2009.12.08 Tuesday
こんばんわ!
管理人のhikaliです。
前回お送りした[前編]に引き続き、本日は[後編]をお送りしたいと思います。
なんのことか分からない、もしくは、なにかいてあっただっけ? という方はもう一度[前編]をお読みになることをオススメします。なんといっても、本日はブリーフィングモードではなく、容赦のない本番モードですので、手加減というものがありません(<そうでないととてもではないけれど説明しきれない)。
そのあたりは、諒解の上お読み頂ければ幸いです。
■前編はこちら
・ミリーの天気予報にみるゲームブックの作り方。「サイボーグを倒せ」をヒントに。[前編]
http://blog.story-fact.com/?eid=1179473
■「サイボーグを倒せ」のクラスター≒モジュール構造
さて、前編においてわたしは「サイボーグを倒せ」は画期的な構造を取っていると書きました。それはいったいどういう構造なのでしょうか? これがなかなかに作り手からしてみると、かなりフリーダムな構造なのです。
「サイボーグを倒せ」は、いわゆるアメリカンヒーローものに分類される物語です。
超能力を使えるスーパーヒーローになって、悪の秘密結社と戦うといえば大変分かりやすいと思いますが、最終的にはこの悪の秘密結社の秘密会議の場面を暴き、その陰謀を止めよという内容になっています。
しかし、この「サイボーグに倒せ」、明確な図太いストーリーがズドンとあるという構造を取っているのではなく、30〜40の小さな事件の連なりによって構成されています。詳しくは詳細解析の方が詳しいですので、こちらをご覧ください。
・詳細GB解析 サイボーグを倒せ [前編] スティーブ・ジャクソン・マジックを完全解析
http://blog.story-fact.com/?eid=1143535
これを読むと分かるのですが、ちょっと引用してみましょう。
【6】などと【】で表記されているのはクラスターを意味しています。
つまり【6】はクラスター6、【G】はクラスターGを意味します。
【6】
この飛行場では、ハイジャックが起こっている。
あらゆる方法で、ハイジャック犯を説得できるのだけど、中には乗客死亡という選択肢もある。あとゲームオーバーもある。
うまくやると、会議についての情報が入る。
そして全部10へいく。
10で事件が分岐する。
【7】
ここはスターカーズ・ビーチでのサメ事件。
うーん、ここは純粋に戦闘シーンですね。
11項目も使っている・・・。
ただ使い方はなんとなく分かった。
【E】
ウィズニーランドでの出来事。
ここはびっくりハウスがメインなので、他のアトラクションはあっさりとこの遊園地を出ることになる。以下びっくりハウスの顛末。
ここではふざけ魔と戦って勝つと、会議の情報が手に入る。
二通りふざけ魔を見つける方法があるのだけど、結局情報に従って発見しないと情報が手に入らないよう。
このように小さな(?)事件をつぎつぎと解決していくうちに次第に、いろいろな情報を手に入れていくのですが、ふと気付かないでしょうか?
これってどうやって整合性を取っているの? と。
実のところ、この「サイボーグを倒せ」の各クラスターは、
1.どこから来ても整合がつくように、
2.どこへ分岐しても整合がつくように、
作られているのです。
なんといいますか30ぐらいのあんまり因果関係のない事件が連なっているのです。
たとえば、引用しますが、
【A】
ここは煙男との対決。
しかしどうやっても煙男が宇宙科学者の家から重要な情報を電送するのを防げず。
煙男がつかまる項目もあるので、どうするんだろう。
つかまえても逃げ出したことにするのか、もう出さないつもりなのか。
この答えは、もう出さないから関係ない、です。
つまり、ちなみに大統領の暗殺のシーンもあります。
引用してみましょう。
【K】
ここは、敵であるサイボーグと出会うシーンがある。
また、大統領暗殺事件がある。もし大統領が暗殺されても関係なく物語が進んでいくのがすごいのですが、この辺の組み方はかなり参考になる。
この組み方をすると、かなり自由にクラスター組みができるんですよね。
分散型の設計で、これをモノにするためにこれをわざわざ解析しているのですが、物語解析と親和性がとても高い、かなり柔軟な構成を再現できる。因果に一切問われない、物語解析が持っているストーリーの放棄、という最大のテーゼを実現できるすごい構成なのです。
と、ここでは若干興奮気味に書いていますが、要はこの「サイボーグを倒せ」では、因果関係をクラスター内のみにとどめ、その入口と出口を規格化しているのです。
自作PCを思い起こして頂ければ、分かりやすいでしょうか。
たとえばグラフィックボードであれば、その入口と出口の規格を定めているおかげで、windowsPCであれば、自由にグラフィックボードをユーザが選ぶことができます。
このPCで起こっていることをモジュール化といいますが、このサイボーグを倒せでは、クラスターのモジュール化がされていて、ぶっちゃけ、どのようなルートを通ってきても問題がないように作られているのです。
では、どのようにクラスターをモジュール化しているのでしょうか?
これは、わたしが完全に把握しており、「サイボーグを倒せ」を参考にモジュール化した「ミリーの天気予報」のクラスターのひとつを完全にさらして、説明しましょう。
■ミリーの天気予報中盤クラスター2の構成
ミリーの天気予報の中盤は、ヒロインであるミリーに元気になって貰おうと、その希薄な感情に生気を与えるシーンです。元気になったミリーが大暴れするのですが、その過程で主人公のイコウたちは、自然とミリー周辺の人間関係を知っていくことになります。
中盤の前半はミリーに喜怒哀楽を与え、館の中を暴れ回らせます。後半は一転してサディスという港町までその混乱を広げるのですが、このクラスター2は中盤前半のしょっぱな、ミリーに喜の感情を与えるシーンです。
このシーンは海鳥のテラスへ飛び出してはしゃぐミリーをよそに、ディシュというミリーの肖像画を描いている画家とイコウが話すシーンです。グラフを見てみましょう。

36〜43までの、7つの項目でこのクラスターが構成されていることが分かります。
40〜43までの選択肢の番号を見てください。
見ると、51と52へ分岐していることが分かります。
少なくともこのクラスターは、36から入って、結果の如何を問わずに、51か52へ出て行くクラスターになっています。このクラスター内で起こったことは、実際には出口には影響がまったくないのです。分かるでしょうか?
ちなみに、51は「怒らせてみる」、52は「哀しませてみる」です。
このクラスターの内容とは一切関係がなさそうです。
では、このクラスター内で起こったことは、まったく意味がないのでしょうか?
いえ、とんでもない(笑)。
このクラスターは、とてつもなく重要で、それでここに出てきているのです。
このクラスターでは、イコウはディシュと雑談をしながら、この物語の根幹に迫る情報を聞き出すことになります。つまり、ディシュがなぜ絵を描いているのかが分かる重要なヒントが出てくるのです。
しかも2箇所も。(そしてこの2つはどちらかしか回収できない)
グラフを模式化した物を見てみましょう。

このように会話が分岐しています。
しかし、40〜43が合流しているのはなぜでしょうか?
(40)
イコウは、そのディシュの戸惑うような表情を意外そうにみるが、シャリーの声でそれも中断させられてしまう。
「やめて、ミリーちゃん! やめて、お願い、ミリーちゃん」
振り返ると、ミリーが手すりの上に立ち、両腕を広げて走っている。
「大丈夫、シャリー! わたし、チャムに飛び方教わったから!」
イコウが高飛びの石を握るのと、ディシュの顔が青ざめたのは同時だった。
この40〜43は、ディシュとイコウの会話が、ミリーが鳥のように飛べると思ってテラスから飛び降りることによって中断させられてしまうのです。
他も見てみましょう。
(41)
「あ、あの」
イコウの言葉は、シャリーの声で中断させられてしまう。
(42)
「ご名答。これは秘密ですよ」
ディシュはにこっと笑うが、シャリーの声で中断させられてしまう。
(43)
ディシュの言葉は、シャリーの声で中断させられてしまう。
同じようにざっくりと中断させられてしまいます。
この後はまったく同じ文章が続きます。
つまり、選択肢を受けてのその結果+4項目共通のこのクラスターの顛末によって、この40〜43は構成されています。
ミリーの身体はそのまま一階の土の上に叩き付けられ、はねるところをイコウが抱き留める。シャリーが悲鳴を上げながら、階下へ駆け下りてくる。ディシュは、目の前で起こったことにぼうぜんとした。
シャリーがミリーの元にたどり着いても、ミリーはまだ嬉々としていた。
「シャリー、飛んだでしょ、わたし」
「ミリーちゃん、血、血、血が出てるのよ、こんなに」
「あはは、ほんとだ、血が出てる。こんなのはじめて!」
さすがにイコウも気持ち悪くなってくる。
シャリーがイコウをすがるように見ている。
イコウは手早く処置を施し、言う。
このイベントで問答無用にこの喜のクラスターは終了となります。
ここでミリーに怒の感情か、哀の感情を与えることになりますが、そうするとまたミリーはその感情に乗せて、新たに暴れはじめますので、このクラスターとの因果が完全に切れてしまいます。
分かるでしょうか?
これがクラスターのモジュール化なのです。
ここで得た情報は、まったく関係なくなるかというとそうではありません。
ここで情報得たことによりフラグが立ち、中盤のあとにはじまる推理フェイズで大いに活用されることになります。
同じように、この館の主人であるディアマンテと家令のジョゼフのところへ怒鳴り込むクラスター、老いた商人に若かりし頃のディアマンテの話を聞くクラスター、兄がいないことを哀しむクラスターといくつもクラスターが、まったく因果関係を持たずに存在しています。
実のところ「サイボーグを倒せ」も同じような構成をしています。
(というかミリーの天気予報がサイボーグを倒せをまねているのですが)
また、大統領暗殺事件がある。もし大統領が暗殺されても関係なく物語が進んでいくのがすごいのですが、この辺の組み方はかなり参考になる。
この組み方をすると、かなり自由にクラスター組みができるんですよね。
とこの辺で言っているように、実のところ大統領の暗殺が成功したか失敗したかさえ、この物語の因果とは関係なく、ヒーローと秘密結社の戦いが進むのです。この徹底したクラスターのモジュール化をすることにより、作り手はどのような事件でも因果に関係なくつなぎ合わせることができるのです。
ミリーの天気予報を実際に触ってみると、この構成法はどのような形で応用することができるかが如実に分かるかと思います。
実のところ、館モノと呼ばれるシナリオは、舞台ドリブンの構成から、イベントドリブンの構成へ書き換えてしまうことができるのです。ちょっと分かる人であれば、この効果の絶大さは震撼できるのではないでしょうか。
■「サイボーグを倒せ」に見る、クラスター構造
さて、クラスターのモジュール化により、なにやらいろいろなことができるような気がしてきたでしょうか(^_^;
ミリーの天気予報はサイボーグを倒せの劣化コピーで、クラスター内の項目数が多くて7ぐらい、少ないところは1つのところもあるぐらいなのですが、しっかり作り込めば、30クラスター×20項目=全600項目などという超本格型ゲームブックも問題なく作り込める(つまり容易にスケールする)、柔軟性の高い製作法なのです。
しかし、そんなに大きくしたら、矛盾とかしないの? と疑問に思わないでしょうか。
そーですね……、たしかに30クラスターとかあると混乱しそうです。
しかし、大丈夫。
この辺りが、スティーブ・ジャクソンの真骨頂。
実は、この無秩序にすることもできるモジュール化クラスターを、どうつなぎ合わせるかという技術も、この「サイボーグを倒せ」では実現しています。
まずはこれをご覧ください。
「サイボーグを倒せ」のクラスター間の関係を示したものです。
恐ろしく複雑です。
■サイボーグを倒せ − クラスター関係図(全貌)
(クリックすると実寸表示になります)

さすがとうなっていても仕方のですが(^_^; 実はこの関係線、5つほどのイレギュラーな線を取り除くとこうなります。
■サイボーグを倒せ − クラスター関係図(イレギュラー抜き)
(クリックすると実寸表示になります)

こうすると鮮明ですね。
第一列、第二列、第三列と物語の進展に従って、次の列のどれかへ行くという構造を取っているのです。これだけではシンプルすぎるので、イレギュラー的に、同じ列内で移動する線を作ったり、前の列に戻る線を作っているのです。
つまり、まず、矛盾しようがないハニカム状の構造を作ってしまい、そこにイレギュラー的な移動の仕方を付け加えているのです。これであれば、矛盾なく複雑な物語内のエコシステムを構築することができます。
なるほどと、わたしが感心したのはこの作り方で、いろいろ弄りながら、
「およ? これハニカム状になってね? 複雑に見えるけど結構単純かも」
と発見したのですが、これは大変論理的で、作業効率のよい作成方法です。
スティーブ・ジャクソンの作成方法を見ていると、このようなパターンが見えてきます。
1.正攻法ルートの整備 → この正攻法ルートはけっこう難関ルート
2.イレギュラーの整備 → ここをとにかく多彩にする
と、ずぶとい正攻法ルートを整備し、そこに網の目のようにイレギュラーを張り巡らせていく。もし、スティーブ・ジャクソン作品に何らかの秘密があるのだとすれば、これがそのひとつとなのではないでしょうか。
まあ、その辺はよい。
■ミリーの天気予報の中盤の構成
さて、ミリーの天気予報の中盤ですが、こちらも劣化版で申し訳ないのですが、同じような構成をしています。
■ミリーの天気予報中盤 − クラスター関係図(全貌)
(クリックすると実寸表示になりますが、完全にネタバレになるので取扱注意です!)

分かったでしょうか。
以上で、駆け足でしたが、ミリーの天気予報の構造を解説してみました。
本当のところは解決編も解説したかったのですが、これをはじめてしまうとかなりのネタバレになってしまいますので、ちょっと断念します……。
スミマセン……。
というわけで、大変にボリュームのあるFLASHゲームブックになってしまった、ミリーの天気予報ですが、かわいがって頂ければ幸いです。
追記:
おわった……。
やっと、ミリー関連が全部終わった……。
つかれた……。
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