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 『あらしにあこがれて』17

「なんで、わたしとシルバの関係に意味があるの?」
 ルナがシルバとの恋仲を公式に否定するとリラはそわそわとし、マシンガンのように話し始めた。
「だっておかしいじゃないですか! どうしてそこまで献身的になれるんですか? 紙に書いてあるだけでダマスカス鋼を探しに行ったり、資金を調達するためにあちこちの貴族に出資を募ったり、どんだけ働いているんですか?!」
 まるでそれが自分の問題であるかのように噛みつき、それは好奇心というよりは、自分の問題をルナに重ねていて、解決策を提示してくれないかと縋るようだった。
 もちろんそんなに甘えられても困る。
「これは兄の工房のことなの。その稼ぎ頭がシルバ、兄の工房を回すためには、シルバがお金を儲ける手助けをしなくちゃいけない。なにかおかしいことがあるかしら」
 リラはしばらく黙った。
「でも、ルナさんの入れ込み様は異常です」
 うるさいわね。
「だって、お話いただいた鉱山用の、えーと」
「排水システムかしらね」
「それです、それだって、ほとんどルナさんが決めてるじゃないですか! ルナさんが勝手に動いて全部まとめてきたんでしょ?」
「だって儲かるんだもん! なんで工房全体で儲かる方法を見つけたら働いてはいけないの? わたしはお金が欲しいの! 工房は黄金を飲む竜だわ。いくらあっても飲み尽くされてしまう。お金がなくなると餓死しちゃうの」
 それでようやっとリラはルナの状況を理解し、舌鋒を収めるが、ぼそっと聞く。
「でも、シルバさんが好きなんでしょ?」
 しつこい。

 蟹伯爵の鉱山に到着すると、そこが最良の事例になるとわかった。
 坑夫である奴隷たちはガリガリに痩せ細っていて、人間として生きているのが信じられないほどだった。
「とにかく、奴隷の消耗が激しくて、カネがかかって仕方ないのですよ」
 激しい軽蔑はするのだけれども、こんな奴らに売らなければならないのかという動揺はどうしても生まれてしまう。奴隷が消耗するだと? 人だぞ。お前の所有物じゃない! 全員に人生があるんだ。
「き、機械は消耗しません。故障したらいつでも飛びつけます。こんなのを放置なんて・・・、」
 暗にこれは犯罪だと言っているのだが、愚かな炭鉱主はそれに気づかない。
「助かりますなあ。頼りにしているんです。約束通り、導入した結果は仲間に伝えますし、良い結果であれば、わたしの報告は喜ばれます。シド中の炭鉱主が群がるでしょう」
 この殺戮がシド中で行われているのかと思うだけで、呆然とするのだけれども、シルバが言い出したことがいかに正しかったかを、戦慄をとともに理解した。
 これはシルバのバランス感覚というか、世界理解の正確さなのだけれども、これが稀代の名君としての素質というか、シルバの感覚の正しさが、シドを救うことになる前例になるのだろうか。
「食事を出そうよ。これじゃあ死んじゃうよ! じゃがいもはあったよね? コンソメで茹でるだけだけれども、おいしいかな?」
「ちょっと! うちの食材も限りがあるから! 適当なことを言わないで!」
「でも、こんなのじゃあ、仕事できないよ。伯爵? いいですか? ぜんぶ費用はうちなので、振る舞っていいですか? おいしく調理します」
「シルバ、余計なことは言わないで。お金の関係はきっちりしないと。遺恨が残っちゃう。お金の問題は任せてくれると言ったでしょ?」
 蟹伯爵は考えるけれども、拒絶はせず、ルナはバターを探し始めた。
 回収しないと、持ち出しじゃないか。
 なんで、最低限を備えていない連中のためにうちの備蓄を出さなければならないんだろう。セレンを見ると目が座っていた。
「請求するから、これは費用だから」
 セレンはコクリと頷き、市場価格を無言で割り出し、慣れた動作で請求書を書き始めた。
 ちょっと、高いかなとは言わなかったけど、交渉できそうな範囲の値段だった。
 そもそも、納品してから請求するので、交渉もクソもない。
 考えあぐねていた時にふいに声がかかった。
「リラ、ずいぶん熱心に仕事をしてるじゃないか。ようやく記者の仕事がわかってきたかい?」
 見上げると、貴族然とした正装の男性。
「クリフォードさま! なんでこんな辺鄙なところまで?」
「シルバさんの工房に用事があったんだよ。それで聞いたらこちらに向かったと言うから、散々だよ。それでここまで来たんだ。重い荷物を運ぶ隊列だし、ここまで一本道だから徒歩でもいつかは追いつくだろうと思ってね」
 初めて会うクリフォードにルナは唖然とし、言葉を失った。青年はにこりと笑う。
「ルナさんですよね? お噂はリラから散々に、とてもお美しい。兄上の工房を支えるために、散々に資金を集めているとか。それで、大口のスポンサーから話をつけてきてくれと言われてきたんです、出資がしたいと。悪い話ではありません。無制限に出資すると言われています」
 ルナは信じられなくて、言葉を失う。
「まあ、信じられなくても仕方ありません。わたしも理解できませんでしたから。でもそれよりも小さな事業を成功させるべきではないでしょうか? キスト郷、この鉱山の状況は正直週報を発行する我々としても、見て見ぬふりはできません。少なくとも改善のために費用を出すべきではないでしょうか。それがじゃがいも代というのはどうでしょう?」
 蟹伯爵は考える。
 セレンはあわてて話し出す。
「じゃがいもはいま高いんです。産地はひどい被害です。豪雨がひどかったんです!」
「そうか」
「水害がひどかったのは分かっているはずです。50%の値上げを提案します」
「それは暴利だね」
 ルナは必死のセレンを遮って、口を挟んだ。
「そうですか? あなたは市価を無視していることになります。あなたは市場価格を無視する商人という烙印を押され、とにかくぼったくる人という事になります。それは週報で伝えられるかもしれない」
 ルナの機転のきいた脅しにすこし蟹伯爵は戸惑い、すこし考えた。
「ペネスの市場価格を確認してから、ではどうでしょう?」
 えらくまっとうな言葉だったが、おそらくペネスの市場の最安値を探すつもりなのだろうと踏む。
「たぶんわたしたちが提示する価格より安い価格はないはずです。うちの工房はいつもカツカツなんです。最安値で買ってないとお思いですか?」
「ふむ、それを信じよう。あなたはいつでも信用できる商人だ」
 気付いてみると、恐ろしくフェアな交渉が成立していて、じゃがいも代は回収できそうだった。交渉成立と見てセレンがじゃがいもを切り始め、シルバが脇で湯を沸かし、そこに調味料を溶かしていく。
 バターとコンソメの香りが食欲をそそり、セレンはその濃厚なスープに薄切りにしたじゃがいもを投入していく。表面積を大きくすれば、味は濃くつく。気付くと鉱山の奴隷たちがこちらをじっと見ていた。少量のキノコも入れる。旨味がブーストされる。
 木製の皿を出して、その炭鉱の坑夫たちに出すと、空腹から人が寄ってきた。
 だれも、それがうまいなんて思ってない。それが料理だから食べるだけで、それが恐ろしくシルバの心を痛めた。材料がない。海産物はないし、醤油も味噌もない。ほんとうの美味しいがない。だれが、一番美味しいものを出せなくて、それでいいと思うのだろう。それでも申し訳程度にいれたキノコは、このお粗末な料理に旨味を彩っているはずだ。
「この食事は申し訳ないですが、材料が揃いませんでした」
「キミは一流になり始めているな?」
 ルナの言葉によそられた皿を味見をしたクリフォードが、にこりと笑う。
「そんなこと」
「キミがどんだけ遠慮がちか理解したよ、ルナ。キミは最高の外交官だよ。外交は卑賤な意味も含むから、交渉官といえばいいか。キミがしているのは、貴族の交渉だ。否定しないだろ? 貴族の商談で料理をうまく合わせられる人間なんて、あまりいない」
 言っていることは分かる。
 端的すぎて、どう返していいのかさえわからない。
「このキノコはいいね。とても美味しい。でも、こんなのを出せる人なんていないんだ。バターもいい、酢が混じっているのもいい」
「クリフォード卿! ほんとに粗末な食事ですみません!」
 にっこりと笑った。
「こんなの食べたら、もっとお腹が空くよ。もっと美味しいものを用意してるんじゃないかって思うし、正直、これを浴びるほど食べるだけでもいいんだ。これは何ていうの?」
 遠慮がちに、セレンがきゅうりの海鮮酢漬けを出す。
 海藻が多すぎるのだけれども、生卵を落としたのがなぜか好評だった。
 混ぜると、酢と卵が合っていく。
 シド人であれば、マヨネーズは好きなはずだ。濃い卵と酢を混ぜるとマヨネーズになるけれども、それが分かっていないシド人は多い。美味しい酢と、美味しい卵を混ぜると美味しいマヨネーズになる。
 どうすれば美味しくなるかが分かっていないのだ。
 みんな損してる。
 大げさな話はやめて、どうすれば美味しくなるかだけに集中すれば、世の中は幸せで美味しい世界になっていくのに。ルナはせっせと給仕するセレンの姿を見ながら、呆然と思った。
 正直、クリフォードは週報を発行している張本人であると理解できるほどに人当たりがよく、さわやかな好奇心を細かいところまで向けてくる。それが心地よくてどこまでも話していたくなるのだが、それがこの青年がクリフォード社の社主である所以だろう。
 ルナはリラがなにか上司に話そうかどうかと思って、そわそわしているのを見て、ふと気づいた。ぽんとリラの肩を叩く。
「クリフォードさん、見てもらいたい銃があるんです、これがなんだかおわかりですか?」
 ドライゼ銃を見せると青年は戸惑った。
「えっと、何ていうんですか? 銃口側から弾を入れない?」
「そう、元込め式です。こういった油紙に包んだカートリッジを装填します」
 ルナから現物を受け取ると、青年は驚いた。
「驚くほど軽いね、半分ぐらいかな?」
「そうです、ダマスカス鋼です。シャビに仕入れに行ったら、通常使っている10ミリ鋼板なんてないって言われたんです。だから、5ミリ鋼板。耐久テストには合格しています。おそろしい耐久性ですよ」
 クリフォードは信じられないと言った様子でその銃をまじまじと眺め、実演してもらえますか? とシルバに渡す。
「あ、はい・・・」
 シルバはおどおどと受け取り、腰のベルトポーチに手を伸ばし、弾倉を握って、美しい所作でそれをボルトアクションの装填部に込める。
「危ないからどいて!」
 ルナの言葉に坑夫たちはシルバの射線からどき始め、シルバはなんの気もなしに、すぐ近くの樹木に狙いをつけた。
 発砲。
 すぐに腰に手を伸ばし、次弾を込める、発砲。
 クリフォードはそれを唖然と見ていた。10発撃ったあたりでさすがにルナも止めたくなり、
「まあ、こんなのもあるんですが、さすがにこれは報道はしないでください。ボルニアが侵略してくるかもしれない時に手の内を明かすのは致命傷です」
「あ、うん、そうだね。これは危険すぎるかな・・・。でもすごい幸運だ。こんなものがシドにあったなんって。スポンサーがどんだけつぎ込むかわからなくなってきたよ」
 クリフォードの発言は非常に危険な匂いがするのだけれども、この青年が間違った道に進むとは思えないので、それを信用することにする。
「週報では厳禁です」
「ああ、いいよ、こんなの見せられちゃったら、ちょっと無理かな」
 賭けには勝ったというよりは、常識的な人だと確認できた、ぐらいなレベルで、この優男は生涯信用してもいいと、思えるぐらいには信用できると、思えてしまったのはふしぎだった。この男を信頼してしまった人の感想を聞きたいところだが、だいたいわたしと同じような感想が出てくるのだろう。
 ルナが生涯信用した人間は二人。
 ひとりがクリフォード、もうひとりは秘密で、それが生涯の夫になる。
 そう考えると、クリフォードはルナの夫になるかも知れなかった。
「社主! キュディスとトランの動向が入ってきたんですが!」
 リラの声に、落ち着いた様子で書面をよこせという。
 書面はだいたい支社から届いた殺風景な書面で、キュディスの虹翼騎竜兵団が全翼をアイギスで飛ばしたとか、トランのタルボットギルドの浮遊船団が首都に集結したとか、うわさレベル物がやってくる。タルボットはいつでも船団を集結させるし、日常的に物騒なことは起こっている。
 しかし、それでも何も起きないのが常。
 クリフォードは一文に気付いて、あわてて言う。
「キュディスがボルニアの後見についた。キュディスの、えっと、黒の兵団? ってなんだろ・・・、が、ボルニアの諜報部隊として参画するって・・・」
「キュディスとボルニアが同盟を結んだんですか?!」
 クリフォードはしばらく考え、うん、可能性はある、と静かにいう。
 ボルニアの侵攻が北へ、ザブンテ、エストと呑んで、北方最強国であるキュディスとトランの二国と国境を接した時点で、南に転進するとは誰もが言っていた。その流れで行くと、キュディスがボルニアを手駒のように使って南へと侵略を開始するのは、当たり前の判斷と言ってよかった。
 シドは熟れて豊かで、堕ちそうな国家である。
 そこに侵略の手が伸びてくるのは常識的な気さえした。ルナはじれてジリジリするけれども、クリフォードは信じられないことに、確信を持ってワクワクしていた。これは後にその理由は分かるのだが、彼はこのショックがシドという大国にもたらす大革命にワクワクしていたのだ。そのほとんどはリニーというかシルバが成し遂げ、世界の形を全部変えてしまうのだが、それはまた別の話だ。
「これがきっかけになるんだ。シルバさんの技術力があれば、シドが変わり始めた姿を見せることができる。僕はそれを伝えたい。シルバさんの工房が加わったときの化学変化がどれほど劇的になるのかを、僕は見てみたいんだ、これは不相応な願望だろうか?」
 クリフォードほど名声のある人物に言われて、揺らがないはずがない。
 正直、この時期のルナはクリフォードに魅了されていて、シルバのことなど忘れていた。もちろんそれは一過性のことで、クリフォードが愛する世界を動こかしている人たちの方が重要だと気付くのはだいぶ先になる。まさか自分がその一人になるとは思わずに。
 ルナの評伝はリラによって書かれるのだけれども、そこから、完全蒸気機関の女神と称されるまでになる経緯を書く人はいなかった。学びの天才とはルナのことだけれども、その経緯も不明だったし、論文にしか名前がなかった。
 なにか異常に詳しいやつがいる。
 その程度の認識で済んでいたのは、おそらくルナも目立つのを避けていたのだろう。
 それでも、なにを言っても裏切りと言われる状況は否定しようがなく、一生を裏切り者として人生を終える。

 ルナたちは、鉱山への機材の設置をはじめ、大きな声で指示を飛ばしていく。
 それは不本意ながら、鉱山の奴隷たちを動員し、まず炭鉱の入り口に蒸気機関を設置し、そこから長々と動力線を坑内に引いていく。ポンプを置くのは奥の奥で、最も問題になっている出水地点だ。
「これで、ぜんぶの水かきは終わるから」
 そういうと奴隷たちの士気が上がるのが心苦しかった。
 ポンプの設置が、ほとんど苦労なく終わるのがこんなに苦しいとは思わなかった。
 設置が完了し、稼働し始めると奴隷たちは歓声を上げた。
 こんなの、お金があれば簡単なのに! それはルナが必死に掻き集めても足りないものだった。
 膨大な水を吸い上げるポンプが、この鉱山から重労働を一掃していた。
 モーターとポンプの音色が心地よく、それだけで世界最先端の解決策を届けている気持ちにひたれた。
「ルナ、すごいね! なんだろこれ! 世界が変わっていく!」
 ルナはひとりごちる。
(あなたが考えたのよ。全部あなたが作ったの)
「シルバ、あなたは謙遜しすぎだわ。もっと誇っていい。わたしは手伝っただけ。これはあなたの仕事なの。ねえ、クリフォードさん、そう思うでしょう?」
 突然に振られた優男は対応に困って、そうかなと遠慮がちに言う。
「ぼくがリラに頼んだのは、あなたの取材なんです。それは、あなたが美人だからではない。銅版画家があなたの肖像を描きましたか? ぼくが興味があるのは、あなたの工房を束ねる才覚なのです。シド最大の工房群をあなたは事実上差配している。あなたの兄のパルの工房群と言われると、莫大な資金が流れています。それを、シルバさんの工房が全部支えている、信じられないことです」
 ルナはおどおどと動揺したが、こういう交渉は慣れていない。
 そもそもなにをゴールにしていいかさえわからない。
「買いかぶりです」
「事実を見ましょう。ぼくは事実しか見ません、それが週報の支持につながっているし、ファクト以外は興味が無いんです。事実が伝わればそれでいい」
 しばらく黙る。
「あなたは人間としては信じられないだけど、交渉相手としては信用できる、かな?」
「奇遇なのですが、それは同感です」
 ルナが言葉を言いそびれると、クリフォードは追い打ちをかけた。
「あなたにしか興味が無いんですよ。もちろん、週報の発行責任者として」
「る、ルナ、これって成功かな? いちおうポンプは排水をしているけど・・・」
 遠慮がちなシルバの声に我に返って、まあ、大丈夫かなとか適当なことを言う。シルバは流れ出る水量に夢中で、クリフォードなど見ていなかった。それが手打ちだった。そもそもシルバには興味がなかったのだ。交渉相手は、将ではなく馬だった。ルナが優秀だから優秀なシルバだったのだ。
 クリフォードは佇まいを正し、改めてシルバに向き合った。
 しかし実際にはそれは事実上ルナに向き合っていた。
「あなたに、ひじょうに有力な貴族から支援要請が来ています。いくらでも金払うと言われているんですが、それは常識的な要請ではありません。無制限に金を払うと言われています。ただし、その対価はおそろしいほどの「あらし」です。望む中で最も大きなあらしが提供されます。もし「あらしにあこがれる」のであれば、ぜひ受諾してください。わたしは強制はしません。「あらしにあこがれる」人だけが参加してほしいのです。あなたは「あらしにあこがれて」いますか?」
 シルバは考えた。
 ルナは口を挟んだ。
「今回の件はシルバが奴隷が酷使されている姿を見るのは耐えられないという利己的な理由から生まれたビジネスなのです。なので、奴隷の売買に賛同する立場の人達には絶対に賛同できません。ですから、奴隷売買をする方々から出ている資金ではないと確約してください」
 クリフォードはにっこりと笑った。
「こんな簡単なことが最終条件だったとは」


 〈了〉

| 自作小説 | 19:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』16


 蟹伯爵の鉱山に向かう山道は、ひたすらに喋っている道中だった。
 しつこいリラに噛みつかれる毎日で、取材者というのは噛み付くことが仕事なのだと思ったほどだ。あ、といえば噛みつかれ、い、といえば噛みつかれ、う、といえば噛みつかれる。
 音ってどれだけ必要なんだろうと思うんだけれども、その一つ一つに説明を求められる。「だますかすこう」とか言ったら、何日かかるかわからない。7音もあるし。
 ダマスカス鋼の話は、恐ろしいほどしたはずで、それでも一切の妥協はおそらくない。もう決着がついている問題なのに、一切の決着はない。すべての特性は話しているのに、それを納得しない。それは分かる、受け入れがたいのだ。
 常識を超えている。
 わたしたちは工業製品を売っているのであって、セールストークを売っているわけではない。言葉なんて単なる言葉でしかないのだが、リラは言葉を売るのが商売なのだ。
「まあ、暇だし、とことん付き合うけど、この銃に触ってみないことにはなにもわからないわよ?」
「わたしは銃なんて撃てません」
 まあそうだよねえ。ふと思いついて、旧式の銃と新式の銃をリラに渡す。
「重さがぜんぜん違うでしょ? 持ってみて?」
「あ、軽いですね」
「そう、これがダマスカス鋼。軽いのに、同じ強度を保てる。だいたい半分の重さかなあ、正確には計ってみてはいないけど、鋼板を薄くできるの」
 リラはしばらく考えていたが、
「薄いと軽くなるんですか?」
 と恐ろしくよく分かってない言葉を返す。
「使う鋼鉄の量が減れば軽くなるでしょ? たとえばリラさんは大量の書類を背負ってくるけど、それが半分に減ったらどう?」
「楽ちんですね、社主がうるさいんですよ、とにかく文字は小さく書けと、それですか!」
「うん、まあ、そんなもんかな」
 リラと話しているのは正直楽しい。
 たぶんそれがリラが重宝がられている理由なのだけど、妹ができた気分になるし、どんどんと教えてあげたい気持ちになるぐらいに素直なのだ。ときおり、猛禽のように執拗になるけれども、問題ないところを答えているときには不快だと思ったことはない。
 たぶん、甘え上手。
 その上手に心を許してしまっているのだ。
「上長から報告せよと言われています。簡単に言うとシルバさんの工房がどう動くつもりなのか。神経質ですよね。わたしもそう思いますし、なんで、こんなに神経質になるのかわかりません。なにか動いているのかわかりませんが、週報を発行していてもわからないことはあるんです」
 リラは正直で、率直で助かる。
 ルナが対峙しなければいけないのは、世界の情報を権力と絡んで統制しているクリフォードなのだ。
「あのさ、シルバ。ドライゼ銃の効能は出してしまっていいの?」
 シルバはぽかんとしたが、あー、考えてないんだなと理解した。
 これはわたしが管理する問題だ。
「これは極秘だと、週報は守れるかしら? それを守れるならば、いくらでも話すけど、書いては駄目。だけど、すべてを話す」
 リラはしばらく考えた。
「社主の、」
「だめ! あなたの問題なのよ! あなたは奴隷なの? わたしはあなたと向き合っている。あなたに話すんだから、あなたが問題なの。リラ、あなたは信頼できるの?」
 時間は長かった。
 震えるちびを見ている時間は拷問に等しかった。
 一時間ぐらい経って言葉が出た。
「わたしには手にあまるんですよ。社主が書けと言えば、書かない訳にはいかないですし・・・」
 散々考えてこれか。
 まあ結局クリフォードと面と向かうしかない。会ったことはないけれど、若く情熱的な貴族の青年だと聞いている。つまり私財を投じて事業をしているわけで、社を傾けないために悪事を働く恐れがないことだけは分かっていた。それに噂では、リニーに頼み込んで体験談を野バラの装丁の本として、ただしフィクションとして発刊し、それで現在を書く使命に目覚めて、週報を発行するようになったと聞く。
 生粋の大公派。
 あらしにあこがれるシルバを悪いようにするようには思えなかった。
「直接、クリフォードと交渉をします。それぐらいの用心は許してほしいの。あなたが信頼できないのではなく、全権を握っているのはクリフォードだから、あなたの社主と直接話さないと埒が明かないの」
 リラは不満げに眉根にシワを寄せるが、不承不承納得をする。
「なにか、戦場を変えてしまうような銃なんですね? たとえばボルニアの騎竜兵団に対抗できるような?」
「クリフォードに会って、話すかどうかを決めます」
 まあ、実際に現物は見ているので、銃に詳しければ、それがどういうたぐいのものなのかはわかったはずではあるんだけれども。

 リラは、あさりのバター蒸しの餌食になった。
 丁寧に砂吐きをさせたあさりは、とにかく美味い。
 夕食をまさかのシーフードだとは思わない。鉱山に向かっている山道である。
「わたしたちはおいしいの。それが全部だしね。あなたをどうこうしたくない。でも、いつでもおいしいから来て。あなたは家族だわ」
 リラがどう考えたかは知らない。
 それは知らないほうがたぶん美しい。
 リラは感心し、なんでペネスで海の幸が手に入るんですか? と聞く。
「それは謎だし、わたしは市場で買っているだけだから。確かにふしぎよね。塩水で活かしたあさりが届くのかしら? 市で聞いてみてはどうかしら」
 ルナの答えにリラは心を膨らませ、わくわくとしている姿は、見ていて可愛らしかった。
「リラさんは、生粋の記者ね?」
「はい?」
「だって、知りたいことが大量にある。どんなことでも知りたいんでしょ? それを知るためならなんでもする。それが記者じゃない?」
 リラはしばらく唖然としていたが、言葉の意味がわかって、震え始める。
「あ、あの・・・」
 泣きそうなリラをあわててなだめる。
「わたしは、正直なところを言ったつもりよ。リラさんが立派な記者だと言ったつもり。正直に言えば面倒くさいのだけれども、その面倒臭さも含めて、立派な記者なの。もしかして言われたことがなかった?」
 リラは耐えた。
「ルナさんにお聞きしたいことがあります」
「聞くわ、手短にね」
 とても手短にリラは聞く。
「シルバさんは恋人ですか?」


 えーと、短すぎてごめんなさい何ですけど、どこで切るかって、けっこう物語の面白さに直結するなあと、書きながら思っています。
 この変な切り方は、わたしが愛読しているディック・フランシスの切り方に近いです。
 すっと書いてきたものを最後で変な方向にぽきりと折る。
 初長編の時から、変な折り方をしているなとは思っていたのですが、あるとき、ああ、これディック・フランシスだ、と気付いて、ああこれが、わたしの長編の流儀なんだと理解したのです。
 変な方向に折りながら螺旋を描くように、ぐるぐると登っていく書き方。
 本家がどう考えているのかは分からないのですが、たぶん話題を分散させてまとめるのに良い書き方のように思うのです。

 さてたいへんおまたせしてしまいましたが(1月ぐらい空いている)、たぶん次がラストです。
 わたしはとにかく終盤が苦手なようで、これは中盤あたりであれば、書かなければいけないことが漏れたら、あとで足せばいいやぐらいの気分でいれるのですが、終盤では一切の漏れが許されなくなるのがたぶん苦手なのです。
 「漏れなく」「面白く」「流れをきれいに」
 とか、どんだけ無理難題なんだと思ってしまうのですが(^_^; わたしはそもそも短編が好きな人なので、長編の大量の情報量をどう処理したらいいのか、という部分でオーバーフロー気味になってしまうのです。

 ここからどう進むのかは、未知の領域です。
 いちおうばらまいていた伏線から回収しなければいけないイベントは自ずと決まってくるのですが、ひたすらに難問を先送りにしてきたつけの精算をしなければなりません。今日が5日で(この文章は5月5日に書かれている)、デッドラインが5月20日ですかねえ・・・。
 いま読み直しながら、次の文章を考えていたら、この終わり方すごいw と理解しました。台詞で終わっているから、受け答えから始められるし、まったく違う領域の話題ができる。
 まあそんなことをうだうだ言ってよりは、次を書き始めますw
 次回、いま書かれている原稿ではクリフォードが出てくるのですが、クリフォード社(リラもそうです)をとてもたくさん出しているのは、シルバが注目されている、ということを書きたいのではなく、クリフォード社を書きたいからだったりします(そう書くと当たり前ですね)。
 このクリフォードは、ルネサンス期のエラスムスとアルド・マヌーツィオがモデルです。
 エラスムスは教科書にも載るような著名人だと思いますが、アルドの方はまったく知らないかもしれません。出版社の父とも言われ、エラスムスの著作を(というか大ベストセラーを)大量に出版した人です。日本で言えば蔦屋でしょうか。で、わたしはこの二人が同一人物だと勘違いしていたんですね(^_^; またエラスムスはルネサンス当時のジャーナリズムの走りだと言われていて、それで現在のなぜか新聞社をやっているクリフォードが生まれました。わたしは正直、人生やり直してなりたいものになれると言われれば、経済紙の記者になりたいと今でも思っています。だからそれを叶えた、クリフォードの活躍をどんどん書いてあげたいのです。クリフォードがやっていることは経済誌(ここで誌になるのは米国では新聞よりも雑誌のほうが格上だから)の記者として、シリコンバレーの英雄たちを取材して、その本を書くということなのです。
 なので、なんでこんなにクリフォードやリラが目立つようになっているのかと言われれば、それがわたしがやりたいことだから、という言葉にたどり着きます。
 欲望に忠実ですみません(^_^;
 
 現状、つぎの稿の原稿が10枚ぐらいはあるようです。
 なんとかデットラインには間に合わせたいなあと思いつつ、あと10枚ぐらいですかねえ・・・。特に苦手問題がなければたぶん間に合います。

| 自作小説 | 17:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』15


 朝に目覚めると、いつもどおりぎりぎりの時間だった。
 みるとシルバの工房は早起きで、予定されていた納品作業のすべてを終えていた。
「あーあーあー、ごめん、寝過ごした、かも」
 メイファは気付くが、嫌みは言わない。
「起きるのを待っていたんだよ、ルナ」
 嫌みを言ったのは、シルバだった。
「うるさい。お茶は沸いているの? 朝はお茶を飲まないと目が覚めないの」
 もちろんこれは言ってはいけない言葉だ。
 それでもシルバは鉄瓶を火に焚べ、そこに茶葉を散らす。
 だいぶ、自分がいけないことをしていることに気付き始めるのだが、どうすればわたしの恥ずかしさを消せるのだろう。
 お湯がわき始めるとだいたいそれが朝食の合図で、崖上から、崖下から、ぞろぞろと工房の面々が集まり始める。パンが配られ、それを浸けるためのスープが配られる。今日はエンドウのスープ。クリームが溶かされていて、甘い。そう言えばもうそんな季節かと思うのだが、たしかに暑いからそうかも。
 季節を忘れている。
 シルバの工房に来るたびに、それを思い出さされる。
 自分が忙しすぎて人らしくしていないと気付かされるのが、シルバの工房なのだ。
「これ、おいしいじゃない? そらまめでしょ?」
「うん、メイファが作ってくれたんだ。メイファ、いつも美味しいね」
 それで頬を赤らめるメイファを見るのは恒例行事なのだが、これに対抗しようとは思わないのもわたしなのかもしれない。別の貢献の仕方があると思っているし、資金調達で負ける気はしない。
 一晩中テストした評価は良好で、それが心を暖かくしていた。
 目立った問題はない。
 唯一、蒸気機関のノイズが気になったくらいで、それはわたしの領域なので、最終調整をすればいい。なんだろうなあとは思うのだけれども、たぶんどこかで強度不足が出ているのだ。間に合うのかと言われれば、間に合う。グリスを塗れば解決するのか、素材を変えればいいのかわからないけど、些細な問題。
「ルナ、いいのこれ? なんか音うるさくない?」
 シルバが不思議そうに聞く。
 そう思うのはあんたが世界最高峰の蒸気機関しか体験したことがないからだよ。
 ルナは落ち着いて、グリスを指に塗って、
「この油が燃えないってほんとだと思う?」
 ああ、ずるい。もちろん、シルバが言うことは決まっていた。
「あ、えーと、試そうよ。燃えたら考えよう」

 もちろん燃えるはずがないのだけれども、そんなに危険なものが工場ラインに入っているわけがない。サウスがそんな物質を放置しているとは思えないし、数千年も先行している文明なのだ。いつでも、サウスの最新技術を導入するときには、これはつきまとう。そもそも理解して使っているわけではないし、借り物でしかないし、宣託を告げるシルバという天才は、わたしには理解不能なのだ。
 シルバは調合したグリスを塗り、なんの問題もないというように、ゴーサインを出そうとした。
「まってよ、これが失敗したら、50万グロアが飛ぶの。せめてわたしに判断させて。これはわたしの蒸気機関だし」
 正直恐ろしい。
 蒸気機関の爆発的なエネルギーがわからないと任せられないし、それが暴走する可能性を想定できるのは、その装置の危険性を理解している人間だけだ。予知できない摩擦熱が生まれる可能性がある。
「少なくとも人知は超えているの。悔しいけどわたしが知り尽くせないほど。だって、これまで莫大なお金を払ってきた奴隷が救えるとかおかしいでしょ、あなたが発想したことだけど。世界を変えてしまうの。世界がぜんぜん違うものになってしまうの。あなたが、基準点になって世界が違う時代に行くの。それはいいの?!」
 恐ろしく正確に伝えたつもりだったけど、シルバは、しばらくゆっくり考えた。
「そんな光栄な事はないよ」

 シルバが世界を変え始めたのは、鉱山の奴隷を開放する運動だし、そのための機械を高価で売る活動だった。
 そして商売上支えていたのは、奴隷は高くて経費がかかるので、継続費用の掛からない機械のほうが安いというルナのロジックだった。だからはっきり言ってとても売れたし、それでシルバの工房は羽振りがよくなった。
 しかしこれは、奴隷業者を完全に敵に回したし、非合法な妨害工作が来てもおかしくなかった。それを救ったのは、大スポンサーを抱えていると明言しているクリフォード社で、シド全土のに大影響を与える週報で、ひたすらにシルバの思想を語り続けた。
 他のだれが、鉱山の出水に対して、機械を使えば奴隷が死ななくなるし、お金も儲かると言ってくれるのだろう。誰もが警告する通りにこれはこわいし、莫大な資金を投じての反撃があった時にこれを救ってくれるセーフハウスはない。
 側にいるのは脳天気なリラだし、直接工房を擁護してくれるスポンサーはいなかった。
「だってさあ、クリフォード社は支えるっていってるんでしょ? だったら乗るべきじゃない? チャンスなんだし」
 これはわたしの未熟な主張。シルバは賢明にも結論を先送りにしていて、実際に利益が出始めるのを待っていた。これはシルバのバランス感覚がすさまじかったという話になるのだけど、これを慎重すぎると言うのは失礼だろう。
 シルバがたぶん考えていたのは、これはたぶん壁が厚いということだけなのだ。
 この感覚がシルバの本質なんだけれども、いつも口うるさい沈黙をするのがシルバ。たとえば非公式だとしても、常に沈黙を挟んでくる。
「なんかいいなさいよ」
 納品先に機械を運ぶ竜車を先導しながら、話しかけてもシルバは黙っている。
「話してくれないとなに考えてるのかわからないんだけど」
「うん、時間を使いたいんだ。ルナはなにかを言うとすぐに大陸の端まで飛んでいってしまうから。シャビまで行ったんだろ? やりすぎだよ」
 ルナはむくれて反論する。
「でも、ダマスカス鋼の調達ルートを作ってきたじゃない!」
「それは感謝しているよ、でも、働きすぎだよ。困ったな、この工房にはすごいメンバーしかいないんだ。あまりにもすごすぎて、おいて行かれそうになる」
 シルバはいつもこんな感じで、常にバックヤードにたたずむ老人のよう。まるでその遅さで全工房の時刻調整をしているようで、掴み難い。気付くと工房の標準時になっている、そんな感じ。言葉をかわすと時間が溶けて、シルバの時間に染まっていく。
「あの、ルナさん、シャビ行きの話聞かせてもらえませんかねぇ? わたし、ボーナスで釣られているので、社主の思うツボなんですが、出すと言うんだから貰うのが筋ですよね!」
 あー、面倒くさいのが来た。
「どうせ、シルバの評伝の隅っこにちょろっと乗るぐらいでしょ?」
「ええ、まあ、そういうことは言わない約束になっているので」
 へらへらとリラは笑うが、このときの取材内容は最終的にはルナの評伝のほとんど全てになるのである。神秘に包まれた蒸気の女王の評伝として。
 ルナが野バラの諸侯のひとりになるのは、この取材のおかげだった。


 まず、短かすぎるw
 これは勘弁して下さい。いちおうこの文章は表紙をデザインした後に書いているので。
 けっこうラストに向けての作業が目白押しで、完結と同時にパブーに全部読める体裁で載せられるように動いているのです。一人何役だよと嘆くのですが(^_^; まあこの文化祭のようなお祭りも、ラストに向けての楽しみと思わないと辛いなあw などと思っています。

 当たり前になるんですが、ルナはシド側のヒロインですので、大量の仕掛けがあったりします。これは仕掛けないほうが不誠実というか、ここでドラマが起こらないとおかしいんです。
 たぶんこの感覚は分かりにくいと思うのですが、何だこいつと目立つやつには、何らかの意図があって目立たせているのです。ルナが物語を面白くすることは保証するのですが、どう面白くするかは言えないんですね。これが明らかになるのは第三作のクライマックスですねえ・・・。
 あんまり中身の無いことを書いていても仕方ないですので、解説いきますか。

 この回はシルバを書いています。
 シルバがなぜ恐ろしいほどの混成部隊をまとめられたのかを、端的に書いています。その答えは積極的な沈黙を駆使していたからとなるんですが、他者が何かをするのを、積極的に傍観しているのです。
 観察していて、それに一切の言葉を挟まないのです。
 シルバは我がないことが超人的な人なのですが、自分の意のままになる方策があったとしても、それを一切しないというところが超人的なのです。
 こんな人はたぶんいません。わたしも含めてありえない人です。
 わたしももちろん欲望はありますし、シルバの立場に立ったらやりたいことはいくらでもあります。それをやっているのがルナで、ルナは主にシルバの欲望(金銭的予算的な)機関として機能しています。ルナが、ひたすらにシルバの研究資金を集めているのが分かりやすいと思うのですが。
 そして思いのほか資本主義の話をしています。ルネサンス人はどう商売をしていたのか、というような。どう資本主義が生まれていったのかを端的に書いています。
 そもそもこのお話は、世界最強の蛮族国と世界最強の文明国はどっちが勝つのか。それを追求すると、文明とはなにかということが分かるはずだ、という確信のもとに書かれているので、ひとりひとりの生き様には、共感するのですが、それは歴史という数百年単位のひとりだろうという意識で書いています。
 わたしは年表の中にいる人達も生きていたんだ、ということを書きたい。
 ただ、テーマが広大すぎて、わたしの手には余ります。

 まあ何よりもお楽しみいただければ幸いです。
 それだけでも大変です(^_^;


| 自作小説 | 22:01 | comments(6) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』14


「あれ? ルナさんじゃないですか、なんでこんなところに?」
 見慣れたとはまだ言い難い猫のような猛禽顔の女の子が、しらじらしくへらへらとして立っていた。
「ひどいですよ〜、工房に行ったらどなたもいなくて、近所に聞いたら谷底に向かったと言うじゃないですか。それで、たぶん降りるならここからだろうなと思って先回りしていたんです。しかしなんですかそれは? ずいぶんたくさんの機械があるじゃないですか。これからなにが始まるんです?」
 ルナはシルバをみて戸惑うが、
「リラさんですよね? 週報の。なぜうちの工房に?」
 シルバが聞くのに、リラは爆竹のように話す。
「上がしつこく言うんですよ。もっと取材してこいって。わたしの取材が片手落ちだって言うんです、なんで竜狩りの方法を聞いてこなかったんだとか、銃の最新型はどうなっているんだとか、大規模なスポンサーが興味を持っているんだとか、全社的にこれは追わなければならない案件だとか、たまったもんじゃないですよ! ちゃんと取材できたと判断できたらボーナスは弾むとかまで言われているんですよ!」
 リラは相変わらず、要らないことまで話すけれども、この無邪気であけすけのない性格にはどうしても心を許してしまう。リラは上と言っているが、クリフォード社は各国の支局を除けば、本体と言えるラスペ・ペネスを担当するのはクリフォードとリラしかないはずだ。となるとそう言っているのは自然とクリフォードになる。
「取材は受けるから、落ち着いて。これからテストするのはぜひシド全土、いえ、他国にも広めてほしいことだから」
 リラは複雑な機械群を眺めて眉をしかめるが、
「これは何の役に立つのです?」
「これから実演するから、みてて! これで世界から奴隷を一掃するの!」

 竜車を動員して、谷底まで下り道を重機械を運ぶのは予想通りに難儀で、ペネスの吊橋から谷底まで何百メートルあるんだと大げさに思ったほどで、実質的には曲がりくねった数キロの数十メートルの高さだったかもしれない。
 そうやって河面まで降りると、ごつごつした河石の上に無骨な機械を設置していく。
 発電機のモーターは遥かに崖上、コンパクトなモーターとポンプを設置して、油紙を針金で補強したホースを河面に浸す。
 上空を見上げると、果てしないホースが伸びている。
 ちらりと見ると、シルバの表情が輝いていて、声をかけていいか迷った。
「ゴーサインは出してね。これはあんたが考えたんだから」
 ためらうことはなかった。
「やろうよ! いますぐ、今すぐさ! なんでやらないの?!」
 なんで失敗するとは思わないのだろう。そうなったら、大失態なのに。シルバは未来に対して太陽のように明るい。片手を上げると、わたしの蒸気機関が動き始めた。こうなると止められない。暴力的な機関が動き続け、この揚水システムが失敗であるかそうでないか以外の結論は出なくなる。
 シルバが確信していた蒸気機関は動いて、それはわたしが信頼されていたことになるんだけれども、シルバが信じてくれたから動くというのは、まるで宗教のようで気持ち悪い。機械は造ったとおりにしか動かない。何百ものパーツが組み合わされたシステムを個々にはテストしているけれど、すべて組み合わせてテストするのはこれが初めてなのだ。
 水を数十メートル上に汲み上げる負荷に、蒸気機関の部品が耐えられるのか、モーター・ポンプもこんな負荷で作動させるのは初めてなのだ。
 ポンプに近い給水側のホースが短くて、遥かに崖上に伸びるホースが長いのは、お粗末なホースが圧力に弱いからだ。吸い込み側のホースは基本的にホースの径が狭まる力が働き、揚水側のホースには外側に広がる力が働く。径が狭まると流れる水の量が減る。なので吸い込み側の径を保つためには、ホースを短くしてできるだけ補強する必要がある。
 こういう話が通じるシルバの工房は楽しくて、なんで誰もが当たり前のように、それを理解しているのだろう、たぶんメイファが、こまごまと言い含めているのだと思う。
 ただそれが、実質的に全権限を握っているわたしに対する抵抗だと考えると複雑になる。お金だけじゃない、わたしがしてることなんて。なんで、お金を差配すると、仲間に入れてもらえないのだろう。
「ルナ! ポンプの様子はどう!? ポンプは動いてる!?」
 明るい声にあわてた。
 理論上は光速で電力は伝わるので、聞くまでもないのだが、作動しているポンプを確認して崖上に両腕で丸印をおくる、どうでもいいけど、これも光の速度だ。声よりは速い。
 ぶるぶると水を吸い上げるポンプを見ながら、これは役に立つのだろうかと考えるのは贅沢な時間だろうか。たぶんシルバはいつまでも見ていて、組み上げられた水にずっと興奮している。
「そっちにいったでしょ! これはだめなの?! いいの?!」
 大声で音速で返すと、光速で丸をくれた。
「これはどこに売るんですか?」
 リラが崖上より崖下を選んだのはさすがの猛禽類だった。
「鉱山、もう最初の売先、ああ、お試し価格だから、売ってはいないかな。そこでテストしてもらうことはもう話はついているけど」
「ああ、テスト協力費と、製品価格は相殺なんですね?」
 うるさい。
「鉱山は頻繁に地下水を掘り当ててしまって出水するでしょ? それをこれまでは奴隷を大量に使って、命の危険にさらせて掻き出してたの。でも、シルバはそれが許せなかったの。だって死ぬじゃない? そんなことさせたら。だけど、機械にそれをやらせれば誰も死なない。計算してみると、奴隷を継続的に買うよりも、機械を買ってそれにやらせたほうが安いの。だったら、機械を買うほうがいい。だから売りたい」
 リラは考えていたが、しつこく考える。
「それって、奴隷業者に喧嘩売ってますよね?」
「売ってる。それがシルバの意思。機械を使って、奴隷をこのシドからなくすのがシルバの意思。わたしはそれを最大限に尊重する。奴隷は悪でしかない。書いてもいいわよ、奴隷を買うより遥かに機械を買った方が安いって」


 10枚ないんですが、この辺が限界かなあと。
 単純に時間がかかっているのは、終わりに向けての文章を整えているからで、だいたいそこに一週間ぐらいは使っています。
 この終わり方は、自画自賛ですが、ルナがかっこいいんですよね(笑)。
 だからここで切ったのですが、えーといちおうこの後に10枚程度の検討していない原稿はあったりします。
 「リラを使う」というのが見えてなかったので難儀したのですが、ながい事考えているうちに、リラを使えばいいんじゃない? と気付いて、このような形になりました。ネタバレはしないのですが、だいたい先が見えるような内容になっているのではないでしょうか。

 機械工学的な話では、ホースの問題ですね。
 吸い込む側のホースは短くて、送り出す側のホースは長いという話です。
 これはこの書いているポンプシステムの問題になるのですが、そもそも、蒸気機関を坑外において長いホースを垂らして、汲み上げればいいのではと思う人もいる気がするんですが、これは簡単な実験でそれが無理であることがわかります。
 それは、ストローの袋をストローから分離させて、袋の方です、袋を思いっきり吸ってみてください。そうすると潰れて吸えないのです。吐く方はいくらでも吐けます。
 ポンプというのは、現在の日常で一番馴染み深いのは掃除機なのですが、掃除機のホースって執拗なほどに針金で補強されていないでしょうか。それは単純に、掃除機の機構上ポンプに当たる部分が、吸込口から遠いからです。掃除機のホースはビニールですが、そんなものはない設定になっているので、油紙を分厚く重ねたものに針金の芯をいれたものという描写になっています。これは実際に機能するのか微妙なんですが、半年ぐらいなら持つかなあとか。こういうところが感覚だよりになっているのは面白い、というか自分で面白がっているだけなのですが。
 まあシルバとルナが設計したなら、そういうところは抜かりがないだろうとか、設計図まで文章上で書いているわけではないので、登場人物のせいにしてしまうのですが、まあたぶんあいつらならちゃんとしたものを造っているだろうなどと思っています。


| 自作小説 | 21:02 | comments(0) | trackbacks(0) | 昨年の記事
 『あらしにあこがれて』13


 シルバたちが作り始めたのは、ドライゼ銃のボルトアクション部分で、その両端が閉じられたものだ。銃の装填部分だけがあって、銃身がない。装填するのは本来は打ち出す弾と火薬と起爆装置から弾を除いたもので、一弾ごとに油紙で包んで携帯しやすくしている。シルバはベルトに革のポーチを付けたものをどこかで作ってきてもらったのか、そこに数十発の弾を入れる。
「じゃあ、やろうか、まず10ミリから」
 おもむろに言って、出来上がった試作機を、必要はないのだけれども構える。
 たぶん、シルバにしてみればドライゼ銃の使い勝手のテストのつもりなのだ。
「お金がないから、それぞれ20発ずつ」
 誰にも見えない標的に照準を合わせて、放つ。それから射線の先を凝視して、舌打ちをする。外したようだ。装填口を開き、革のポーチから新しい弾を掴んで装填して、また放つ。
 それはうつくしい所作を見ているようで、流れるような動作にルナはシルバがなぜ射撃の天才なのかが分かる気がした。10分も経っていないはずなのだけれども、その狂気の時間に出資をしたくなった。
「こんなもんかな。銃身がないと結構ぶれるね。銃口を重たくした方がいいかな?」
 シルバは装填口に手袋越しに触れ、それから手袋を脱いで触る。
「あち! まあ、いつもこんな感じだし、やっぱりこの銃は熱が弱点だなあ」
 にこにこと笑っていう。それから、手袋をして装填口付近の様子を綿密に見る。先込め式の場合は爆発させた火薬のすすを取るのが普通なのだ。それですすがどれだけついているかを見ているようで、うんうんと頷いた。
「20発までは大丈夫。限界がどこにあるかはわからないけど、冷却も必要だし複数持つか、整備をしてくれる人が必要になるのかな?」
 ルナにはそれが異次元の発想すぎて、なにを言っているのかわからなかった。
 なにを想定しているのかがまったくわからない。
 まるでサウス人と話しているよう。
「じゃあ、5ミリ行こうか」

 テストを終えたシルバは始終満足げで、メイファがいれたおいしい紅茶を飲みながら、ビスケットを食べる。
 テスト結果を聞くまでもなく、シルバが5ミリのダマスカス鋼を気に入っていることは明らかだった。頭のなかではシャビの工房に送る発注書に添える挨拶文の草案が渦巻いていたのだけど、卓を汚さないように丁寧にビスケットを食べるセレンの姿が目に入ってしまって、あれ、セレンって孤児院あたりから来たんだっけ? と思ってしまう。
 それはシルバの姿と重なってしまうからで、そんなに遠慮する必要はないと、どうしても思ってしまうのは、ルナが特権階級の人間だから。
 いや違う、セレンは読み書きができるし、それは修道院で習ったと言っていた。
 そうなると、やはり身寄りがなくて引き取られたのだ。セレンの高潔さはたぶん修道院の空気を引きずっているのだろうし、厳格な規律の中で植え付けられたものなのだろう。
 そんなに丁寧にビスケットを食べなくてもいいのに。
「セレン、もっとざっくばらんに食べていいのよ。難しいかもしれないけど」
「あ、あの、わたし堅苦しかったですか?」
 あわてるセレンの頬に指を触れる。
「いえ、でもあなたが好きよ。それはあなたがあなたである以上変わらない、信じて」
 セレンは当然なのだが赤面する。
 それからもごもごもと何かを言おうとして、やっぱり言えずに黙る。
「セレンはよくやってくれているわ。正直わたしがいなくても大丈夫なのではと思うぐらい。でも汚れ仕事はわたしがやる。それはわたしの永遠の職務だから。でも、それはわたしがやるから、もうちょっと汚れていないところをやってくれないかしら? けっこう手一杯なの」
 セレンは、すこしずつ泣き始めた。
「ルナ、さまは、ずるいです・・・。だって、なんで、断れる、んですか。お金の計算ぐらいさせてください・・・。わたし、算術は習ってるんです。もっと頼ってください・・・。それぐらいできるんです・・・」
 目の前で起こっている光景が信じられなくて、その心細い肩を抱いた。
「わたしはあなたに汚い仕事をしてほしくないだけ、そんな犠牲はわたしだけで充分。わたしにはそれをしなければならない十分な理由があるの。だって、兄の妹なんだもの。でも、セレンがそれを手伝う必要は一切ない」
 セレンは悲しい表情をした。
 しばらく考えて、
「それはわたしが相応しくない、下賤の身だからですか? ルナさまは高貴なご身分ですから、わたしなんかに任せられないと・・・」
 ちがうちがう!
 そんなふうに思っていたのかとショックを受け、それをどうしたらいいのかわからなかった。
 こんな仕事、やっちゃあいけないのよ。
 投げ出していいと言われれば、正直投げ出したい。それをか細いセレンに丸投げするのは虐待のように感じるし、たぶんセレンはわたしに任せきりなのを酷い仕打ちをしているように感じているのだ。
「あの、ルナ?」
 ぽかんとしたシルバを見て、現実に引き戻された。
「なんだかわからないけど、ぼくたちも頼って欲しいかな。この工房は自慢じゃないけれど、みんな優秀だ。メイファのすごさは分かっていると思うけど、手伝えることなんていくらでもあるよ。ルナが抱え込むことではないよ」
 我に返って工房を見ると、好意的な眼差しが自分に向いているのに気づいた。
 照れ隠しにビスケットを齧る。
「じゃあ・・・、テストをするから・・・。わたしの蒸気機関、バーナードのモーター、ハッカビー兄弟のポンプ。それを合わせてみましょう・・・。シルバ、あなたの望みどおりのものになっているかはわからないけれど」
 シルバは太陽のように笑った。
「最高だね!」
 なんでこんなに眩しいのだろう。
 この太陽に照らされると、ぽかぽかと陽だまりにいる気になる。


 もう1シーン書くべきではないかと思ったのだけれども、ここからテストのシーンにつなげるのも何だかなあとと思ったので、短いと思うのですが、ここで切ります(これまで15枚平均だったのが10枚ないですもんねえ)。
 出していないので分からないと思うのですが、この直前に書かれていた文章はひどいものでした。わたし自身のコメントとして、「なんだこれ、ひどい。小説を忘れている」と書いているほどです。ただ、そこからの復旧方法を、なんか会得したかなとか、そんな自信回復につながる回でした(まあそれだけ下書きの時点ではひどいものを量産しているわけなのですが・・・)。
 なにげに前回書きたいと思っていたセレンの話も掘り下げられましたし、ルナがよく書けていて、シルバもよく書けている(唐突に介入してくるシルバとかお気にいりw)。短い文章ですが、まあいいか、というぐらいには書けている気がします。
 ちょっと臭いかなあとは思ったのですが、好きで読んでる漫画とかけっこう臭くて、自分はこういうのが好みなのかなと・・・。まあ前作が結構殺伐としていたというか、ほぼほぼ戦闘シーンの連続だったので、今回は日常モノ(と言うか文法的には少女漫画の文法ですよね・・・)になっていて落差がすごいなあ、などと思っています。

| 自作小説 | 20:34 | comments(0) | trackbacks(0) |