?」
 バーナードは竜車まで寄り、そこに備え付けたる旧式のクレーンを見上げる。
「これ、だいじょうぶなんですか・・・? だいぶ古いですけど」
「今のところは問題は起こってないから」
 ふんふんと見聞きしながら、バーナードはきざに高価な葉巻を吸い、合わせてみましょうという。
「実機は全部持ってきてるから、なにか不満があれば言って」
 ルナは竜車の従事に、慣らし運転していた蒸気機関から、熱した石炭の入った鉄籠を外すように告げた。

 電気で動く駆動系というのはだいたい問題だ。
 内燃機関とまったく違う理屈で動いているし、蒸気機関のスペシャリストであるルナでも、電気工学に通じてるわけではないし、ほんの少数しか専門家がいない分野だからだ。
 それで、技師のほとんどは、でんきにふれるのがこわい。
 触れると、しびれて感電死するとも聞くし、電気系のスペシャリストと話す機会も滅多にない。そういう意味ではこのバーナードは希少な技術者なのだけれども、どうも扱いが面倒で、いつも口うるさい要望を投げてくる。
 中庭に竜車をよこすと、バーナードが新作のモーターと思わしきものを運んできた。
 対になっている2つのモーターで、その間を長い電線が繋いでいる。
「これって感電しないですよね?」
「いちおうゴムの被膜で覆ってますし、設置するのもだいぶ高所にします。動力はチェインで伝えますので、設置には結構自由度がありますよ」
 設置場所は自由と言っているのは、水をかぶる心配のない場所に設置できることを言っている。
 そうか、歯車じゃなくてチェインでやればいいのかと、ルナは感心し、シルバはこういうことを見越してモーターを使おうと発想したのかと思うと、その差が圧倒的すぎて少しこわい。
 サウスと対話できる、変態的な天才と自分を比べるのはこわい。
「あれがルナさまの新型ですか? ずいぶん馬力が出そうですねぇ、耐えられるかな。こっちは旧式でテストするしかなかったので」
 バーナードは自信なさげに言うが、ルナはこの男の変態的な神経質さには自信があった。つまり過剰性能で設計していることはほぼ間違いないのだ。それで必要以上に割高になりがちなのが玉に瑕なのだが。
「じゃあ、ちょっと見てみる? いちおうここまで慣らし運転してたから、火種はあるの。すぐにでも最高出力がだせるから」
 石炭の入った鉄籠を指差すと、バーナードは頷く。
「じゃあ、おねがい! もう一回、蒸気機関を稼働させて!」
 従事たちが籠をルナの蒸気機関に格納すると、派手な蒸気を上げ始めた。ぷしゅぷしゅという力強い音が響き始める。
「こりゃあ・・・、なんですこれ? 8本シリンダーとかですか?」
「12本」
「そりゃあ、オーバークオリティなきが・・・」
 おまえに言われたくない、とは流石に思ったのだが、それでも恐れを感じていない表情を見て、ああ、たぶんこのへんは想定内なんだろうなぁと思う。鉄籠を外させ、注水をして、蒸気機関を文字通りクールダウンさせていく。それを遠巻きに見ていた少年たちがバーナードのところへよっていき、細かな指示に頷きながら、重いモーターを設置場所に運んでいく。
「それはそうと、あの鋼材は何なのですか? ずいぶん積んでますが」
 目ざとく竜車に積まれた鋼材を見つけたのはさすがだった。
「ごめん、忘れてた! あれ持ってきたのも用事の一つなのよ。ダマスカス鋼。ペネスのシルバの工房でおもに使うつもりなんだけど、この工房でも試してみて。シャビから運んだの。うちに工房ではすごい評判だったわよ。テストした数値を聞く?」
 さらっと数値をいうと、バーナードは青ざめた。
「なんですかそれ」
「長期契約するつもりだから、発注したければわたしに言って。船便で運ぶつもりだから1月ぐらいは到着まで時間がかかるけど、ハッカビー兄弟は40ミリと25ミリのシャフトがほしいと言ったわ」
「うーん、40ミリってちゃんと理解していってるんですかねえ、その数字じゃあ太すぎでしょう」
「ああ、半信半疑なのよ」
 こういう突っかかるところが面倒なのだ。
 それでもたぶん、数字から40ミリは意味が無いと思っているところが、天才なのか馬鹿なのかわからないところで、ルナはいちおう干渉しないことにしている。
「発注は好きな注文をして」
 バーナードは考えた。
「では25ミリから、1ミリ刻みで15ミリまで」
 わかっていたけど、めんどい。

 バーナードのモーターが設置されていくと、いよいよこのシステムの中核部分が揃い始める。それはわくわくする光景で、ほんとうに発電機側のモーターと電動機側のモーターが電力をやり取りできるのかという、誰も試したことない再現に立ち会うことになる。
 サウスの理論が正しければ、何の問題もないはずだ。
 それでも、実際にそれが再現できる光景を見たものはないのだ。
 バーナードの言によれば、旧式の蒸気機関で試しているようなのだけれども、それでも実際に商品として売るレベルで稼働した実績はない。お金にならないならばそれは存在していないものと扱われるのが、シドだ。
 心細くて、シルバに祈る。
(失敗しちゃったかなぁ。12本シリンダーは無謀すぎた? だって、パワーは必要でしょう? でもさ、バーナードはちゃんとやってくれるよ!)
 もうわからなくなって、機材を設置している所を手伝うんだけれども、凝り性のバーナードの工房の仕事は理不尽なほど整然としていて、ミスはたぶん起こらないとわかる。蒸気機関と発電側のモーターをつなぐチェーンが装着されると、もうやることがなくなる。それでもバーナードは執拗で、チェックリストをもたせた少年たちに最終チェックをさせた。
 OKでーす、の声があちこちから聞こえる。
 最後の一声が聞こえたのを確認して、バーナードはわたしを向いた。
「耐えられますかねぇ。どれぐらい試してみます?」
 わたしの蒸気機関には問題がないことは前提の発言だ。
「そうね、夕暮れまで、それで充分でしょ。わたしたち、まだ朝ごはん食べてないの、突貫でここまで来たから。パンとお茶だけの質素なものでいいから、ごちそうしてくれない?」
 たぶん、こう言うと、この工房は恐ろしいほどに凝るだろうなと、思ってはいたのだ。
「朝食の研究はあんまりしていないので、ご期待には添えませんでしょうけど」
 ああ、こわいことを言っている。

 お招きされた卓で出されたのは、バターの効いた焼いたバゲットの上に乗せられた、塩麹まみれのイカゲソで、ほどよく唐辛子とガーリックが混ぜられたものだった。
「なんですかこれ! ラスペでお店出してくださいよ!」
 セレンが感激するのに、わたしもこれはファストフードとして優秀だなあと、思ってしまう。実際的に言うと、焼き立てパンじゃないとこれはできないので、屋台ではたぶん無理なのだが、セレンの感激はよくわかった。
 バーナードは調子に乗って、お昼はどうしますか? と聞く。
「パスタ!」
 これはセレンだ。
 うかがうように視線を向けられるので、もうちょっとひねろうかと思う。
「ミートソースの一番うまいやつを」
「時間かかりますよ、いいですか?」
 まだ朝だろとは思ったけれども、煮込む始めると時間がかかるのかもしれない。
 ちらっと見ると、大量のトマトソースに香草を混ぜ始めて、配合はわからない合い挽き肉を混ぜて、オリーブオイルでいためていく。しばらく焼き目と火を通すと、だいたい美味いミートソースになる。
 トマトがだいたい美味ければミートソースは美味い。
 もちろん、オイルは大切だけれども。

「ルナさまって、シルバさまの仕事をしているときはいつも嬉しそうですよね」
 耐久試験をしてる間はだいたいは暇だ。
 それでセレンとのんびりとお茶を飲んでいるのだけど、セレンはいつもどおりキツくて、挑んでくる感じが心地よくはある。
「なにか問題があるの?」
「いえ、なんでこんな仕事続けていられるのかって、疑問に思ってしまって。蒸気機関の設計しているときのルナさまの集中を見てしまうと、しかたなくやっていることがまるわかりなんです。でもシルバさまの仕事は別。楽しそうなんです」
 しばらく考えるが、自分のことなんて観察していない。
「なにを言っているかわからない」
「自覚がないんですね。ルナさまは、この仕事を「あなたが作った」と理解していないのです。ルナさまとシルバさまの会話は聞いていました。ルナさまはやるべきよ! と言ったのですよ。お金なんてわたしが集めるから、心配しないでって、格好良かった。ルナさまのようになりたい」
 どぎまぎするというか、だいたい褒められるのは照れる。
「し、シルバの名前で取引すると、だいたい成約するのよ。わたしはシルバの名前を利用しているだけ。この前の蟹伯爵との出資交渉でも、シルバが関わるのか聞かれたし」
「蟹伯爵?」
「ああ、有力な出資者よ。蟹が好きだから蟹伯爵。正直、外観でたぶらかしているの。でもわかるでしょ? わたしが好きなのは外観とか気しない人なの。セレンはたぶん、子供でなくなれば、大人になれば、ぐっと魅力的になる。でもそれで仕事してほしいとは思わない。あなたは、わたしからみればもっと魅力的だわ」
 セレンはぐっと言葉を謹んだ。
「殺し文句がお上手ですね、ルナさまは・・・」
「本気よ。シルバと仕事していて楽しそうに見えるのは、どんな無茶な提案でもシルバの名前を出すと、全部通るからでしょうね。わたしはただ話に行っているだけ。そこにシルバがあると全部通るの。わたしは何なの? と考えてしまうわ。いったい、数千キロを飛んできたわたしはなんなの? って。シャビで実感したでしょ?」
「それは違います! ルナさまはルナさまです! もっとご自分を大切にしてください! あなたさまが、シルバさまを作ってるんです! あなたさまがシルバさまのすべてなのです! なんでわからないのですか!」
 衝撃というものは、直撃を食らうとよくわからない。
「わたしは」
「言い訳しないでください!」
 考える時間はあった。たぶん3分ぐらい。その中で、シルバとの関係を整理できたかと言われると厳しいわけで、目の前の閻魔大王が憎たらしくは思えた。
「好きなんですか? 嫌いなんですか?」
 究極の問題に答える。
「すきです・・・」
 セレンは清々しく笑った。
「予定通りです」


 えーと、大変遅れました。
 端的にいうと、木曜日ぐらいにできていた文章があまりにもひどかったので、土日で立て直しが必要でした。それでも直りきっている感じはしないのですが、まあ、この辺がタイムリミットです。
 しかしなんでこんな消化試合のような文章を書くようになってしまったのだろうと。先週はきつかったけれども、まだましでした。たぶんそのきつさから逃げたくて、いい加減になってしまっていたのですね。
 もともと、このお話はルナとシルバが、産業革命期時のスタートアップとしてどんなことをしているのか、ということを掘り下げるために書き始めたものでした。それはわたしが特許法が制定された時代が異様に好きで、その時代の資料を溺愛しているから生まれているお話であったりするのです。そういう意味では、かなりハードなスチームパンクな話になっているのですが、もうちょっと掘り下げたい地点に踏み込めていないなあという感じはしてしまうのです。
 ただ慣性の法則みたいなものはあって、スタートした時点では予定していなかった話題にいまから踏み込むのは無理だろうと、いま断念している感じです。このお話は第三作のプレストーリーなので、第三作で語るんですかねえ・・・。まあそういうことが大量にあるから、書きたいと思うんですね(^_^; いろいろと技術面では難しいところもあるのですが(本来はルナ視点で書かなければいけなかったのに、シルバ視点で書かなければいけないとか)、まあお楽しみにしていただければ幸いです。

 さて、土日使っちゃったぞ、次は間に合うのか?
 この綱渡りって、案外楽しいものだなあと思っていたりします。


| 自作小説 | 13:01 | comments(0) | trackbacks(0) | 昨年の記事
 『あらしにあこがれて』10

 鋼板を満載した竜車が工房にたどり着くと、なぜだか歓声がわいた。待ちわびたように顔を出した工房の面々を見ていると、ふしぎな光景に見えてくる。
「なに? どうしたの?」
「ああ、ルナさま、そのダマスカス鋼の数字を知りたいですか! 信じられません! 丁寧に浸炭した鋼材よりも、果てしなく上の数値を叩き出したのです! 引張強さもいいですし、耐力もいいですし、うかれてひねり耐性も調べてしまいました!」
 ルナは理解できずに、工房長の肩を掴んで落ち着こうと言ったのだが、落ち着きが必要なのはルナの方だった。セレンに荷を解くようにいい、それで了解を得たと思ったのか、工房の誰もが群がり始めた。
「ハッカビーにも、バーナードにも持っていくから、全部取らないで! 発注すればいくらでも運んでもらえるから! 欲しいものがあったら、わたしに発注して! ただし、船便よ! 一月はかかる。それは了解して!」
 それで混乱は収まった。

「うちの工房では大混乱だったわ。争奪戦というの? 性能テストをしてもらったの。その数字がどうもすごかったらしくて」
 ルナは疲労困憊で言う。
「どうもお疲れのようで」
 ハッカビー弟は気を利かせるが、兄は無言を貫く。
「ポンプは軽い方がいいの。鉄の量が減れば軽くなるでしょ? 鉱山ではどこで出水するかわからないでしょ? そうしたら、すぐに運べるのがいちばん。そのためには軽いのがいいの。テストしてみて。サンプル置いておくから。うちの工房の評価を鵜呑みは嫌でしょう? 信じられる? シャビでは10ミリ鋼板は使わないというの。5ミリで十分だって。どんだけ強靭なのよ?!」
 兄はしばらく考えていたけれども、口を開いた。
「40ミリ径と、25ミリ径のシャフトを。それでテストします。いやですか?」
 ポンプはシャフトなのだ。
 それで武者震いをした。
 なんだ、気付いたらそれなりの工房を抱えていた。
 鋼材一つで劇的に変わる、利益になる宝の山が目の前にあった。それを活かすも殺すも自分なんだと思うと、その重さに怖くなった。セレンと一緒になって鋼材を降ろしながら、置いていった鋼材の在庫管理をしはじめると、気が紛れる。
「じゃあ、シャフトは発注しておくから。他に欲しいものがあったら、すぐに言ってね、いつでも回ってくるから、わたし工房を見ているの好きだし」

 シャビの工房に発注をするというのはけっこうな手間がかかる。
 そもそも数日居合わせただけの工房だし、こっちをどれだけ信用してもらっているのかもわからないし、相手がどれ具合の幅でこちらの要望に応じてくれるのかもわからない。
 それでも真剣な儲からない工房の発注に応じなければならないし、わたしはだいたい嫌われているのだ。
「どうするんですか? なんか誇大妄想だけが発展している気がするんですが」
 セレンの鮮烈さには、ちょっとイラッとする。
 わたしは正直助けが欲しかったのだが、冷静に考えるまでもなく、セレンに権限を移譲する以外の方法が思いつかなかった。いいか、ルナ、よく考えろ、どうすれば工房から莫大な利益を得られる? どの方法が1番効率よく利益になって誰もが幸福になる? そのために捨てるのはどこで、犠牲にするのはどこか。答えがあるはずもない。どこも大切なわたしたちなのだ。
 ルナはためいきをついて、セレンを見る。
「あんたは、ニホに相談しなさいよ。わたしはペネスに行く。それまでに話をつけてきなさい。わたしにおんぶ抱っこは重いの。横暴なのは分かっているし、私の名前はいくらでも使ってもいいし、責任は取るから、あなたはもうあなたの名前で仕事をする時期よ」
 セレンは黙り込んだ。
 正直この年令には酷だ。
 それでもわたしはもっと幼い頃から、何故かそれをやる羽目になった。
「わたしは、じゅうぶん、でしょうか?」
 言いたいことが分かって、思わず抱きしめた。
「ど、どんだけ、買われてないと思ってるのよ・・・」

 ラスペの立ち食いの屋台はルナには慣れたロケーションで、大抵はピザのような粉物を食べるのだけれども、この日はたまたま汁物の麺を食べた。大きな海苔が3枚も乗っていて、食べ方に困ったのだが、スープに浸すとうまかった。
「まいど!」
 小銭が足りなくて、変な払い方なったけれども、お札を払って終わる。
 なんか、蜂の巣を叩いている気がする。それはセレンを焚き付けているのもあるだ。いいのかと考えると、仕事だろとしか考えが返ってこない。
 すぐ間近な未来に明らかな敵がいる。それはボルニアだったりシドの奴隷商人たちであったりするのだけれども、それはシルバが見ている世界と違う。あの馬鹿は、どちらも敵ではないと思っていて、世界は丸く収まると思っている。あからさまに侵略をしてくる騎竜兵団を敵ではないと思うのはシルバのおかしなところだが、そもそもボルニアがシドの奴隷売買以外の理由で滅ぼそうとするのかがわからない。
(なんか決定的な原因があるに違いない。誰に相談すればいいのだろう?)
 あらしにあこがれているシルバを見て、あれのアンカーにならなければと思っている自分がいる。それは同じようにセレンに期待することだし、年長者の期待のしすぎなのかもしれない。
「機械のテストを終えて宿舎に戻ったら、特訓をするわよ! 兄の工房に属している限りは、これは必須なの! あらゆる工房の千の問に答えられて、初めて一員なの」

 千の問というのだいたい大げさだけれども、数百の問をひたすら浴びせ続けられる数日間は地獄のはずだ。セレンは学がないことがコンプレックレスのようなのだが、100%の正答率を出す変態はいない。
 それで問を出すたびに問と正答を並べたリストを渡してやり、体系だって整理してやる。そんなながら作業をしながら、ああ、これはいいマニュアルになるなあなどとぼんやりと考えるのだが、その間にもやらなければならないことが山積みだった。
 まずは機械のテスト。
 ハッカビー兄弟の工房から搬出したポンプを桟橋に運び、わたしが設計した蒸気機関と合わせてみる。のろのろと進む竜車の荷台に揺られながら、あいつちゃんと動くかなあと、自分の設計した機械のことを考え、セレンに質問をする。
「高性能な電動モーターを主に作っている工房は?」
「えーと、バーナードさんですよね」
「そうそう、あの工房は凝りすぎるから大変なのよ、まあ高級品作っている分にはいいのだけど、そうそう高いモーターって使いどころがなかなかないのよねえ、だから売れない。今回みたいにセットにしてやらないと、いけないのよねぇ」
 もうメモをとるのはセレンがやるようになっていた。
 リュディアからやってきた紙にペンを走らせ、書き終えると慎重に荷台に置いた。
 ルナはセレンを話し相手に自分の知識を吐き出しながら、次第に自分たちを取り巻いている状況がどうなっているのかがつかめ始めた気さえしていた。なんだ、案外わたしが整理していなかっただけなのかも。
「ルナさま〜!!」
 遠くから呼び声が聞こえる。あれ? ついた? と聞くとセレンは慎重に頷く。
 幌から顔を出すと、ぴかぴかの蒸気機関が眩しいぐらいに陽光を反射していて、水面のそばに鎮座していた。隣に竜車を寄せると、低速ギアを噛ませたクレーンを寄せてだいぶ年季の入った蒸気機関を作動させる。
「結構重いよ! 慎重にね!」
 ポンプの下にある木組みのパレットに鎖を通し、慣れた面々がてきぱきとポンプを新作の蒸気エンジンのそばに降ろす。すると工房の人間がポンプの接合部に蒸気エンジンの軸をジャッキで合わせ、ゆっくりゆっくりと接合していく。凹に凸を入れる。プラスドライバー、マイナスドライバーと同じ原理だ。
 機械の設置が終わると、油紙を分厚く重ねて針金で補強したホースをポンプにつなぎ、川面にそれを入れる。
「やるか」
 許可するのは必要で、それで石炭班が動き始める。石炭に着火するには時間がかかる。それで、せわしなく動くのだけれども、こわいぐらいの火種を用意して、それを盛大に燃やしてやる。石炭と石油が違うのはここだ。石油はマッチを寄せるだけで爆発する。
 石油というかガソリンエンジンの開発者はいたのだけれども、あまりにも不安定すぎて実装化を投げてる。エネルギーの高いものはだいたい不安定なのだ。爆発するし。壊れるとお金かかるし。
 燃え始めると石炭は、火が消えない。
 それでもやっぱり石炭以外の方法がないので、炊くようには言わないのだけども、無言のうちに石炭に火を灯すように話が進む。目の前の蒸気機関に石炭がくべられ、熱源になっていくのをぼんやりと見つめる。
 蒸気機関が徐々に出力を上げていき、設計通りに稼働していくのは快感だ。
 ポンプは予定通りに水を吐き出し、全員の拍手が湧く。それでも、なんと言ったらいいのだろう、これはシルバの望んだものなのだろうかと考えると、そこに至ってないと思ってしまう。なにかわたしの中にまだ見ぬシルバの姿がある気がして、それに足りないと感じることが、わたしには苦痛なのだ。
「まだ、これで喜ばないで」
 ついそう言ってしまう。


 えっと、今回は厳しかったです・・・。
 毎回順調にすこしずつ遅れているのですが、いよいよ全力疾走しなければ予定のタイムに間に合わなくなり始めた感覚です(^_^; たぶんすこしずつ物語が複雑になっていき、書かなければならないことが雪だるま式に増えてきたのでしょうか・・・。
 まあ、書けてはいるから、あとはここからラストスパートで息が続けばいい、などと考えています。

 作中で、鋼板の評価をしている部分が出てくるのですが、ここで使われている用語はJIS規格の用語です。いちおう工学部だったので(まあ今の仕事でも使うのですが)、そういう所はいちおう本物っぽく書いています。

 残り2回か、3回ですねぇ(そう考えるとすこし楽になる)。
 そろそろラストスパートに入りますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
(そして走りきれると想いたい・・・)


| 自作小説 | 15:57 | comments(0) | trackbacks(0) | 昨年の記事
 『あらしにあこがれて』9


 ラスペに空路で着くと、ルナは5ミリの鋼板を一枚持ち上げて、それを胸に抱えた。
「セレン、竜車を調達してちょうだい。これ、工房まで運ばないといけないから。わたしは一足先に工房の様子を見てくるから」
「はい」
 背丈ほどもある鋼板を抱えて歩く姿は、たぶん異様だろう。
 それでも兄パルの工房はそれなりに名は通っているので(儲かってないけど)、後ろ指を指して笑うものはいない。それよりもダマスカス鋼を真っ先に届けてやりたかった。わたしは工房が好きだし、思い描いていたものが形になっていくことは好きだった。
 それに設計図を渡した蒸気機関がどう仕上がっているかを見るのも楽しみだ。
 胸がすく。
 鼻歌を歌っていたかはわからないのだけれども、わたしの工房となっている貴族の旧邸宅にたどり着くと、ウキウキが止められなかった。
「みんな! 帰ったわよ! 大収穫! みて! これがダマスカス鋼! びっくりするぐらい安く買えちゃった! もし性能がよかったらじゃんじゃん使っちゃってちょうだい!」
 ハイテンションに唖然とする、工房の面々の間を歩きながら、
「蒸気機関はできてる?」
「あ、ああ、はい、あそこに……」
 広間の中央にある設計したとおりの蒸気機関を見て、無骨な機械の表面がピカピカに磨かれているのを見て、わかってきたなと嬉しくなる。
「もうテストはできる? できるなら河岸に運んで、ポンプと合わせてみるから」
「ポンプの方はもうできていると聞いています」
「まあ、もともと昔使ったやつをちょっと丁寧に作るだけだからね。ハッカビーには、ちょっと儲けさせてやらないと、いい仕事するから。すぐに鋼材を乗せて竜車をよこすから、蒸気機関を運べる準備をしておいてね。それからポンプを回収して、河岸の桟橋に。うちの7番桟橋に。ハッカビーには通しておくから」
 手はずを整えると、ふいに工房の職人が聞いた。
「このダマスカス鋼はどうするんですか?」
 ルナはしばらく考えるが、うまい方法が思いつかない。
「好きにして。別に転売してもいいのよ?」
 さすがに溜飲を下げた。
「技術者ですから、端くれですけど」
「じゃあ、頼んだ。ぜんぶ任せるから、なにに使ってもいいから、でもこの鋼板は自信があるから、おもしろく使ってね」
 ルナは簡単に言うが、蒸気機関の第一人者だけに、言葉が重い。
 工房の誰もがわたしなど気にもせずに、熱心にダマスカス鋼板の特性を測定する算段に入るのを眺めながら、わたしはこの場所が好きなのだという想いを新たにする。
「じゃあ、頼んだから、ハッカビーのところへ行ってくる」
 軽く声をかけても誰も聞いていない。
「スイッチ入っちゃったみたい」

 それから返す踵で、ポンプ屋のハッカビーの邸宅に向かう。
 入ると別案件のポンプの試運転中で、わたしが過去に設計した蒸気機関にポンプを繋いで、たぶん耐久テストだと思うのだが、張り詰めた様子でポンプの音を聞いている。
 暗号にも似た専門用語が飛び交い、それを聞いて設計者のハッカビー兄弟が頭を抱えている。わたしはそれをしばらく見ていたのだが、二人のところまで歩いて、声をかける。
「トルクはどの辺まで耐えられそう?」
「え、ああ、ルナさん、帰ってたのですか。新設計の蒸気機関、見ましたよ。でもあの馬力に耐えられるかなあ、ちょっと厳しいかなあ」
 ルナはすかさず言葉を挟む。
「じゃあ、朗報。ダマスカス鋼の製板工房をつかまえたの。ちょっと試してみてくれない? サンプルはもうすぐ運ぶから、もしよかったら、なんでも発注してちょうだい。もしシャフトが欲しければ言って? 径さえ言ってもらえれば、それを用意してもらうから。強度の強いシャフトはほしいでしょ?」
 ええ、まあと戸惑いがちに言うのは、精密な加工が必要なシャフトは外注したことがないからだ。
「別に、精度に問題があるなら、ここで直すのは問題にしないわよ?」
 ルナは軽いように見えて、独裁者的なプロデューサだ。
 サディストとは言わないけれども、押しが強くて、話し相手に何かを押し付けるのを苦に思わない。シルバと不思議な協調関係にあるのは、なにも言い出せない奥手なシルバを、ぐいぐいと引っ張る力があるから、というのは変な見解だろうか。
 ハッカビーの工房の少年が、軽く言う。
「じゃあ、サンプル持ってきてくださいよ! 現物を見ないと、発注もできません!」
 ハッカビー弟は申し訳無さそうな表情をしていたが、ルナは気楽に片手を上げる。
「まあいいわ。でも、それを使って大儲けして! ダマスカス鋼よ! こんなの使ってるの、ラスペでもうちぐらい!」
 ルナが特異な地位にあるのは、血の問題もあるのだけれども、工房全体の原材料の流れを全部把握している事にある。本人はひたすらにその仕事を捨てたがっているのだけれども、それをできる人が他になくて、やめられない。
 ルナには代わりがいない。
 たしかに突拍子もない性格をしている。
 でも、それが好循環で進んでいるうちは文句も出なくて、代替不能で、ルナはその役割から開放されないでいる。ルナがうんざりしているのはまさにその部分なのだけれども。
「あの、シャフトの径って・・・、いくらぐらいがいいですかね・・・」
 わたしが決めるの!? 少年は怖気づいたが、
「すみません、やはり現物がないと、どうにもならないんですよ」
 ルナの表情を見て、申し訳なさそうに、ハッカビー兄が言う。
「あ、ごめんなさい。いま、竜車を手配して運んでくるから。特性テストが終わったら、欲しいものをリストにして渡して。空路で運ぶととんでもない事になるから、海路になるから、試作機には間に合わないわね。でも、量産機ができたらそれに交換してもらうから、それに間に合えばいい。試作機の納品から1月後でいいわ。それまでに、ダマスカス鋼で仕上げたものが出てくればいい」
 理路整然というのに兄弟が安堵の視線を合わせた。
「できそう?」
「あ、いえ、現物を見ないと」

 セレンが待っているであろう浮遊船の港につくと、荷台に鋼板を満載した竜車が待っていた。セレン一人では搬出は無理だろうだったから、幾ら使ったんだろうと心配になったのだが、どうも賢く周辺の配金している工房から動員したらしい。
 話を聞くと、それがダマスカス鋼だと触れ回っていなかったのが玉に瑕で、それでも十分な仕事をしていた。
「テストするから。まず竜車を工房にやって、蒸気機関とポンプを7番埠頭に運ぶ、それはいい? テストが終わったら忙しいわよ」
「え、えーと」
 ここがオーバーフロウの地点のようだ。
 そうするともう少し前の地点を探す。
「テストをします。それは7番埠頭でします。そこに蒸気機関とポンプを運びます」
 それでセレンは頷いて、わちゃわちゃと動き始めた。
 わたしがしていなかったというかサボっていた連絡までいれ始め、お金の交渉まで始める。そこまでくるとわたしはやることがなくなる。
(ニホと組んだら、いいコンビなんだけどなあ)
 工房の有望格はセレンを始め大量にいる。しつこくニホといい仲にしたがっているのは、ニホと組むと良さそうだから。セレンは律儀で細かい数字の計算をさせたら間違いは起こらない。ニホは、大雑把だけれども本質を掴む力だけはすごくて、大局観だけは誰にも負けないホープなのだ。
 正直に言うとルナはセレンとニホに、自分とシルバを重ねている。
 ああ、こいつは不器用だなと、自分と同じだなと思う時に、救いであるシルバを重ねてしまう。セレンはたぶんニホに、自分にはない才能を感じるだろうと。
「ニホに相談しなさいよ。あなた、ニホを侮りすぎ」
「なんで、そんなに言うんですか!」
 さすがに10歳も年齢が離れていればわからない。
 わたしが思春期の頃にシルバにどう接していたのだろうと考えてしまうし、たぶんセレンがするようなことしかしていなかったようなきがするのだ。
「聞かなくていいから、聞きなさい。誰だっていつも足りないの。一人でできる人なんてどこにもいないの。あなたの良さを褒めようとすると、どうしても他の人が頭に浮かぶの。その人と組めばどんだけいいかって」
 セレンはためらった。
「じゃあ、ルナさまは、なんでシルバさまと公の関係にしないんですか!」
 どきりとして、いろいろと言い訳は思いつくのだけれども、説明として説得力のあるものはない。
「あなたは全部見ているでしょ」
 これはヤケクソに近かった。
「わたしはシルバを搾取するしかないの! 罪の意識なんて、もう無限に感じている! でもこのあの無能な兄の工房群を維持するにはそれしかないの! どうしたら良いというの?! わたしがシルバにどう謝ったらいいの? 謝って、好きですと言えば、許されるの!? そんな簡単なの!?」
 セレンは圧倒されて、それから内省して、考えた。
 たぶんこの子は賢いのだ。
「・・・、はい・・・、シルバさまは全部許すでしょう・・・」
 それを信じるには時間がかかった。
「・・・、じゃあわたしが言ったら、あなたもニホに告白する?」
「なんでそうなるんですか!」
 わたしは冷静なつもりだったけども、冷静なはずがない。それでもしばらく考えて、正直に言う。
「ニホはシルバに似ているの。わたしはシルバが好きだけれども、ニホもいいやつだなあと思っている。それをセレンが助けてくれれば、工房が回るでしょ。リラと話したとき、わたしがシャビに飛ぶわよと言った時に、あなたはそれに備えていた。その時にわたしと同じ考え方をするんだと思った。なんでわたしの後継者と思ってはいけないの?」
 セレンはひたすらに黙っていた。
「不快?」
 セレンは黙っている。
「お金の計算は叩き込んだとは思っているから、会計の能力でセレンよりも上回る人はいないと思うわ。あなた才能あるわよ。数字で間違ったことがないじゃない。あなた以上を見つけるのが難しいの」
 ルナのそばにいて、セレンはその数字の正確さがもたらす秩序は見ているのだ。ルナの愛弟子という地位は否定し難いが、それで人生を決めてしまっていいのかと思う。
 難しい問題だ。


 今回はあんまり書くことがないのですが、一週間に15枚程度とか短いなあと、そのへんですかねえ。
わたしが尊敬する作家の中で、1番作品を書くペースが速いとされるのが、ディック・フランシス(故人)の年一作(長編)なのです。それも本人が一度書き上げた作品を、第二稿、第三稿と書き直すのは信じられないと言っているので、ほぼリトライなしのペースだと思われるのですが、だいたい一週間に15枚ならば、同じペースなのではないかと思ってしまっているところがあるのかもしれません。
 もちろん、広い世界を見渡せば、2週間で書いた(長編)などと変態的な事を言っているフィリップ・k・ディック(故人)とかもいるのですが、彼が生活のためにとにかく量を書かなければならなかったことを考えると、それが適したペースだったのかというのは疑問に感じますし、日本語版のwikipediaの作品一覧(ただし邦訳されたもののみ)を見ている限り、多くて年二作が普通のペースだったようです。
 いまふと思ったのは、大河ドラマを小説化したらどれぐらいの文章量になるのだろうということなのですが(もちろん去年の大河ドラマ真田丸を念頭に言っている)、誰かやってくれないですかねえ(他力本願w)。
 なにかとりとめがないのでこの辺で。

| 自作小説 | 13:31 | comments(0) | trackbacks(0) |
『あらしにあこがれて』8



 数日経つとだいぶ馴染んで、だいたい工房がどう動いているのかが分かってくる。
 それでも大人しくしていると、さすがに気にし始める。
「お嬢ちゃんたちは、シルバさんの工房の方なのでしたよね?」
 そろそろ、帰りの便も近いし、本題に入ろうかと思っていた矢先だった。
 ルナはゆったりと考える。
「ええ、まあ、小さな工房ですが」
 老人たちはお互いに目配せをし、一人がゆっくりと口を開く。
「シドの方ではずいぶん名の通った工房だと聞いていますよ。あれから他の工房などにあたってみたのです、シルバさんの工房を知らないか、と。そうしたらずいぶん稼いでいる工房というではないですか、それでピンときたのです。何か相談があってきたのではないか、と」
 なるほどシャビの工房ネットワークというのは情報通らしい。
 それはそうだ、なんたって全世界の浮遊船が中継地とする一大ジャンクションなのだ、この都市は。ルナはおそるおそる聞く。
「ダマスカス、鋼を探しているのです。ふと耳に挟んだものですから、このシャビの古名がダマスカスなのだと、それで着の身着のままで浮遊船団に飛び乗ってやってきたというわけです。ダマスカス鋼というのは・・・」
「ああ、うちで打ってるのがダマスカス鋼だね」
 やっぱりと思うのは軽薄だけれども、気持ちが急くのを止められなかった。
「お嬢ちゃん、その話は昼にしませんか? まだ仕事が残ってるし、もうすぐ昼だ。わしらと一緒に食べないかね? たいしたものはないけれど」
「はい!」

 昼になると老人たちは疲れたというように背を伸ばし、立ち上がって、工房の中央に集まってくる。数人が何処かへと向かい、残りは中央に車座になった。そこに薄く伸ばした円形のパンが運ばれ、それに続いて野菜の籠、ベーコンなどの肉魚類、そして香辛料、お茶が運ばれてくる。
「質素なものですが、好きに食べてください」
 お茶が注がれ、座った先に敷かれた布の上にカップが置かれた。
 老人たちはめいめいにパンに手を伸ばし、そこに禍々しいほどに真っ赤な香辛料のペーストを塗りつけ、ベーコンを乗せ、玉ねぎとレタスを乗せる。
「あー、そのチリソースはたぶんお嬢ちゃんたちには辛いはずだよ。だからそっちの黄色いの、そっちはそんなに辛くないから好きなように食べてください。それと今日はリーズデルからのニシンの酢漬けが入ったんだ。瓶にあるからそっちも試してくださいな」
 黄色いのはたぶんマスタードだ。見慣れた香辛料にセレンは早速手を伸ばし、パンに塗ったくって、ベーコンを乗せ、レタスを乗せる。それを半円に包んで満足気に食べる。
「おなかすいてたんです」
 はきはきというのに、老人たちの頬が緩む。
 ルナはさすがに礼儀としてチリソースに行くべきかと悩んだが、老人たちが汗をたらたら流しているのに勇気が出ず、マスタードと思わしきものを塗って、それにニシンを乗せ、みじん切りにした玉ねぎを乗せた。口に運ぶと、黄色いソースが思いのほか辛くて、多分からめに調合されたマスタードなんだろうなと思いつつ、それでもニシンと玉ねぎとの相性が抜群で、貪るように食べて茶を飲んだ。
「おいしい!」
 もはや茶なのかパンなのか分からないのだが、普段食べる外国人向けにマイルドになっていたシャビの料理よりもずっと美味しく感じた。それですぐさま次のパンに手が伸びる。
「あ、すみません、わたしったら・・・」
「いいんですよ、いくらでもお食べください、そんなに高いものではありませんから」
 許しが出て、すぐさま次のパンをどうするかを考える。チリソースに行くべきか、いやそれは冒険すぎる。でも同じものばかりというのつまらない、たいへん悩ましい。

 しばらく食べていると、満足してきて、老人たちもゆったりと茶を飲み和やかになってくる。すると、工房長と思わしき老人がおもむろに口を開いた。
「ダマスカス鋼を探しに来たと、さきほど聞きました。ですがそうおっしゃる方にはいつも同じように言っているのですが、ダマスカス鋼はシャビで産出される鉄鉱石からではないと作れないのです。これはわしたちにも理由がわからない。試したことがあるのです、何度も。もしお教えした方法で作れなかったら問題になりますから」
「なるほど」
 ルナは多分特殊な成分がシャビ産の鉄鉱石には含有されているのだろうなと思うのだが、それをいちいち解明するのは面倒くさそうに思えた。
「それで、こうお勧めするのです、鋼板はわしらで作りますからそれを買いませんか? と。いかがですか?」
「価格次第、ですかね?」
 老人はゆっくりと頷く。
「では、いくらまでだったら出せますか?」
 ルナはどぎまぎする。
(なんだこの人、手練じゃない!)
 そりゃそうだ、シャビのタルボットギルドが紹介する工房だぞ! 手練でないはずがないじゃないか! あ、でも、紹介し続けているということは、顧客から文句が来ない工房なんだ。あー、なるほどぉ。
「で、では、言い値で買います」
「ルナさま!」
 セレンがたしなめるのを無言で抑えて、繰り返す。
「言い値で買います」
「ほう」
 ルナはすこし落ち着いて、理路整然と話し出す。
「わたしたちは数日この工房を見学させていただきました。その中でわかったのは、この工房は非常に信用ができる工房だということでした。正直に言いますと、もう末永くお付き合いさせていただきたい。長く関係が続くためにはお互いに無理のない価格で合意するのが望ましいと思うのです。わたしたちは最終製品の価格で、いくらでも利益の幅を決めることができます。ですので、まずはあなた様方が無理のない価格をお決めください」
 しばらく老人たちは黙っていた。
 もちろんルナは、言い値で取引できるのであれば、この工房は何か緊急の事態があった時にわたしたちの工房の注文を優先してくれるであろう、という腹はあった。それに価格が割に合わなければ発注量を減らせばいいだけなのだ。
「わかりました。そうですね、この価格でどうでしょうか」
 メモに書いた数字を老人たちは回し、全員が頷いたのを確認して工房長から渡される。
 それは思っていたよりも遥かに安い価格だった。
「えーと、鋼板の在庫はありますでしょうか。この価格で買います、サンプルとして持って帰りますので。セレン、幾ら持ってきたの? どれだけ買える?」
 メモを渡すと、セレンは慌てて計算し始める。
「あ、半分は残しておいてね。輸送運賃がかかるから。海路で帰るわけには行かないでしょ? あのこすっからいトランの船団も流石に荷を見たらふっかけてくるから」
 考えてみればシドでは伝説の鋼板であるダマスカス鋼も、シャビでは一般に普及している普通の鉄なのだ。誰も注目していないだけで、ここではそこいらに満ち溢れている。これは一山当てたかもしれない。
「あの、それで鋼板の厚みはどれほどのものをお望みですか? 在庫には限りがありますので」
「あ、えーと10ミリと5ミリで、在庫あります?」
 一般的にどこでも使われている厚みを言ったつもり。銃に使うのは10ミリなのだけれど、5ミリを試してもいい。もし、5ミリが使えなくても、他の用途で使えればいい。たとえば蒸気機関とか、ポンプとか、モーターとか。
 老人は悩んだ。
「あー、うーん、10ミリは少ないんですよねぇ、厚すぎてあんまり用途がないので。ですが5ミリならばいくらでもあります」
 え? 一山どころじゃなかった?! 5ミリで強度充分なの?!
 5ミリというのは、鉄材の世界では異常すぎて、少なくとも筒内で爆発させることが日常な銃の世界ではあり得なかった。もちろん、5ミリで済むならば、それに越したことはない。銃が軽くなるし、使う鉄が減るので安くなる。
 もし使えるのであればダマスカス鋼は、利益の源泉になる。
 常識的に考えれば、ただの鉄の値段のものが、ただの鉄ではなくなる。
 これを捉えているのは、シルバ工房だけだ。
 ルナには莫大な利益しか見えず、それはもちろん分配されるべきお金であって、配下で冴えない工房が輝き出すのが見えてきそうになった。


 ダマスカス鋼は実はわたしのネタ元にしている書籍では、すでに解明し尽くされた技術と記載されていたりします。まあ簡単に言えば、ちょっと古い本なのですね。最新の情報では、どうも未知な分子構造が発見されたとかで、まだ解明されていないステイタスになっているのが現在のダマスカス鋼です。
 ダマスカス鋼は、ウーツ鋼という特殊なインドの鋼(はがね)がダマスカスに運ばれて最終加工されてダマスカス鋼になります。なので特殊なのはウーツ鋼の方なのです。なので今回ダマスカス鋼として説明されているのはウーツ鋼の話です。
 わたしが律儀にダマスカス鋼を追っているのは、その参考にしている書籍に、トルコ製の銃にはダマスカス鋼が使われていたと書かれているからで、そのへんはルナがダマスカス鋼を追っている理由と代わりありません。

 食べ物ネタは、トルコのケバブをイメージしていたりします。円形のパンというのはピタのことです。もしくはタコス。本当はダマスカスのあるシリア料理で書きたかったのですが、トルコとシリアってだいぶ近いし、実際にシリア料理(正確に突き止められたのはレバノン料理ですが)にもピタに似た円形のクレープ地のようなパンが美味しそうだなあとか、それしか考えていないんですね。

 いま、次どうするつもりだったけと思いながら、草稿を読みながら、ひでーなーw と思っていたりしますw だいたい土日月で次の週の草稿ができるのですが、頭痛いなあとほんとにそういう感じです・・・。


| 自作小説 | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『君の名は。英語歌詞バージョン』を観た!(全開ネタバレあり)



 観てまいりました! 英語歌詞バージョン! 通常バージョンと合わせてこれで二回目ということになります。ですので、みなさん、すでに一回目は観ているものと思い、一回目のときは書けなかった、全力ネタバレバージョンの感想を行きたいと思います。
 えーと、わたしは携帯電話のキャリア替えのついでに行ったので、そちらもちょろっとは書くのですが(ちなみにY!mobile → Freetelです)、そちらは本題ではありませんので、ご了解ください。

 英語歌詞バージョンは期間限定、上映館も絞った形での上映になったのですが、首都圏ではもはや埼玉県の植民地と化した池袋シネマ・ロサでの鑑賞でした。
 観たかったのに見れなかった、という方でも、おそらくプレスにはあまりお金がかかりませんので、DVD二枚組になるか、1000円ぐらい上乗せの同梱バージョンが発売されることを期待して、お楽しみいただければ幸いです。


 ■1回目のときは全体像がよく見えていなかった

 なんで「君の名は。」はヒットしたのか。
 世間一般で様々な論考がされていますが、たぶんあんまり語られてはいない部分がわたしにはとても重要な要素だと思うのです。それは何かというと、

 変態的な編集能力

 です。実はこれには証言があります。
 その証言の元はNHKのSONGSという番組で、主題歌を歌うRADWIMPSの野田洋次郎さんの証言です。
 この番組は録画してあったので、さっきから字幕見ながら書いています。
 こんな証言をしているのです。

 何秒でカットアウトで、何秒で瀧(主人公)がしゃべるから、
 「その後、何十何秒でこうしてください」とかって、
 すごくプロダクトとして精密に作っていたので、
 それはそれで楽しかったんですけど、
 逆にみんなで、ただかき鳴らしたいとか、
 スタジオに入ってワーッてやりたいみたいな欲望が、結構、強まっていって、


 つまり曲に秒単位の要求を出しているのですよね(^_^;
 この変態性が分かるでしょうか。
 たぶんこの野田さんが言っているのは、物語の30分ぐらいのところで流れる「前前前世」のところのことを言っていると思うのですが、あそこに至る畳み掛けのすごさはおそらく計算づくで作られたものなのですよね(明らかにそう証言している)。
 たぶん、あそこに向けて前半部分の構成を作っている。
 あの映画的快感は、何度でも味わいたくなります。
 これってそういう方面が分かる人からすると、あー、こいつMADビデオの手法で一本映画作っちゃったんだ・・・、となるんですが、それがいかに変態的で、超絶技巧であるかというのは、なかなか説明が難しいです。
 と言うか主題歌が映画のど真ん中でしか流れないって、過去に例があった?
 となるのですが、
 もう少し分かりやすい言い方で説明すると、計算しつくされて作られる90秒程度の予告編の作り方で、前半30分ぐらいまで作ってしまっている、30分は1800秒ですから、それがいかに尋常ではない作り方なのか、ということになります。
 これは予告編を見てから、前半30分を見ると、如実にわかります。
 MADビデオの手法なのです(マッドムービーとも言う)。

 ■MADムービー - Wikipedia
 https://ja.wikipedia.org/wiki/MAD%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC

 MADムービー(マッドムービー)とは、既存の音声・ゲーム・画像・動画・アニメーションなどを個人が編集・合成し、再構成したもの。単に「MAD」と呼ばれることも多く、ネットコミュニティにおいてはもっぱらこの呼称が主流となっている。ただしパソコンやCGソフトが普及した21世紀初頭には「手書き(描き)MAD」(後述)という用語が出現するなど意味の拡散がみられる。主にファン活動の一環として行われる。「MAD」とは「狂っている、ばかげている」の意。


 わたしの言葉を信じてもらうならば、新海誠監督は日本のアンダーグラウンドで脈々と好事家たちだけに楽しまれてきたオタッキーなものを全開にして、オタク王に俺はなる! とやり切ったはずが、興収歴代2位になってしまいました、という顛末なのです。
 いやー、わからんもんですねえw
 まあ、ああいうのはゴロゴロあるんです・・・、アンダーグラウンドに。


 ■物語の主役はやはり彗星だ

 えーと、ネタバレ全開モードと警告はしていたのですが大丈夫でしょうか(^_^;
 これは一回目を観ている前提でないと言えないですよねぇ。
 この映画の主なアイデアを、シューメーカー・レヴィ彗星を見て思いついたのだとすればすごいとしか言えないのです。ただ、1200年前に糸守に落ちた彗星の破片が、また1200年後に同じ場所に落ちるか? とツッコミどころは満載なのですが、宮水神社の本尊があった場所も同じようにクレーターですから、あそこにも落ちたのですよね? まあ1200年前に2発落ちたと考えるのが妥当な気がしますが、まあとにかくこの話の重要な舞台は全部隕石が作っているのです。
 とにかく2回目は、はらはらしながら彗星に目が行きました。
 あれ? 1回目はこんなに彗星見てたっけ? と思えるほど。
 シューメーカー・レヴィ彗星映画だとはいいませんが、その災厄を逃れる物語なのだなあと書けば、この映画のゴジラが何なのかはわかると思います。また悲劇を回避できない世界線では、賑わっていた神社の屋台間近に、彗星が直撃するシーンがこんなに迫力があるとは忘れていました。
 蒸発するじゃんこれ! 即死とかいうレベルではなく、蒸発。
 あの恐ろしさはすさまじかった。
 しかし、それを無邪気に美しいと、瀧も三葉も言っているのが、恐ろしい。
「わたしあの時死んだんだ」
 という三葉の言葉も怖いし、お互いがどんどん忘れていくのも怖い。
 離れ離れになる怖さを書いていたから、たぶんヒットしたのだと思う。
 瀧の、
「おまえ、出会う前に会いに来てもわからないだろ!」
 という言葉がとても暖かくて、いちばん好きだったりします。


 ■英語歌詞バージョンどうだったの?

 さて、だいぶ長く書いているので、ちょっと気分を変えて、こっちも話さないとまずいかなと思っていたり(^_^;
 この英語歌詞バージョンは、歌詞は英語で、英語字幕が出ています。つまり、英語圏で流れるものをそのまま使っているのだと。
 まず、わたしは失礼ながらRADWINPSの曲の日本語をあまり聞いてなかったんだなと、まず思いました。
 なので、えっとー、何の違和感もないんですけど・・・、という状況でした・・・。
 大変失礼に当たるのは分かるんですが、洋楽としていいじゃんとしか思わなかった。聞いていてそんなにネイティブと遜色なかったし(わたしは英語全然だめだけど、英語圏の人が歌ってると言われたらたぶん信じる)、むしろ日本語版と発音が違うのが新鮮だったぐらい。わたしの評価よりもネイティブの評価を聞いてほしいと逃げたいぐらい。
 映画は英語字幕だったのですが、わたしも後で気付いたというか、帰り際の声を聞いて知ったのですが、どうも在日の英語圏内の方々がいらっしゃっていたようなのです。たしかにロビーでみると、ああ、たしかに外国人多いなあと。そんな需要があるとはまったく考えてもいなかったというのは、市場が見えてない証拠ですねえ・・・。

 ただ、聞こえてくる日本語と字幕の英語の差は感じました。
 わたしでも分かるレベルの英語なのです。
 象徴的なのは、三葉が瀧になっている時に、瀧の同級生と屋上で話している時に(つまり三葉は瀧がいつもどう接しているかを知らないので)、自分の呼称について、

 「I(watashi)」「はい?」
 「I(watakushi)」「はい?」
 「I(boku)」「はい?」
 「I(ore)」「おう」


 うる覚えなのですが、とあるやり取りです。
 なぜか日本語はIを示す言葉の種類が多いということなのですが、これ以外には、「じぶんは」とか、これはイオで使った「あたしは」とか、時代劇で多そうな「我は」などが考えられます。
 わたしも、わたしを使っているのは、中性的でありたいなあと思っているだけで、とにかく中立であろうとすると、わたしになるのです。これは北村薫の影響ですね。実際の人生ではなんですかね。おれではないので、ぼくですかね。でも、かっこ悪いです。わたしのほうが格好いい。

 また、四葉(妹)が三葉を起こす時に、うる覚えなのですが、「はやく起きろ!」というのが「ハリーアップ!」なんですね。これは意味の話なるのですが、「急げ!」という意味が英語にはありますよね? 適切なんだけれども、不適切、その辺の問題がどうしても考えてしまいます。日本語の言葉としては「起きろ!」+「はやく」なんですね。

 たぶん英語版の字幕は、思春期向きの映画として中高生あたりをターゲットにして、簡単な言葉で簡潔に伝えているのではないかと思います。ただそれを読んでみると、ああ、日本語ってこんなに含みを持たせられるんだ、と感心しました。
 もし1000円上乗せの同梱版DVDが発売されるなら、1000円ぐらいなら払ってもいいかな、ちょっと勉強したいかなと思うぐらいには。


 ■終盤の構成の作り、なんで瀧は三葉を好きになったんですか?

 たぶんこれは触れている文章を読んだことがないのですが、瀧はいつから三葉を好きになったのだろうという疑問は結構ちらほら書かれていたのですが、それに明快に答えている文章を見たことはありませんでした。
 たとえば中盤あたりで、瀧のバイト先の先輩が、瀧くんはたぶんわたしのこと少しだけ好きだったのだけれども、今は別の子が好きみたい、というセリフがかなり綱渡りすぎて個人的には好きなんですけど(書き手として)、あの付近ではまだ確定してないだろ、と思うのです。
 ただ、瀧は自分の世界に侵食してくる三葉が最大の関心事になっていて、奥寺先輩それに対して部外者だという印象を持ったのだろうなあと思います。あのへんかなり綱渡りですよ(^_^; この奥寺先輩の反応からして、それほどに瀧の意識は三葉に向いていたのですね。それは、自分の生活をぶっ壊されるおそれがあるからです。
 作中で、入れ替わりが起こるのは宮水家の女系の人間に起こる現象だと、明言されています。つまり瀧くんは被害者で、完全に受動的な立場にいるのです。簡単に言えば巻き込まれちゃったけど、惚れちゃったから頑張るいい人。
 まあすべて説明してしまった気になるのですが、瀧くんにとって、自分の人生を触ってくる人なのです。それは定期的に入れ替わるからです。いろいろな物語上の仕掛けを考えて、これほどそれは関係が深くなるだろうと思う、設定はないのです。そこに気付いたかどうかはわからないのですが、そこを主軸においたのは、実際の所、前例は大量にあるのですが、それをアンダーグラウンドから、表舞台に出したのが、新海誠だった、と思うのです。
 つまり、新しい発明ではない。
 日本のアンダーグラウンドを、世界に紹介して成功したのが新海誠だと、わたしはそう思います。それがわかるのは、日本版ラディットである、はてなブックマークだと思うのですが、ちょろちょろと読んでいると、ああ、新海誠がなにをしているのかわかったと、書かれたコメントをしばしば読みます。
 どこにもアンダーグラウンドはあって、それはきまって豊穣なのです。


 ■携帯電話のキャリアを変えた話、短く。

 Y!mobileからFreetelにしました。
 理由は3点です。

 ・Y!mobileは明らかに、運営がおかしかった。
 たぶんシステムがおかしくなっていると思うのですが、デビットカード決済で料金が決済された数日後(感覚的には一週間後)に、決済価格が決まりましたというメールが来るんです。それで、あれ払ってなかったっけ? という気分になるというのが不快すぎて、こんなこともできないやつに金を払いたくはないと思いました。
 これがまず第一。
 あきらかに会計システムがおかしい。

 ・Y!mobileは、帯域を使い切ると、128kbとかそんな生易しいレベルではない制限がかかる。
 これは、ほとんど利用できないレベルに制限がかかると言われますが、簡単にいうと、お金を払って制限を解除するほとんど帯域がかからないはずの手続きのレベルでも10分ぐらい待たされるという狂気に等しい制限かかることです。ウィルコム時代はこんなことはなかった。

 ・たぶん、回線を借りる側のサービスは、政府の規制でこんなめちゃくちゃな規制ができなくなっているのだと思われる。なので、とにかくY!mobileとUQmobileをつかうなと。
 UQmobileがそこまで悪質かどうかはわからないのだけれども、Y!mobileは悪質です。

 結果的にSIMフリーな、Freetelにしました。ただ、このキャリアも問題がありまして、クレジットカード決済しか受け付けないのですね。ホームページを見て嫌な予感はしていたのですが、実際の店舗でそう言われて、(池袋だったので)パルコカード作ってきてくださいと言われて衝撃でした。
 わたしはその助言どうりにパルコカードを作ったのですが、たぶん楽天カードとかを作っておいて望むのがのぞましいです。
 Freetelはクレジットカードオンリーです。

 結局、2時に出て、クレジットカードを作って、「君の名は。」を見て、クレジットカードを回収して、携帯の受取は時間がかかりますと言われて、その後すごい笑顔を見せられて、カメラ店て紙袋を渡されたときは嬉しかった。
 たぶん言ってはいけないのだろうけれども、その方の笑顔がすごくて、中国系の人たちの外交的なオープンな、太陽的な輝きがすごくて、すごいとしか言えなかった。

 恨み言は一切ないんですが、言っていいのか迷うのですが、Freetelは直販のほうが安いです。つまり量販店で端末を買ってはいけない。さらに言うと、直販よりamazonの方が安い(なんでだ・・・)。
 Freetelが悪いのではなくて、販売チャネルにより、値段が違うのです。

 まだ一週間も経ってませんが、とりあえず今のところ問題らしい問題は発生していません。まあ、一回今月分が引き落とされてみないとなんとも言えないのですが、概ね不満はありません(ちなみに機種はReiです。だいたい2、3年前のハイエンド機相当らしいです)。

 たぶん、2月分の決済が済んだら、ロケットモバイルの神プランSIMを入れると思うのですが(この辺がSIMフリーのいいところですね)、ようやっとY!mobileの呪縛から開放されました。しかし京セラのごついのを使っていた身としては、こんな軽くて薄いの大丈夫なのか? という不安だけが唯一の不安です。

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