2010.10.06 Wednesday
えーと、こんばんわ。
hikaliです。
ずいぶん長い間、鎖骨骨折の影響で、放置していましたが、復帰です。
さっそく始めましょう。
■関連エントリー
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(前編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195677
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(中編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195687
・詳細GB解析 サイボーグを倒せ [前編]
スティーブ・ジャクソン・マジックを完全解析
http://blog.story-fact.com/?eid=1143535
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
■クラスターI 古代エジプト美術館での〈ミイラ男〉事件
えーと、やって参りました(笑)。
この「サイボーグを倒せ」に登場する、白眉のクラスター、クラスターIの登場です。
わたしなどはこれを見ながら、おおおお、こうやるのか!! すげーw これぞ、スティーブ・ジャクソンマジックとうなってしまったのですが、なにやらグラフ図がかなり複雑なことになっています。わかりやすいように色分けしてみましょう。

どうでしょう。
鮮明になったのではないでしょうか。
このクラスターは実のところクラスター内部に小クラスターを持っていて、それが上手く交通整理されながら、密接に絡み合っているのです。
大きな2つの塊として、サーカス団と古代エジプト美術館があるのですが、古代エジプト美術館の方はかなり絶妙にカモフラージュされています。あまりの罠っぷりに、スティーブ・ジャクソンの老練さを感じてしまうのですが、その辺りを探りながら解析を進めていきましょう。
●サーカス団
・古代エジプト美術館での〈ミイラ男〉事件
(新たなウィンドウで開きます)
327から「自然史博物館 365」「タイタン動物園 408」「サーカス団 4」と別れますが、この4からサーカス団の小クラスターとなります。
4はいきなり罠が…。ピエロが無言で手を引っ張るのですが、これに乗ってしまうと、もう失敗確定。同様にトレーラーハウスも失敗なのですが、これは実は伏線がありまして、途中で手に入る情報で、ライオンの檻が怪しいという情報を得ているのです。
なので、399と223のルートは問答無用で失敗になりまして、上述の自然史博物館か動物園へ行きます。
続いてライオンの檻の前ですが、ここは情報をえてフラグジャンプをしないと、正解のパラグラフにたどり着けない(き、きびしい……)。
えっと、310からですがここは、
「情報を得ている(フラグ) 360」「調教師を捕まえる 383」
「もっと証拠を集める 45」「思念力を持っている 321」
となっていて、前述の通り、360に行けないと、そのまま148へと強制移動されてしまう。
続いて207から戦闘が始まり、
・超技術を持っている 92
・超技術を持っていない 297
で分岐。92へいくと会議の合い言葉が手に入ります。
この合い言葉は、会議の超重要情報なのですが、ここを通過しないと回収できないのですね・・・。かなり厳しいことになっております。
これでサーカス団の一件は完了です。
こうやってみてみると、けっこうシンプルな作りをしているのがわかるでしょうか。
ただ、クラスターIの構成の特徴は、このような小クラスターの中身、ではなく、小クラスターの連なり方にあります。後ほど膨大な量を割いて、このクラスターIがどのように構成されているかを分析するのですが、この一点を念頭に置いて、みていくことにしましょう。
この稀代のクラスターは、なかの小クラスターの繋がり方にこそ、秘密が隠されているのです。
●自然史博物館
さて、続いて自然史博物館クラスターをみてみましょう。
クラスターIのグラフ図を見れば明らかですが、この自然史博物館クラスターはたいへんちいさいクラスターです。パラグラフが4つしかありません。
個人的には、こんなちょっとでいいんだw とびびってしまうのですが、これが必要のないところはばっさり切る大局観なのかと、感心してしまいます。
ここは、365から、「恐竜の復元模型を見せてもらう 345」「巨大哺乳類を見せてもらう 253」と分かれて、253に罠が仕掛けられています。
253は「一頭の虎の爪に血痕がこびりついている」という、いかにもなにかありそうな記述があります。これってなにかのヒントじゃないかとたぶん思うと思うのですが、じつはこれはブラフ、つまりミスリードを誘発するための罠です。
用心深い読者諸氏の中には、いや、hikaliが見落としているだけだろ? と思う方もあるのかと思うのですが、いちおう、わたしが持っているデータは完全データで、少なくともこの自然史博物館クラスターに番号ジャンプをする地点はありません。
わたしも、あれ? これってなんにもないの? ほんと? マジ? とかやりながら照合を続けていき、最後の一パラグラフがカチッと最後の位置にはまったときに、ちょw これブラフかwww やるじゃん、スティーブ・ジャクソンw と爆笑してしまったのですが、当時はなんのためにこのブラフが置かれているのかが分からなかったのです。
このクラスターIの構造を解析するうちに、その「はてな?」の謎が解けてきて、ちょw スティーブ・ジャクソンw 老練すぎw と思ってしまいました。
・前に怪しそうを置いて、後ろの本命を隠す
グラフ図を見れば一撃ですが、このクラスターの本命は、古代エジプト美術館です。ここにフラグジャンプが存在し、会議の重大な情報が手に入ります。ですが、この古代エジプト美術館のクラスターはあんまり怪しそうな記述がないのですね。ですので、プレイヤーはどうしても、自然史博物館の怪しい記述が気になってしまいます。
このサイボーグを倒せは、何度もプレイし、何回目か、もしくは何十回目かにクリアできることを想定しています。つまり、プレイヤーは何度もこのクラスターIに突入することが予定されているのです。そこでプレイヤーは、
このクラスターにある秘密はなんだろう?
と考えるときに、どうしても、自然史博物館が気になってしまうのです。
ですが、クラスター内の構成上、後ろの方にある古代エジプト美術館が本命であるのはほぼ間違いないですし、また文脈上、プレイヤーは事件が発生したとして古代エジプト美術館に向かうので、ここに事件があるのは自明です。
それでもどうでしょうか。
どう考えても本命は古代エジプト美術館であるのですが、自然史博物館が気になってしまう。
まさにこれぞブラフw
スティーブ・ジャクソンはここで、情報を混乱させるスパイスをふりまいているのです。
なんとなく、その魔法の粉が見えたでしょうか(^_^;
たった一行、「一頭の虎の爪に血痕がこびりついている」と書くだけなのです。
ここは魔法の現場ですので、参考までにこの253の全文を掲載しておきましょう。
ここから、「ここにある展示品の調査をつづける 161」「恐竜をみたいと思う 345」と分岐します。
いやー、いやらしいですねw
このちょっとした記述が、後の古代エジプト美術館で効いてくるわけです。
●タイタン動物園
続いて、動物園のクラスターです。
と、これをクラスターと呼ぶのはどうかとわたしは思うのですが(笑)、まあクラスターとしましょう。たった二つのパラグラフしかありません。
このクラスターがここに置かれていることは、とてもテクニカルで、全貌を把握すると、このクラスターIの白眉さを際立たせているのですが、それはクラスター構成上の問題でして、このグラフ図を見ていても分からない秘密だったりします。
(ちなみにその秘密が理解できると、たぶん目眩がすると思います……。後述します)
ですので、ここでは、流れだけを追っていきましょう。
まず、408で、
「動物園で、逃げた動物のことを聞くが園長に聞いてくれといわれる。そこで、犯罪探知機が、「古代エジプト美術館」で事件が起こったと通報」
といきなり、犯罪探知機が鳴ります。
ここで、「美術館に駆けつける 158」「案内係についていく 26」と分岐するのですが、案内係に着いていっても美術館に行けます。
26では、捜査の意味がないことが分かり、「古代エジプト美術展へ行く 158」「もう家に帰る 113」と分岐します。
なるほど。
これだけをみていてもなんでこんなクラスターがあるのかが分かりません。
●クラスターI内のクラスター構成
さて、ここからが本解析の本番です。
まずはそうですね、各クラスターの関係がどのようになっているかをみてみましょう。

どうでしょうか。
これを一瞥して、おおおお、スティーブ・ジャクソン、すげwww と思える人はもうこれ以上の説明は必要ないのですが、たとえばこのようにクラスターを並べてしまうと、このすごさが分かりません。

分かりますでしょうか?
本質をさらっと流して言うと、
ゾッとしたのでは(笑)。
この構成が、なぜ白眉なのかが、目の前に現れてきたのではないでしょうか?
そして、これはすごい、とため息が出ているのではないでしょうか。
わたしは、このマジックに震えが止まりませんでした。
これぞ、スティーブ・ジャクソン・マジック。
クラスターIが稀代のクラスターである秘密です。
その話をしていきましょう。
・スティーブ・ジャクソンの構成の基礎
スティーブ・ジャクソンのクラスター構造などをみていると頻繁に目の当たりにするのが、それが階層構造をなしている、と言うことです。わたしがしばしば一列目、二列目、三列目と記載している部分がそれなのですが、彼が作るゲームブックには、明らかに進展を示す段階が存在し、その段階をうまく設計することによって、全体をコントロールしています。
たとえば、このクラスターIを階層に分けてみればこうでしょうか。

これはとても示唆的な図なのですが、たとえば、サーカス団で最終的な地点まで行くと、二列目のイベントである自然史博物館をスキップして、整理用のパラグラフである148へ跳びます。
そうでなく、序盤で跳ねられたプレイヤーには二列目、三列目に行く事を許されます。
階層構造が意図的に作られていることが分かるでしょうか?
事件がプレイヤーの経験を加味して階層的になっているのです。
わたしは容赦がないので、この辺はすっとばしますが、最終的には、第三列で序盤の調整が行われます。つまり、タイタン動物園と148が等価であることでいったんバランスが取れて、ここで、安定します。
つまり、古代エジプト美術館への流入ルートが整えられるのですが、ここで重要なのは、性質があまりにも違いすぎるように見える、148とタイタン動物園のクラスターは、まったく機能的には同じである、という所がポイントです。ここでレベルセットしているのです。分かりますか? つまり、これまでの流れをここで切ってしまって、ここからミイラ事件に繋げているのです。
なにか、自然史博物館で仕掛けた罠がずいぶん遠くに思えますよね(^_^;
・ワンミッション・ツゥールートの原則
スティーブ・ジャクソンのクラスターをみていると、なるべく一つの突入口から二以上の出口があるように設計されているように思えてきます。
たとえば、サーカス団の序盤の失敗には、自然史博物館と動物園の二つの選択肢が与えられます。自然史博物館は成功はあり得ないのですが、どうでしょうか、二つの選択肢が与えられています。
逆に成功した場合は選択肢は一つです。
このリズムが分かるでしょうか。
動物園のクラスターをみてみましょう、家に帰るという選択肢があって複数用意されています。
これがもし、動物園のクラスターが、なかったらどうでしょうか。
この動物園のクラスターは148のシャドーと言ってしまいそうになるのですが、もう少し豊かな方向に生きているクラスターです。
とてもつまらない、一本道な構成になりますよね?
この、一番始めに提示される動物園という、実際にはどうでもいいように見えるクラスターがなかったら、どんだけ、このクラスターIは魅力のない構成になっていたでしょうか?
ぐうとたぶんうなって頂いたことを確信して(笑)、この解説を終わりましょう。
マジックが見えましたか?
これが使いこなせそうですか?
スティーブ・ジャクソンがせっかく残してくれたのですから(註:まだ、ジャクソンは死んでないけど・・・)、こんぐらい使いこなしましょう!
■古代エジプト美術館(表)
さて、あとはさっと流していきましょう。
まず、犯罪探知機に従って古代エジプト美術館に来るところから始まります。
これが、158。
<158>
館長はなにもかわったことは起こっていないと言う。なんなら何もなくなってないか、調べてみようと言われる。
・分岐
「彼の言うとおりにさせてみる 416」「案内をつけてくれるように頼む 135」
ここで、416を選んでしまうと、完全失敗ルート。
416で、
「アモン・ラーの像を調べに行く 385」「一番貴重なアンカリス女王の石棺を調べに行く 240」
と分岐するのですが、どちらへ行っても「とくに異常はない」で美術館を立ち去ることになります。
ですので、135を選ぶのが正解なのですが、ここで情報を得ていないと「裏」へ行く事はできません。この場合は、416ルートと同様に、240へ飛び、そのまま、美術館を去ることになります。
フラグを持っていれば、番号ジャンプで270へ。
ここからは、古代エジプト美術館(裏)です。
■古代エジプト美術館(裏)
270ではいきなり、警備員が正体を現し、ミイラ男になります。ここは戦闘。
「電撃 170」「超体力 109」「これらを持っていない 61」
と分岐し、戦いになります。
この分岐は超体力が正解ルートで、勝てば2へ進み、会議の情報が手に入ります。
電撃を選ぶと、じつは不利な戦いを強いられることが告げられ、
「ミイラ男と戦う 431」「逃げ出す 314」
と選択肢が示されます。
431へ行き、勝てば英雄点が貰える。
314へ行き、逃げ出せば英雄点が減点される。
この辺はシンプルです。
なにも持っていないと、61へ進み、襲いかかってくるミイラ男と戦うのですが、
「がむしゃらに戦う 184」「逃げ出す 314」
と分岐します。
がむしゃらに戦うと、じつはミイラ男は驚異的な回復力を持っているとのことで、このゲームでは珍しいゲームオーバー。
逃げると、314へ行くことになります。
以上で、サイボーグを倒せの稀代のクラスター、クラスターIの解析を終わります。
いかがだったでしょうか?
■関連エントリー
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(前編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195677
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
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http://blog.story-fact.com/?eid=1195687
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http://blog.story-fact.com/?eid=1143535
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473


hikaliです。
ずいぶん長い間、鎖骨骨折の影響で、放置していましたが、復帰です。
さっそく始めましょう。
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・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(前編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195677
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(中編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195687
・詳細GB解析 サイボーグを倒せ [前編]
スティーブ・ジャクソン・マジックを完全解析
http://blog.story-fact.com/?eid=1143535
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
■クラスターI 古代エジプト美術館での〈ミイラ男〉事件
えーと、やって参りました(笑)。
この「サイボーグを倒せ」に登場する、白眉のクラスター、クラスターIの登場です。
わたしなどはこれを見ながら、おおおお、こうやるのか!! すげーw これぞ、スティーブ・ジャクソンマジックとうなってしまったのですが、なにやらグラフ図がかなり複雑なことになっています。わかりやすいように色分けしてみましょう。

どうでしょう。
鮮明になったのではないでしょうか。
このクラスターは実のところクラスター内部に小クラスターを持っていて、それが上手く交通整理されながら、密接に絡み合っているのです。
大きな2つの塊として、サーカス団と古代エジプト美術館があるのですが、古代エジプト美術館の方はかなり絶妙にカモフラージュされています。あまりの罠っぷりに、スティーブ・ジャクソンの老練さを感じてしまうのですが、その辺りを探りながら解析を進めていきましょう。
●サーカス団
・古代エジプト美術館での〈ミイラ男〉事件
(新たなウィンドウで開きます)
327から「自然史博物館 365」「タイタン動物園 408」「サーカス団 4」と別れますが、この4からサーカス団の小クラスターとなります。
4はいきなり罠が…。ピエロが無言で手を引っ張るのですが、これに乗ってしまうと、もう失敗確定。同様にトレーラーハウスも失敗なのですが、これは実は伏線がありまして、途中で手に入る情報で、ライオンの檻が怪しいという情報を得ているのです。
なので、399と223のルートは問答無用で失敗になりまして、上述の自然史博物館か動物園へ行きます。
続いてライオンの檻の前ですが、ここは情報をえてフラグジャンプをしないと、正解のパラグラフにたどり着けない(き、きびしい……)。
えっと、310からですがここは、
「情報を得ている(フラグ) 360」「調教師を捕まえる 383」
「もっと証拠を集める 45」「思念力を持っている 321」
となっていて、前述の通り、360に行けないと、そのまま148へと強制移動されてしまう。
続いて207から戦闘が始まり、
・超技術を持っている 92
・超技術を持っていない 297
で分岐。92へいくと会議の合い言葉が手に入ります。
この合い言葉は、会議の超重要情報なのですが、ここを通過しないと回収できないのですね・・・。かなり厳しいことになっております。
これでサーカス団の一件は完了です。
こうやってみてみると、けっこうシンプルな作りをしているのがわかるでしょうか。
ただ、クラスターIの構成の特徴は、このような小クラスターの中身、ではなく、小クラスターの連なり方にあります。後ほど膨大な量を割いて、このクラスターIがどのように構成されているかを分析するのですが、この一点を念頭に置いて、みていくことにしましょう。
この稀代のクラスターは、なかの小クラスターの繋がり方にこそ、秘密が隠されているのです。
●自然史博物館
さて、続いて自然史博物館クラスターをみてみましょう。
クラスターIのグラフ図を見れば明らかですが、この自然史博物館クラスターはたいへんちいさいクラスターです。パラグラフが4つしかありません。
個人的には、こんなちょっとでいいんだw とびびってしまうのですが、これが必要のないところはばっさり切る大局観なのかと、感心してしまいます。
ここは、365から、「恐竜の復元模型を見せてもらう 345」「巨大哺乳類を見せてもらう 253」と分かれて、253に罠が仕掛けられています。
253は「一頭の虎の爪に血痕がこびりついている」という、いかにもなにかありそうな記述があります。これってなにかのヒントじゃないかとたぶん思うと思うのですが、じつはこれはブラフ、つまりミスリードを誘発するための罠です。
用心深い読者諸氏の中には、いや、hikaliが見落としているだけだろ? と思う方もあるのかと思うのですが、いちおう、わたしが持っているデータは完全データで、少なくともこの自然史博物館クラスターに番号ジャンプをする地点はありません。
わたしも、あれ? これってなんにもないの? ほんと? マジ? とかやりながら照合を続けていき、最後の一パラグラフがカチッと最後の位置にはまったときに、ちょw これブラフかwww やるじゃん、スティーブ・ジャクソンw と爆笑してしまったのですが、当時はなんのためにこのブラフが置かれているのかが分からなかったのです。
このクラスターIの構造を解析するうちに、その「はてな?」の謎が解けてきて、ちょw スティーブ・ジャクソンw 老練すぎw と思ってしまいました。
・前に怪しそうを置いて、後ろの本命を隠す
グラフ図を見れば一撃ですが、このクラスターの本命は、古代エジプト美術館です。ここにフラグジャンプが存在し、会議の重大な情報が手に入ります。ですが、この古代エジプト美術館のクラスターはあんまり怪しそうな記述がないのですね。ですので、プレイヤーはどうしても、自然史博物館の怪しい記述が気になってしまいます。
このサイボーグを倒せは、何度もプレイし、何回目か、もしくは何十回目かにクリアできることを想定しています。つまり、プレイヤーは何度もこのクラスターIに突入することが予定されているのです。そこでプレイヤーは、
このクラスターにある秘密はなんだろう?
と考えるときに、どうしても、自然史博物館が気になってしまうのです。
ですが、クラスター内の構成上、後ろの方にある古代エジプト美術館が本命であるのはほぼ間違いないですし、また文脈上、プレイヤーは事件が発生したとして古代エジプト美術館に向かうので、ここに事件があるのは自明です。
それでもどうでしょうか。
どう考えても本命は古代エジプト美術館であるのですが、自然史博物館が気になってしまう。
まさにこれぞブラフw
スティーブ・ジャクソンはここで、情報を混乱させるスパイスをふりまいているのです。
なんとなく、その魔法の粉が見えたでしょうか(^_^;
たった一行、「一頭の虎の爪に血痕がこびりついている」と書くだけなのです。
ここは魔法の現場ですので、参考までにこの253の全文を掲載しておきましょう。
館長は君を案内して、展示されている剥製をみせてくれる。ゴリラ、サイ、オオヤマネコ、そしてクジラまでも――そこにはなんでもあり、君は興味を持って調べていく。とくに君の注意をひいたものが、二つある。一頭の虎の爪に血痕がこびりついている。しかし、それが人間の血かどうか、あるいはどれほど古いもののなのかは、わかならい。また、館長の話では、象は昨日掃除のために地下の非公開展示室にうつしたそうだ。
ここから、「ここにある展示品の調査をつづける 161」「恐竜をみたいと思う 345」と分岐します。
いやー、いやらしいですねw
このちょっとした記述が、後の古代エジプト美術館で効いてくるわけです。
●タイタン動物園
続いて、動物園のクラスターです。
と、これをクラスターと呼ぶのはどうかとわたしは思うのですが(笑)、まあクラスターとしましょう。たった二つのパラグラフしかありません。
このクラスターがここに置かれていることは、とてもテクニカルで、全貌を把握すると、このクラスターIの白眉さを際立たせているのですが、それはクラスター構成上の問題でして、このグラフ図を見ていても分からない秘密だったりします。
(ちなみにその秘密が理解できると、たぶん目眩がすると思います……。後述します)
ですので、ここでは、流れだけを追っていきましょう。
まず、408で、
「動物園で、逃げた動物のことを聞くが園長に聞いてくれといわれる。そこで、犯罪探知機が、「古代エジプト美術館」で事件が起こったと通報」
といきなり、犯罪探知機が鳴ります。
ここで、「美術館に駆けつける 158」「案内係についていく 26」と分岐するのですが、案内係に着いていっても美術館に行けます。
26では、捜査の意味がないことが分かり、「古代エジプト美術展へ行く 158」「もう家に帰る 113」と分岐します。
なるほど。
これだけをみていてもなんでこんなクラスターがあるのかが分かりません。
●クラスターI内のクラスター構成
さて、ここからが本解析の本番です。
まずはそうですね、各クラスターの関係がどのようになっているかをみてみましょう。

どうでしょうか。
これを一瞥して、おおおお、スティーブ・ジャクソン、すげwww と思える人はもうこれ以上の説明は必要ないのですが、たとえばこのようにクラスターを並べてしまうと、このすごさが分かりません。

分かりますでしょうか?
本質をさらっと流して言うと、
タイタン動物園のクラスターは、古代エジプト美術館へ行くための別ルートなのです。そして、機能的には148と等価です。
ゾッとしたのでは(笑)。
この構成が、なぜ白眉なのかが、目の前に現れてきたのではないでしょうか?
そして、これはすごい、とため息が出ているのではないでしょうか。
わたしは、このマジックに震えが止まりませんでした。
これぞ、スティーブ・ジャクソン・マジック。
クラスターIが稀代のクラスターである秘密です。
その話をしていきましょう。
・スティーブ・ジャクソンの構成の基礎
スティーブ・ジャクソンのクラスター構造などをみていると頻繁に目の当たりにするのが、それが階層構造をなしている、と言うことです。わたしがしばしば一列目、二列目、三列目と記載している部分がそれなのですが、彼が作るゲームブックには、明らかに進展を示す段階が存在し、その段階をうまく設計することによって、全体をコントロールしています。
たとえば、このクラスターIを階層に分けてみればこうでしょうか。

これはとても示唆的な図なのですが、たとえば、サーカス団で最終的な地点まで行くと、二列目のイベントである自然史博物館をスキップして、整理用のパラグラフである148へ跳びます。
そうでなく、序盤で跳ねられたプレイヤーには二列目、三列目に行く事を許されます。
階層構造が意図的に作られていることが分かるでしょうか?
事件がプレイヤーの経験を加味して階層的になっているのです。
わたしは容赦がないので、この辺はすっとばしますが、最終的には、第三列で序盤の調整が行われます。つまり、タイタン動物園と148が等価であることでいったんバランスが取れて、ここで、安定します。
つまり、古代エジプト美術館への流入ルートが整えられるのですが、ここで重要なのは、性質があまりにも違いすぎるように見える、148とタイタン動物園のクラスターは、まったく機能的には同じである、という所がポイントです。ここでレベルセットしているのです。分かりますか? つまり、これまでの流れをここで切ってしまって、ここからミイラ事件に繋げているのです。
なにか、自然史博物館で仕掛けた罠がずいぶん遠くに思えますよね(^_^;
・ワンミッション・ツゥールートの原則
スティーブ・ジャクソンのクラスターをみていると、なるべく一つの突入口から二以上の出口があるように設計されているように思えてきます。
たとえば、サーカス団の序盤の失敗には、自然史博物館と動物園の二つの選択肢が与えられます。自然史博物館は成功はあり得ないのですが、どうでしょうか、二つの選択肢が与えられています。
逆に成功した場合は選択肢は一つです。
このリズムが分かるでしょうか。
動物園のクラスターをみてみましょう、家に帰るという選択肢があって複数用意されています。
これがもし、動物園のクラスターが、なかったらどうでしょうか。
この動物園のクラスターは148のシャドーと言ってしまいそうになるのですが、もう少し豊かな方向に生きているクラスターです。
とてもつまらない、一本道な構成になりますよね?
この、一番始めに提示される動物園という、実際にはどうでもいいように見えるクラスターがなかったら、どんだけ、このクラスターIは魅力のない構成になっていたでしょうか?
ぐうとたぶんうなって頂いたことを確信して(笑)、この解説を終わりましょう。
マジックが見えましたか?
これが使いこなせそうですか?
スティーブ・ジャクソンがせっかく残してくれたのですから(註:まだ、ジャクソンは死んでないけど・・・)、こんぐらい使いこなしましょう!
■古代エジプト美術館(表)
さて、あとはさっと流していきましょう。
まず、犯罪探知機に従って古代エジプト美術館に来るところから始まります。
これが、158。
<158>
館長はなにもかわったことは起こっていないと言う。なんなら何もなくなってないか、調べてみようと言われる。
・分岐
「彼の言うとおりにさせてみる 416」「案内をつけてくれるように頼む 135」
ここで、416を選んでしまうと、完全失敗ルート。
416で、
「アモン・ラーの像を調べに行く 385」「一番貴重なアンカリス女王の石棺を調べに行く 240」
と分岐するのですが、どちらへ行っても「とくに異常はない」で美術館を立ち去ることになります。
ですので、135を選ぶのが正解なのですが、ここで情報を得ていないと「裏」へ行く事はできません。この場合は、416ルートと同様に、240へ飛び、そのまま、美術館を去ることになります。
フラグを持っていれば、番号ジャンプで270へ。
ここからは、古代エジプト美術館(裏)です。
■古代エジプト美術館(裏)
270ではいきなり、警備員が正体を現し、ミイラ男になります。ここは戦闘。
「電撃 170」「超体力 109」「これらを持っていない 61」
と分岐し、戦いになります。
この分岐は超体力が正解ルートで、勝てば2へ進み、会議の情報が手に入ります。
電撃を選ぶと、じつは不利な戦いを強いられることが告げられ、
「ミイラ男と戦う 431」「逃げ出す 314」
と選択肢が示されます。
431へ行き、勝てば英雄点が貰える。
314へ行き、逃げ出せば英雄点が減点される。
この辺はシンプルです。
なにも持っていないと、61へ進み、襲いかかってくるミイラ男と戦うのですが、
「がむしゃらに戦う 184」「逃げ出す 314」
と分岐します。
がむしゃらに戦うと、じつはミイラ男は驚異的な回復力を持っているとのことで、このゲームでは珍しいゲームオーバー。
逃げると、314へ行くことになります。
以上で、サイボーグを倒せの稀代のクラスター、クラスターIの解析を終わります。
いかがだったでしょうか?
■関連エントリー
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(前編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195677
・名作ゲームブックのパラグラフ組みを徹底研究
サイボーグを倒せ(中編)[細密GB解析]
http://blog.story-fact.com/?eid=1195687
・詳細GB解析 サイボーグを倒せ [前編]
スティーブ・ジャクソン・マジックを完全解析
http://blog.story-fact.com/?eid=1143535
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。
「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
