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 『あらしにあこがれて』を終えて雑感

 ぶじに本日、あらしにあこがれての最終稿を書きました。
 内容は、パブーで読めます。

 あらしにあこがれて
 http://p.booklog.jp/book/114111



 まあ、長かったんですが、だいたい1年ぐらいかかりましたかねえ・・・。230枚一年とか長すぎるのですが、なんでこんなにかかるのだろう・・・。
 閑話休題。

 えーと、どこから始めますか。
 まず差し障りの無いところといいますと表紙でしょうか。
 これはウィリアム・ターナーの「サン・ピエトロ大聖堂のポルティコ(玄関廊)の一角、鐘のアーチ」という絵でして、ほんとうはヴィクトリア朝時代の別の画家の絵にしようかと思っていたのですが、ピンポイントでこいつと思っていた人の資料が手に入らず、幸いにも同じような時代のターナーの美術展は観に行っていて、図録も買っていたので、そこから選びました。
 サン・ピエトロ大聖堂と言うだけでもうローマなのですが、石造りの都市の荘厳さは伝わるかなあと。ペネスなんてあるはずもないし、浮遊船もないので、しかたなくシャビっぽいかな? という絵なのです。
 表紙はいい感じにデザインできたかな、などと自画自賛なのですが(^_^; こういうすっくと上に伸びる絵が好きなんだななどと思いました。レイアウトもタイトルがここしかないというところにぴたっと来ていて、左側の男性が階段に座る女の子に歩いているところに視線を誘導できていて、外界の物語が天界へと伸びていきそうで、ドラマチックです。
 自分で作ったデザインでテンション上がっているところが、安上がりでいいのですがw 完全に自給自足ですねw
 閑話休題。

 続いて、もっとも差し障りのあるところを。
 なんでこんなものを書いたのかという部分ですが、これは簡単に経緯を書きますと、去年の5月ぐらいに「死神の帰還」「鉄鎖の次王の恋」と続く第三作を遊びで書いてみたのです(こういう遊びで試しに書いてみることはよくやる)。そうしたら、たぶんプレストーリーを書いてみないと書けないだろうなあと思ったのです。分厚いシーンをいきなり書くのが難しかったのです。
 実のところ、「死神の帰還」も、「鉄鎖の次王の恋」もそうなのですが(つまりこれもプレストーリー扱い)、わたしは設定資料として小説を書くということをします。
 これはわたしが考案したものではなく、「ロードス島戦記」で著名な水野良がそのために短編の連作を書いたという話を読んで、ああ、なるほどこんなやり方があったのかと思って真似しているだけなのです。
 しかし「死神の帰還」など60枚ぐらいで収まるだろうと凄まじい勘違いで書き始めてしまい、結局300枚ぐらいになってしまったという、なんだかよくわからないうちに第一長編ができてしまったというお話です。「鉄鎖の次王の恋」はどんぐらいで収めるつもりだったのかと考えてしまうのですが、構成から逆算すると600枚ぐらいですかねえ・・・。実際には950枚弱で収まっているので、まあ及第点でしょうか。

 本作ももう200枚ぐらいと勘違いもはなだたしい分量になっているのですが(この文章は完結前にかかれています)、250枚ぐらい行くのかなあと・・・。
 また、たぶん、どうしてシルバ、ルナ、セレンと、こんな人たちとして書かれているのか、というのは興味が無いかもしれませんが、この物語はシルバを描くために存在しています。シルバは射撃の名手であり、それ以外はそんなに取り柄のない人物です。無欲で自我がないからなぜかバランサーとしてうまく機能してしまうという役回りなのですが、平凡な人間なのです。
 実はいちおうモデルがいまして、それはわたしの短編である「スミレ」にしか出していないですが(正確には名前しか出ていない)、わたしが書いたモーターモンスター・シリーズのキノシタ・マサトです。
 このシリーズは、ケンジとマサトの骨肉の争いを書いてはみたものの、あまりにもエグかったので、第三者であるスミレ視点で書き直したものなのです。この稿は出していないけれども、保存はされていて、それを読むと、ああこれで行くつもりだったのかと、わたしだけが確認できる状態だったりします。
 のちになって気付いたのですが、「3月のライオン」の桐山零(主人公)にとてつもなく近いです。書いたのが2000年当時ですし、わたしは表に出してませんので、お互い関係性はありえません。
 ただこれは後になってわかったのですが、桐山零が書き手である羽根野チカさんの精神状態に近似していてそのぐだぐだを書いたものだという話を聞いて、ああ、わたしもそういう精神状態だったんだなあと思ったりしました。つまり、どちらも書き手の心情が出たものだったんです。
 またこれは後になって視聴したのですがMHKの番組である「プロフェッショナル 仕事の流儀」のチームラボの猪子寿之さんの回で、この方はかなり著名なデジタルアートの方なのですが、インタラクティブなデジタルアートを作っている方です。まあ、ぶっちゃけ言ってすげえなあと思っています。
 この方が、「プロフェッショナル 仕事の流儀」でお決まりになっているのですが、最後にプロフェッショナルってなんですか? と聞かれるのです。この時に猪子さんが答えたのが、

「いろんな大事なものを捨てちゃってる人じゃない?」

 これは非常に正確にマサトくんを現していて、桐山零でもあります。
 ただ、シルバは機械いじりが楽しそうです。
 それは産業革命期の高揚のなかにシルバはいるからでしょう。
 でも、このシルバを縛らなければいけなかった。だって、天才のシルバが何の苦境もなくすんなりいく物語がどうして面白いのでしょう?
 これを考えるときに常に念頭に置いていたのは、「BECK」(漫画原作アニメ/映画)の小雪(主人公)でした。「BECK」では小雪は執拗なまでのいじめに遭います。竜介と出会って、天性のボーカリストとして開花するのですが(かなり端折ってます)、あの執拗ないじめは、小雪の立場を貶めて、そこからのシンデレラ・ストーリーを描く意図だと思うのです。
 でも、それはわたしにはとても辛いので、そんなストーリーは書けない。
 そう思ったときに姉さん女房のルナが降臨したのです。
 尻に敷かれる夫だったら、まったく不快な描写なく、如才が上がらない人を書けるのではないか。そうしてルナが生まれ、そのお付きであるセレンが生まれました。
 ルナの性格は序盤を書いているうちになんとなくできました。
 しっかりしたところはあるけれど、どこかいい加減で、いたずら好きで憎めない。
 それでも芯は澄み切っていて、けっこう健気で一生懸命。
 シド側のヒロインなので、いろいろバランスは難しかったのですが、なんか書いているうちに出来上がってきました。たぶんここに半年ぐらいかかっている。

 本作はじつのところ、大幅に予定がずれてしまった物語になってしまいました。
 そもそもこのお話はシルバを掘り下げることを目的にしていたのですが、なぜかルナが中心になる話になってしまいました。これは嬉しい誤算だったのですが、書けば書くほどルナが、誤解を恐れずに言えば、男気があって格好いい主人公になっていく。なんだかはっきりしないシルバと、燃え上がっているルナのどちらにカメラを向けるかと言われれば、それはルナになりますよね。
 「死神の帰還(リニー)」「鉄鎖の次王の恋(イオ)」「あらしにあこがれて(ルナ)」と女性視点の人称が続いたのですが、これは偶然です。第三作は(本作は第三作の番外編)シルバ視点になりますし、第四作はリクトルを中心としたボルニア王位承継戦争になりますのでセスク視点になります。第五作はアテナイスを中心としたリュディア族の女の子の付き人(名称未定、お姫様に少年の付き人を付けることがありえないから)です。

 また次に書く予定の話は、一転してSF作品の「メモリゴースト」になり、この人称はリサという軌道警察官になります(どうでもいい話ですがこの人がリニーのモデルです)。これもわたしの中では、ホワイトフィンものと呼んでいるシリーズの第三作目で、第一作はヒトシという中年の男とホワイトフィンとの話、第二作はシンという少年とホワイトフィンとの物語、そして第三作で大本命のリサが出てくるのです。
 だから、偶然なんですよ! といいたいのですが(笑)、お話ごとに人称変えたいのですかねえ・・・。
 これはいちおう前例があって、角田光代さんの空中庭園とか、あとはトリップという短編集とかでやられているのですが、文章書きとしてはやりたいよねえと欲望丸出しで思うのです。だって楽しいじゃないですか。人称変えたら楽しいですよ。シルバ視点でリニーを見たらどうなるかとか、セスク視点でイオを見たらどうなるかなんて、ワクワクしかしません。
「あの人は赤いだけで、結局なにもしてないんだ。赤くて目立つから、便利に使われているだけで、それで思い上がって、リクトルさまにいちいち干渉してくる」
 もう物語になってます。
 メモリゴーストは書くべきなのかなとは思いながら、ぽろぽろネタバレすると、AIをメインテーマに持ってきていて、書こうとしてかけなかったのは2000年代前半なんですが、10年以上経ってみると、現実に追いつかれてしまった物語です。ただ、当時想像していたのと現実は違っていて、だいぶ違った未来が見え始めている、というのが現状です。もちろん修正することなく、当時考えていた内容で書く予定です。
 簡単に言うと、人間性がコンピュータ上で再現できてしまえるようになってしまった世界の話なのです。うん、書いてみると案外ネタバレしてない(笑)。仮想化というキーワードが出てくるのですが、生体上で走っていたものを(つまり脳みそを)、データセンター(という表現はしていませんが、スーパーコンピュータ上で、と書くと分かりやすいかもしれません)で運用できてしまっている世界です。
 近似する作品はいくつか浮かびますが、まんまなのはウィリアム・ギブソンのニューロマンサーがまんまだと思います。そこはなんというか他の派生作品に対して、迂回しないでなんで直接本丸に行かないの? とまんま直線的に、ニューロマンサーで書かれた世界を書いている話です。
 まあ、このお話は、ホワイトフィンものですので、ホワイトフィンがもたらす状況を楽しんでいただければ幸いです。


 ■名称のはなし

 たぶんこのネタが定着したのは、シドという名称は、シド・マイヤーから取ってるんですよ! ということをいいたかったからだと思うのですが、これはわたしが大好きなディック・フランシスの著名主人公であるシッド・ハレーも多少関係あるのではないかとは思います(シッドは蔑称なので、そこはまた別の意味があるのですが)。
 今回は、前作のイオと言う名称が好きすぎて、今回もルナとつけてしまいました(ほんと単純ですねw)。イオという音が持つ生命感がすごくて、ルナと名付けたらどうなるんだろうと思ったのです。これがわたしが大嫌いなサイバーなんちゃらのゲームで、(偶然にも)採用されていて吐き気がしました。まあ元ネタが同じなので仕方ないんですが、不快感はどうしようもないですよね。

 セレンは元素名からです。当然ですがシルバ(つまり銀)も同様です。ただ、ラファエル・シルバとかかなり著名なサッカー選手で同名の選手はいますので、シルバはきれいな名付けだったなと思っています。
 セレンはたぶんラテン語読みで、ギリシャ語読みにするとたぶんセレネになります。
 これはギリシャ神話の月の神様です。なので、ルナもセレンも月を意味していて、そこからルナもセレンも衛星だという書き方をしていました。これが本来あるべき企画の姿なのですが、なぜかルナとセレンの生命力が強すぎて、こっちが主星になってしまいました。

 こういう話をすると、そういう話をする人たちに思っていたわたしのむかしの印象では、「変態的な知識がないと小説というものは書けないものなのか」という印象でした。ギボンは全読しているのが当たり前とか、ブルタークは全部読んでないと話にならないとか(わたしは条件を満たしているけど、本人にはまったくその気はないし、書いててこわいぐらいですw)、わたしもいつの間にかここまで来てしまっただけなので、そんなことはないですよ、と昔の自分に対して教えてあげたいぐらいです(^_^;

 リラは、「メモリゴースト」のリサが関係しています。
 わたしは次に書く「メモリゴースト」のヒロインに、アップルのスティーブ・ジョブスが開発したパソコンの名称をつけようと思っていたのですが、それがリサだったかリタだったか迷っていました。リサが正解だったのですが(ちなみにリタはNHKの朝ドラ「マッサン」のヒロインであるシャーロット・ケイト・フォックスが演じた妻の名前だった。ドラマ中はエリーとなっていたけれど、このページによればリタが正確なようです。竹鶴政孝(これがマッサン)もドラマ中では亀山政春になっています。http://www.nikka.com/taketsuru_rita/)、書いてしまって、翌日目が覚めて原稿を読むと、リラと書いてあった。ああ、通貨単位にしたのか、まあそれもいいか、とそのままになっています。
 もちろんこれはユーロ導入前のイタリアの通貨単位です。
 若い人の中にはトルコリラになぜトルコと説明されているのかわからない人が多いかもと思うのですが、リラと言えばイタリア通貨だったのです。
 こうやって、強い言葉が選ばれています。
(ラスペを抱いているクローナ河は通貨単位のクローネを捩ったつもりだったけど、お隣の国の通貨単位がクローナだった、という話がある通り、通貨は結構名称に使っています)

 ペネスに代表されるようなシドの各都市の名称は、だいたいボリビア付近の赤道直下の国々の名称から取っています。ボリビアの首都がラパスで、シドの首都はラスペです。これは、わたしの地理把握がどう考えても古代ローマ史の範囲に地理勘があって、この範囲の感覚でなんとなく書いているんですが、赤道ってもっと恐ろしく南だぞ、ということを無視して、地名だけ赤道っぽい名前になっているのです。
 同じような地域にあるエクアドルの首都はキトですが、これをもじった名前も使ってみたいかなあなどと思っています。
 ちなみにサイルだけは違います。
 あれは軍事都市なので、ミサイルから、ミを取った名称なのです。
 サイルが鮮やかに描かれるのは2年後ぐらい? なので、随分先だなとか思うのですが、第三作楽しみです(^_^;

 ペネスのゆりかご都市ですが、実はこれはほんの一部だけ元ネタがあります。
 一部だけというのは「名称だけ」貰っているからで、米国産TRPGのルーンクエストのエクスパンション(拡張キットとでも言えばいいのか)、「サンカウンティ- 太陽領 -」に登場するゆりかご河から取っているのです。この追加地域設定の目玉は、大廃都と呼ばれる廃墟と太陽領なのですが、そこを流れているのがゆりかご河なのです。
 名称の由来は過去の伝承に(子供がゆりかごに載せされて流されたというような内容)よりますので、ペネスの姿とは似ようがありません。太陽領という名称と巨大な廃墟という内容から、おそらくエジプトをイメージしていると思うのですが、なにか全然違いますよね。


 ■結局なにが予定を狂わせたのか

 誤解ないようにいいますが、正直いい方向に転がったと思っています。
 もともと予定としてなにも考えてなかったなと思う一方、ルナやセレンの生命力が強くて、それに引きずり回される日々でした。
 まさか、ルナが主役になるとは思ってなかったですし、まあシルバが弱すぎるのですが、こいつは第三作の主役なんです。それが、書いて見ると弱かった。リニーとウォークが参加すると、たぶん強くなる気がするんですが・・・。


 ■次回作

 というわけで、次に書くのは「メモリゴースト」です。
 そのつぎはたぶん、「物語解析」の続きと「hikaliのゲーム論」を書きます。
 その次ですね。
 まあ周到に準備を重ねてきただけあってそう簡単に書けないといいますか、失敗が怖くなってしまいますし、これ書いちゃうと、「メモリゴースト」もその他も書けなくなる気がするのです。
 わたし、書けてないものが多すぎるんです。

 それではまた、次のお話を楽しみにして頂けると幸いです。

| 自作小説 | 20:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』17

「なんで、わたしとシルバの関係に意味があるの?」
 ルナがシルバとの恋仲を公式に否定するとリラはそわそわとし、マシンガンのように話し始めた。
「だっておかしいじゃないですか! どうしてそこまで献身的になれるんですか? 紙に書いてあるだけでダマスカス鋼を探しに行ったり、資金を調達するためにあちこちの貴族に出資を募ったり、どんだけ働いているんですか?!」
 まるでそれが自分の問題であるかのように噛みつき、それは好奇心というよりは、自分の問題をルナに重ねていて、解決策を提示してくれないかと縋るようだった。
 もちろんそんなに甘えられても困る。
「これは兄の工房のことなの。その稼ぎ頭がシルバ、兄の工房を回すためには、シルバがお金を儲ける手助けをしなくちゃいけない。なにかおかしいことがあるかしら」
 リラはしばらく黙った。
「でも、ルナさんの入れ込み様は異常です」
 うるさいわね。
「だって、お話いただいた鉱山用の、えーと」
「排水システムかしらね」
「それです、それだって、ほとんどルナさんが決めてるじゃないですか! ルナさんが勝手に動いて全部まとめてきたんでしょ?」
「だって儲かるんだもん! なんで工房全体で儲かる方法を見つけたら働いてはいけないの? わたしはお金が欲しいの! 工房は黄金を飲む竜だわ。いくらあっても飲み尽くされてしまう。お金がなくなると餓死しちゃうの」
 それでようやっとリラはルナの状況を理解し、舌鋒を収めるが、ぼそっと聞く。
「でも、シルバさんが好きなんでしょ?」
 しつこい。

 蟹伯爵の鉱山に到着すると、そこが最良の事例になるとわかった。
 坑夫である奴隷たちはガリガリに痩せ細っていて、人間として生きているのが信じられないほどだった。
「とにかく、奴隷の消耗が激しくて、カネがかかって仕方ないのですよ」
 激しい軽蔑はするのだけれども、こんな奴らに売らなければならないのかという動揺はどうしても生まれてしまう。奴隷が消耗するだと? 人だぞ。お前の所有物じゃない! 全員に人生があるんだ。
「き、機械は消耗しません。故障したらいつでも飛びつけます。こんなのを放置なんて・・・、」
 暗にこれは犯罪だと言っているのだが、愚かな炭鉱主はそれに気づかない。
「助かりますなあ。頼りにしているんです。約束通り、導入した結果は仲間に伝えますし、良い結果であれば、わたしの報告は喜ばれます。シド中の炭鉱主が群がるでしょう」
 この殺戮がシド中で行われているのかと思うだけで、呆然とするのだけれども、シルバが言い出したことがいかに正しかったかを、戦慄をとともに理解した。
 これはシルバのバランス感覚というか、世界理解の正確さなのだけれども、これが稀代の名君としての素質というか、シルバの感覚の正しさが、シドを救うことになる前例になるのだろうか。
「食事を出そうよ。これじゃあ死んじゃうよ! じゃがいもはあったよね? コンソメで茹でるだけだけれども、おいしいかな?」
「ちょっと! うちの食材も限りがあるから! 適当なことを言わないで!」
「でも、こんなのじゃあ、仕事できないよ。伯爵? いいですか? ぜんぶ費用はうちなので、振る舞っていいですか? おいしく調理します」
「シルバ、余計なことは言わないで。お金の関係はきっちりしないと。遺恨が残っちゃう。お金の問題は任せてくれると言ったでしょ?」
 蟹伯爵は考えるけれども、拒絶はせず、ルナはバターを探し始めた。
 回収しないと、持ち出しじゃないか。
 なんで、最低限を備えていない連中のためにうちの備蓄を出さなければならないんだろう。セレンを見ると目が座っていた。
「請求するから、これは費用だから」
 セレンはコクリと頷き、市場価格を無言で割り出し、慣れた動作で請求書を書き始めた。
 ちょっと、高いかなとは言わなかったけど、交渉できそうな範囲の値段だった。
 そもそも、納品してから請求するので、交渉もクソもない。
 考えあぐねていた時にふいに声がかかった。
「リラ、ずいぶん熱心に仕事をしてるじゃないか。ようやく記者の仕事がわかってきたかい?」
 見上げると、貴族然とした正装の男性。
「クリフォードさま! なんでこんな辺鄙なところまで?」
「シルバさんの工房に用事があったんだよ。それで聞いたらこちらに向かったと言うから、散々だよ。それでここまで来たんだ。重い荷物を運ぶ隊列だし、ここまで一本道だから徒歩でもいつかは追いつくだろうと思ってね」
 初めて会うクリフォードにルナは唖然とし、言葉を失った。青年はにこりと笑う。
「ルナさんですよね? お噂はリラから散々に、とてもお美しい。兄上の工房を支えるために、散々に資金を集めているとか。それで、大口のスポンサーから話をつけてきてくれと言われてきたんです、出資がしたいと。悪い話ではありません。無制限に出資すると言われています」
 ルナは信じられなくて、言葉を失う。
「まあ、信じられなくても仕方ありません。わたしも理解できませんでしたから。でもそれよりも小さな事業を成功させるべきではないでしょうか? キスト郷、この鉱山の状況は正直週報を発行する我々としても、見て見ぬふりはできません。少なくとも改善のために費用を出すべきではないでしょうか。それがじゃがいも代というのはどうでしょう?」
 蟹伯爵は考える。
 セレンはあわてて話し出す。
「じゃがいもはいま高いんです。産地はひどい被害です。豪雨がひどかったんです!」
「そうか」
「水害がひどかったのは分かっているはずです。50%の値上げを提案します」
「それは暴利だね」
 ルナは必死のセレンを遮って、口を挟んだ。
「そうですか? あなたは市価を無視していることになります。あなたは市場価格を無視する商人という烙印を押され、とにかくぼったくる人という事になります。それは週報で伝えられるかもしれない」
 ルナの機転のきいた脅しにすこし蟹伯爵は戸惑い、すこし考えた。
「ペネスの市場価格を確認してから、ではどうでしょう?」
 えらくまっとうな言葉だったが、おそらくペネスの市場の最安値を探すつもりなのだろうと踏む。
「たぶんわたしたちが提示する価格より安い価格はないはずです。うちの工房はいつもカツカツなんです。最安値で買ってないとお思いですか?」
「ふむ、それを信じよう。あなたはいつでも信用できる商人だ」
 気付いてみると、恐ろしくフェアな交渉が成立していて、じゃがいも代は回収できそうだった。交渉成立と見てセレンがじゃがいもを切り始め、シルバが脇で湯を沸かし、そこに調味料を溶かしていく。
 バターとコンソメの香りが食欲をそそり、セレンはその濃厚なスープに薄切りにしたじゃがいもを投入していく。表面積を大きくすれば、味は濃くつく。気付くと鉱山の奴隷たちがこちらをじっと見ていた。少量のキノコも入れる。旨味がブーストされる。
 木製の皿を出して、その炭鉱の坑夫たちに出すと、空腹から人が寄ってきた。
 だれも、それがうまいなんて思ってない。それが料理だから食べるだけで、それが恐ろしくシルバの心を痛めた。材料がない。海産物はないし、醤油も味噌もない。ほんとうの美味しいがない。だれが、一番美味しいものを出せなくて、それでいいと思うのだろう。それでも申し訳程度にいれたキノコは、このお粗末な料理に旨味を彩っているはずだ。
「この食事は申し訳ないですが、材料が揃いませんでした」
「キミは一流になり始めているな?」
 ルナの言葉によそられた皿を味見をしたクリフォードが、にこりと笑う。
「そんなこと」
「キミがどんだけ遠慮がちか理解したよ、ルナ。キミは最高の外交官だよ。外交は卑賤な意味も含むから、交渉官といえばいいか。キミがしているのは、貴族の交渉だ。否定しないだろ? 貴族の商談で料理をうまく合わせられる人間なんて、あまりいない」
 言っていることは分かる。
 端的すぎて、どう返していいのかさえわからない。
「このキノコはいいね。とても美味しい。でも、こんなのを出せる人なんていないんだ。バターもいい、酢が混じっているのもいい」
「クリフォード卿! ほんとに粗末な食事ですみません!」
 にっこりと笑った。
「こんなの食べたら、もっとお腹が空くよ。もっと美味しいものを用意してるんじゃないかって思うし、正直、これを浴びるほど食べるだけでもいいんだ。これは何ていうの?」
 遠慮がちに、セレンがきゅうりの海鮮酢漬けを出す。
 海藻が多すぎるのだけれども、生卵を落としたのがなぜか好評だった。
 混ぜると、酢と卵が合っていく。
 シド人であれば、マヨネーズは好きなはずだ。濃い卵と酢を混ぜるとマヨネーズになるけれども、それが分かっていないシド人は多い。美味しい酢と、美味しい卵を混ぜると美味しいマヨネーズになる。
 どうすれば美味しくなるかが分かっていないのだ。
 みんな損してる。
 大げさな話はやめて、どうすれば美味しくなるかだけに集中すれば、世の中は幸せで美味しい世界になっていくのに。ルナはせっせと給仕するセレンの姿を見ながら、呆然と思った。
 正直、クリフォードは週報を発行している張本人であると理解できるほどに人当たりがよく、さわやかな好奇心を細かいところまで向けてくる。それが心地よくてどこまでも話していたくなるのだが、それがこの青年がクリフォード社の社主である所以だろう。
 ルナはリラがなにか上司に話そうかどうかと思って、そわそわしているのを見て、ふと気づいた。ぽんとリラの肩を叩く。
「クリフォードさん、見てもらいたい銃があるんです、これがなんだかおわかりですか?」
 ドライゼ銃を見せると青年は戸惑った。
「えっと、何ていうんですか? 銃口側から弾を入れない?」
「そう、元込め式です。こういった油紙に包んだカートリッジを装填します」
 ルナから現物を受け取ると、青年は驚いた。
「驚くほど軽いね、半分ぐらいかな?」
「そうです、ダマスカス鋼です。シャビに仕入れに行ったら、通常使っている10ミリ鋼板なんてないって言われたんです。だから、5ミリ鋼板。耐久テストには合格しています。おそろしい耐久性ですよ」
 クリフォードは信じられないと言った様子でその銃をまじまじと眺め、実演してもらえますか? とシルバに渡す。
「あ、はい・・・」
 シルバはおどおどと受け取り、腰のベルトポーチに手を伸ばし、弾倉を握って、美しい所作でそれをボルトアクションの装填部に込める。
「危ないからどいて!」
 ルナの言葉に坑夫たちはシルバの射線からどき始め、シルバはなんの気もなしに、すぐ近くの樹木に狙いをつけた。
 発砲。
 すぐに腰に手を伸ばし、次弾を込める、発砲。
 クリフォードはそれを唖然と見ていた。10発撃ったあたりでさすがにルナも止めたくなり、
「まあ、こんなのもあるんですが、さすがにこれは報道はしないでください。ボルニアが侵略してくるかもしれない時に手の内を明かすのは致命傷です」
「あ、うん、そうだね。これは危険すぎるかな・・・。でもすごい幸運だ。こんなものがシドにあったなんって。スポンサーがどんだけつぎ込むかわからなくなってきたよ」
 クリフォードの発言は非常に危険な匂いがするのだけれども、この青年が間違った道に進むとは思えないので、それを信用することにする。
「週報では厳禁です」
「ああ、いいよ、こんなの見せられちゃったら、ちょっと無理かな」
 賭けには勝ったというよりは、常識的な人だと確認できた、ぐらいなレベルで、この優男は生涯信用してもいいと、思えるぐらいには信用できると、思えてしまったのはふしぎだった。この男を信頼してしまった人の感想を聞きたいところだが、だいたいわたしと同じような感想が出てくるのだろう。
 ルナが生涯信用した人間は二人。
 ひとりがクリフォード、もうひとりは秘密で、それが生涯の夫になる。
 そう考えると、クリフォードはルナの夫になるかも知れなかった。
「社主! キュディスとトランの動向が入ってきたんですが!」
 リラの声に、落ち着いた様子で書面をよこせという。
 書面はだいたい支社から届いた殺風景な書面で、キュディスの虹翼騎竜兵団が全翼をアイギスで飛ばしたとか、トランのタルボットギルドの浮遊船団が首都に集結したとか、うわさレベル物がやってくる。タルボットはいつでも船団を集結させるし、日常的に物騒なことは起こっている。
 しかし、それでも何も起きないのが常。
 クリフォードは一文に気付いて、あわてて言う。
「キュディスがボルニアの後見についた。キュディスの、えっと、黒の兵団? ってなんだろ・・・、が、ボルニアの諜報部隊として参画するって・・・」
「キュディスとボルニアが同盟を結んだんですか?!」
 クリフォードはしばらく考え、うん、可能性はある、と静かにいう。
 ボルニアの侵攻が北へ、ザブンテ、エストと呑んで、北方最強国であるキュディスとトランの二国と国境を接した時点で、南に転進するとは誰もが言っていた。その流れで行くと、キュディスがボルニアを手駒のように使って南へと侵略を開始するのは、当たり前の判斷と言ってよかった。
 シドは熟れて豊かで、堕ちそうな国家である。
 そこに侵略の手が伸びてくるのは常識的な気さえした。ルナはじれてジリジリするけれども、クリフォードは信じられないことに、確信を持ってワクワクしていた。これは後にその理由は分かるのだが、彼はこのショックがシドという大国にもたらす大革命にワクワクしていたのだ。そのほとんどはリニーというかシルバが成し遂げ、世界の形を全部変えてしまうのだが、それはまた別の話だ。
「これがきっかけになるんだ。シルバさんの技術力があれば、シドが変わり始めた姿を見せることができる。僕はそれを伝えたい。シルバさんの工房が加わったときの化学変化がどれほど劇的になるのかを、僕は見てみたいんだ、これは不相応な願望だろうか?」
 クリフォードほど名声のある人物に言われて、揺らがないはずがない。
 正直、この時期のルナはクリフォードに魅了されていて、シルバのことなど忘れていた。もちろんそれは一過性のことで、クリフォードが愛する世界を動こかしている人たちの方が重要だと気付くのはだいぶ先になる。まさか自分がその一人になるとは思わずに。
 ルナの評伝はリラによって書かれるのだけれども、そこから、完全蒸気機関の女神と称されるまでになる経緯を書く人はいなかった。学びの天才とはルナのことだけれども、その経緯も不明だったし、論文にしか名前がなかった。
 なにか異常に詳しいやつがいる。
 その程度の認識で済んでいたのは、おそらくルナも目立つのを避けていたのだろう。
 それでも、なにを言っても裏切りと言われる状況は否定しようがなく、一生を裏切り者として人生を終える。

 ルナたちは、鉱山への機材の設置をはじめ、大きな声で指示を飛ばしていく。
 それは不本意ながら、鉱山の奴隷たちを動員し、まず炭鉱の入り口に蒸気機関を設置し、そこから長々と動力線を坑内に引いていく。ポンプを置くのは奥の奥で、最も問題になっている出水地点だ。
「これで、ぜんぶの水かきは終わるから」
 そういうと奴隷たちの士気が上がるのが心苦しかった。
 ポンプの設置が、ほとんど苦労なく終わるのがこんなに苦しいとは思わなかった。
 設置が完了し、稼働し始めると奴隷たちは歓声を上げた。
 こんなの、お金があれば簡単なのに! それはルナが必死に掻き集めても足りないものだった。
 膨大な水を吸い上げるポンプが、この鉱山から重労働を一掃していた。
 モーターとポンプの音色が心地よく、それだけで世界最先端の解決策を届けている気持ちにひたれた。
「ルナ、すごいね! なんだろこれ! 世界が変わっていく!」
 ルナはひとりごちる。
(あなたが考えたのよ。全部あなたが作ったの)
「シルバ、あなたは謙遜しすぎだわ。もっと誇っていい。わたしは手伝っただけ。これはあなたの仕事なの。ねえ、クリフォードさん、そう思うでしょう?」
 突然に振られた優男は対応に困って、そうかなと遠慮がちに言う。
「ぼくがリラに頼んだのは、あなたの取材なんです。それは、あなたが美人だからではない。銅版画家があなたの肖像を描きましたか? ぼくが興味があるのは、あなたの工房を束ねる才覚なのです。シド最大の工房群をあなたは事実上差配している。あなたの兄のパルの工房群と言われると、莫大な資金が流れています。それを、シルバさんの工房が全部支えている、信じられないことです」
 ルナはおどおどと動揺したが、こういう交渉は慣れていない。
 そもそもなにをゴールにしていいかさえわからない。
「買いかぶりです」
「事実を見ましょう。ぼくは事実しか見ません、それが週報の支持につながっているし、ファクト以外は興味が無いんです。事実が伝わればそれでいい」
 しばらく黙る。
「あなたは人間としては信じられないだけど、交渉相手としては信用できる、かな?」
「奇遇なのですが、それは同感です」
 ルナが言葉を言いそびれると、クリフォードは追い打ちをかけた。
「あなたにしか興味が無いんですよ。もちろん、週報の発行責任者として」
「る、ルナ、これって成功かな? いちおうポンプは排水をしているけど・・・」
 遠慮がちなシルバの声に我に返って、まあ、大丈夫かなとか適当なことを言う。シルバは流れ出る水量に夢中で、クリフォードなど見ていなかった。それが手打ちだった。そもそもシルバには興味がなかったのだ。交渉相手は、将ではなく馬だった。ルナが優秀だから優秀なシルバだったのだ。
 クリフォードは佇まいを正し、改めてシルバに向き合った。
 しかし実際にはそれは事実上ルナに向き合っていた。
「あなたに、ひじょうに有力な貴族から支援要請が来ています。いくらでも金払うと言われているんですが、それは常識的な要請ではありません。無制限に金を払うと言われています。ただし、その対価はおそろしいほどの「あらし」です。望む中で最も大きなあらしが提供されます。もし「あらしにあこがれる」のであれば、ぜひ受諾してください。わたしは強制はしません。「あらしにあこがれる」人だけが参加してほしいのです。あなたは「あらしにあこがれて」いますか?」
 シルバは考えた。
 ルナは口を挟んだ。
「今回の件はシルバが奴隷が酷使されている姿を見るのは耐えられないという利己的な理由から生まれたビジネスなのです。なので、奴隷の売買に賛同する立場の人達には絶対に賛同できません。ですから、奴隷売買をする方々から出ている資金ではないと確約してください」
 クリフォードはにっこりと笑った。
「こんな簡単なことが最終条件だったとは」


 〈了〉

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 『あらしにあこがれて』16


 蟹伯爵の鉱山に向かう山道は、ひたすらに喋っている道中だった。
 しつこいリラに噛みつかれる毎日で、取材者というのは噛み付くことが仕事なのだと思ったほどだ。あ、といえば噛みつかれ、い、といえば噛みつかれ、う、といえば噛みつかれる。
 音ってどれだけ必要なんだろうと思うんだけれども、その一つ一つに説明を求められる。「だますかすこう」とか言ったら、何日かかるかわからない。7音もあるし。
 ダマスカス鋼の話は、恐ろしいほどしたはずで、それでも一切の妥協はおそらくない。もう決着がついている問題なのに、一切の決着はない。すべての特性は話しているのに、それを納得しない。それは分かる、受け入れがたいのだ。
 常識を超えている。
 わたしたちは工業製品を売っているのであって、セールストークを売っているわけではない。言葉なんて単なる言葉でしかないのだが、リラは言葉を売るのが商売なのだ。
「まあ、暇だし、とことん付き合うけど、この銃に触ってみないことにはなにもわからないわよ?」
「わたしは銃なんて撃てません」
 まあそうだよねえ。ふと思いついて、旧式の銃と新式の銃をリラに渡す。
「重さがぜんぜん違うでしょ? 持ってみて?」
「あ、軽いですね」
「そう、これがダマスカス鋼。軽いのに、同じ強度を保てる。だいたい半分の重さかなあ、正確には計ってみてはいないけど、鋼板を薄くできるの」
 リラはしばらく考えていたが、
「薄いと軽くなるんですか?」
 と恐ろしくよく分かってない言葉を返す。
「使う鋼鉄の量が減れば軽くなるでしょ? たとえばリラさんは大量の書類を背負ってくるけど、それが半分に減ったらどう?」
「楽ちんですね、社主がうるさいんですよ、とにかく文字は小さく書けと、それですか!」
「うん、まあ、そんなもんかな」
 リラと話しているのは正直楽しい。
 たぶんそれがリラが重宝がられている理由なのだけど、妹ができた気分になるし、どんどんと教えてあげたい気持ちになるぐらいに素直なのだ。ときおり、猛禽のように執拗になるけれども、問題ないところを答えているときには不快だと思ったことはない。
 たぶん、甘え上手。
 その上手に心を許してしまっているのだ。
「上長から報告せよと言われています。簡単に言うとシルバさんの工房がどう動くつもりなのか。神経質ですよね。わたしもそう思いますし、なんで、こんなに神経質になるのかわかりません。なにか動いているのかわかりませんが、週報を発行していてもわからないことはあるんです」
 リラは正直で、率直で助かる。
 ルナが対峙しなければいけないのは、世界の情報を権力と絡んで統制しているクリフォードなのだ。
「あのさ、シルバ。ドライゼ銃の効能は出してしまっていいの?」
 シルバはぽかんとしたが、あー、考えてないんだなと理解した。
 これはわたしが管理する問題だ。
「これは極秘だと、週報は守れるかしら? それを守れるならば、いくらでも話すけど、書いては駄目。だけど、すべてを話す」
 リラはしばらく考えた。
「社主の、」
「だめ! あなたの問題なのよ! あなたは奴隷なの? わたしはあなたと向き合っている。あなたに話すんだから、あなたが問題なの。リラ、あなたは信頼できるの?」
 時間は長かった。
 震えるちびを見ている時間は拷問に等しかった。
 一時間ぐらい経って言葉が出た。
「わたしには手にあまるんですよ。社主が書けと言えば、書かない訳にはいかないですし・・・」
 散々考えてこれか。
 まあ結局クリフォードと面と向かうしかない。会ったことはないけれど、若く情熱的な貴族の青年だと聞いている。つまり私財を投じて事業をしているわけで、社を傾けないために悪事を働く恐れがないことだけは分かっていた。それに噂では、リニーに頼み込んで体験談を野バラの装丁の本として、ただしフィクションとして発刊し、それで現在を書く使命に目覚めて、週報を発行するようになったと聞く。
 生粋の大公派。
 あらしにあこがれるシルバを悪いようにするようには思えなかった。
「直接、クリフォードと交渉をします。それぐらいの用心は許してほしいの。あなたが信頼できないのではなく、全権を握っているのはクリフォードだから、あなたの社主と直接話さないと埒が明かないの」
 リラは不満げに眉根にシワを寄せるが、不承不承納得をする。
「なにか、戦場を変えてしまうような銃なんですね? たとえばボルニアの騎竜兵団に対抗できるような?」
「クリフォードに会って、話すかどうかを決めます」
 まあ、実際に現物は見ているので、銃に詳しければ、それがどういうたぐいのものなのかはわかったはずではあるんだけれども。

 リラは、あさりのバター蒸しの餌食になった。
 丁寧に砂吐きをさせたあさりは、とにかく美味い。
 夕食をまさかのシーフードだとは思わない。鉱山に向かっている山道である。
「わたしたちはおいしいの。それが全部だしね。あなたをどうこうしたくない。でも、いつでもおいしいから来て。あなたは家族だわ」
 リラがどう考えたかは知らない。
 それは知らないほうがたぶん美しい。
 リラは感心し、なんでペネスで海の幸が手に入るんですか? と聞く。
「それは謎だし、わたしは市場で買っているだけだから。確かにふしぎよね。塩水で活かしたあさりが届くのかしら? 市で聞いてみてはどうかしら」
 ルナの答えにリラは心を膨らませ、わくわくとしている姿は、見ていて可愛らしかった。
「リラさんは、生粋の記者ね?」
「はい?」
「だって、知りたいことが大量にある。どんなことでも知りたいんでしょ? それを知るためならなんでもする。それが記者じゃない?」
 リラはしばらく唖然としていたが、言葉の意味がわかって、震え始める。
「あ、あの・・・」
 泣きそうなリラをあわててなだめる。
「わたしは、正直なところを言ったつもりよ。リラさんが立派な記者だと言ったつもり。正直に言えば面倒くさいのだけれども、その面倒臭さも含めて、立派な記者なの。もしかして言われたことがなかった?」
 リラは耐えた。
「ルナさんにお聞きしたいことがあります」
「聞くわ、手短にね」
 とても手短にリラは聞く。
「シルバさんは恋人ですか?」


 えーと、短すぎてごめんなさい何ですけど、どこで切るかって、けっこう物語の面白さに直結するなあと、書きながら思っています。
 この変な切り方は、わたしが愛読しているディック・フランシスの切り方に近いです。
 すっと書いてきたものを最後で変な方向にぽきりと折る。
 初長編の時から、変な折り方をしているなとは思っていたのですが、あるとき、ああ、これディック・フランシスだ、と気付いて、ああこれが、わたしの長編の流儀なんだと理解したのです。
 変な方向に折りながら螺旋を描くように、ぐるぐると登っていく書き方。
 本家がどう考えているのかは分からないのですが、たぶん話題を分散させてまとめるのに良い書き方のように思うのです。

 さてたいへんおまたせしてしまいましたが(1月ぐらい空いている)、たぶん次がラストです。
 わたしはとにかく終盤が苦手なようで、これは中盤あたりであれば、書かなければいけないことが漏れたら、あとで足せばいいやぐらいの気分でいれるのですが、終盤では一切の漏れが許されなくなるのがたぶん苦手なのです。
 「漏れなく」「面白く」「流れをきれいに」
 とか、どんだけ無理難題なんだと思ってしまうのですが(^_^; わたしはそもそも短編が好きな人なので、長編の大量の情報量をどう処理したらいいのか、という部分でオーバーフロー気味になってしまうのです。

 ここからどう進むのかは、未知の領域です。
 いちおうばらまいていた伏線から回収しなければいけないイベントは自ずと決まってくるのですが、ひたすらに難問を先送りにしてきたつけの精算をしなければなりません。今日が5日で(この文章は5月5日に書かれている)、デッドラインが5月20日ですかねえ・・・。
 いま読み直しながら、次の文章を考えていたら、この終わり方すごいw と理解しました。台詞で終わっているから、受け答えから始められるし、まったく違う領域の話題ができる。
 まあそんなことをうだうだ言ってよりは、次を書き始めますw
 次回、いま書かれている原稿ではクリフォードが出てくるのですが、クリフォード社(リラもそうです)をとてもたくさん出しているのは、シルバが注目されている、ということを書きたいのではなく、クリフォード社を書きたいからだったりします(そう書くと当たり前ですね)。
 このクリフォードは、ルネサンス期のエラスムスとアルド・マヌーツィオがモデルです。
 エラスムスは教科書にも載るような著名人だと思いますが、アルドの方はまったく知らないかもしれません。出版社の父とも言われ、エラスムスの著作を(というか大ベストセラーを)大量に出版した人です。日本で言えば蔦屋でしょうか。で、わたしはこの二人が同一人物だと勘違いしていたんですね(^_^; またエラスムスはルネサンス当時のジャーナリズムの走りだと言われていて、それで現在のなぜか新聞社をやっているクリフォードが生まれました。わたしは正直、人生やり直してなりたいものになれると言われれば、経済紙の記者になりたいと今でも思っています。だからそれを叶えた、クリフォードの活躍をどんどん書いてあげたいのです。クリフォードがやっていることは経済誌(ここで誌になるのは米国では新聞よりも雑誌のほうが格上だから)の記者として、シリコンバレーの英雄たちを取材して、その本を書くということなのです。
 なので、なんでこんなにクリフォードやリラが目立つようになっているのかと言われれば、それがわたしがやりたいことだから、という言葉にたどり着きます。
 欲望に忠実ですみません(^_^;
 
 現状、つぎの稿の原稿が10枚ぐらいはあるようです。
 なんとかデットラインには間に合わせたいなあと思いつつ、あと10枚ぐらいですかねえ・・・。特に苦手問題がなければたぶん間に合います。

| 自作小説 | 17:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』15


 朝に目覚めると、いつもどおりぎりぎりの時間だった。
 みるとシルバの工房は早起きで、予定されていた納品作業のすべてを終えていた。
「あーあーあー、ごめん、寝過ごした、かも」
 メイファは気付くが、嫌みは言わない。
「起きるのを待っていたんだよ、ルナ」
 嫌みを言ったのは、シルバだった。
「うるさい。お茶は沸いているの? 朝はお茶を飲まないと目が覚めないの」
 もちろんこれは言ってはいけない言葉だ。
 それでもシルバは鉄瓶を火に焚べ、そこに茶葉を散らす。
 だいぶ、自分がいけないことをしていることに気付き始めるのだが、どうすればわたしの恥ずかしさを消せるのだろう。
 お湯がわき始めるとだいたいそれが朝食の合図で、崖上から、崖下から、ぞろぞろと工房の面々が集まり始める。パンが配られ、それを浸けるためのスープが配られる。今日はエンドウのスープ。クリームが溶かされていて、甘い。そう言えばもうそんな季節かと思うのだが、たしかに暑いからそうかも。
 季節を忘れている。
 シルバの工房に来るたびに、それを思い出さされる。
 自分が忙しすぎて人らしくしていないと気付かされるのが、シルバの工房なのだ。
「これ、おいしいじゃない? そらまめでしょ?」
「うん、メイファが作ってくれたんだ。メイファ、いつも美味しいね」
 それで頬を赤らめるメイファを見るのは恒例行事なのだが、これに対抗しようとは思わないのもわたしなのかもしれない。別の貢献の仕方があると思っているし、資金調達で負ける気はしない。
 一晩中テストした評価は良好で、それが心を暖かくしていた。
 目立った問題はない。
 唯一、蒸気機関のノイズが気になったくらいで、それはわたしの領域なので、最終調整をすればいい。なんだろうなあとは思うのだけれども、たぶんどこかで強度不足が出ているのだ。間に合うのかと言われれば、間に合う。グリスを塗れば解決するのか、素材を変えればいいのかわからないけど、些細な問題。
「ルナ、いいのこれ? なんか音うるさくない?」
 シルバが不思議そうに聞く。
 そう思うのはあんたが世界最高峰の蒸気機関しか体験したことがないからだよ。
 ルナは落ち着いて、グリスを指に塗って、
「この油が燃えないってほんとだと思う?」
 ああ、ずるい。もちろん、シルバが言うことは決まっていた。
「あ、えーと、試そうよ。燃えたら考えよう」

 もちろん燃えるはずがないのだけれども、そんなに危険なものが工場ラインに入っているわけがない。サウスがそんな物質を放置しているとは思えないし、数千年も先行している文明なのだ。いつでも、サウスの最新技術を導入するときには、これはつきまとう。そもそも理解して使っているわけではないし、借り物でしかないし、宣託を告げるシルバという天才は、わたしには理解不能なのだ。
 シルバは調合したグリスを塗り、なんの問題もないというように、ゴーサインを出そうとした。
「まってよ、これが失敗したら、50万グロアが飛ぶの。せめてわたしに判断させて。これはわたしの蒸気機関だし」
 正直恐ろしい。
 蒸気機関の爆発的なエネルギーがわからないと任せられないし、それが暴走する可能性を想定できるのは、その装置の危険性を理解している人間だけだ。予知できない摩擦熱が生まれる可能性がある。
「少なくとも人知は超えているの。悔しいけどわたしが知り尽くせないほど。だって、これまで莫大なお金を払ってきた奴隷が救えるとかおかしいでしょ、あなたが発想したことだけど。世界を変えてしまうの。世界がぜんぜん違うものになってしまうの。あなたが、基準点になって世界が違う時代に行くの。それはいいの?!」
 恐ろしく正確に伝えたつもりだったけど、シルバは、しばらくゆっくり考えた。
「そんな光栄な事はないよ」

 シルバが世界を変え始めたのは、鉱山の奴隷を開放する運動だし、そのための機械を高価で売る活動だった。
 そして商売上支えていたのは、奴隷は高くて経費がかかるので、継続費用の掛からない機械のほうが安いというルナのロジックだった。だからはっきり言ってとても売れたし、それでシルバの工房は羽振りがよくなった。
 しかしこれは、奴隷業者を完全に敵に回したし、非合法な妨害工作が来てもおかしくなかった。それを救ったのは、大スポンサーを抱えていると明言しているクリフォード社で、シド全土のに大影響を与える週報で、ひたすらにシルバの思想を語り続けた。
 他のだれが、鉱山の出水に対して、機械を使えば奴隷が死ななくなるし、お金も儲かると言ってくれるのだろう。誰もが警告する通りにこれはこわいし、莫大な資金を投じての反撃があった時にこれを救ってくれるセーフハウスはない。
 側にいるのは脳天気なリラだし、直接工房を擁護してくれるスポンサーはいなかった。
「だってさあ、クリフォード社は支えるっていってるんでしょ? だったら乗るべきじゃない? チャンスなんだし」
 これはわたしの未熟な主張。シルバは賢明にも結論を先送りにしていて、実際に利益が出始めるのを待っていた。これはシルバのバランス感覚がすさまじかったという話になるのだけど、これを慎重すぎると言うのは失礼だろう。
 シルバがたぶん考えていたのは、これはたぶん壁が厚いということだけなのだ。
 この感覚がシルバの本質なんだけれども、いつも口うるさい沈黙をするのがシルバ。たとえば非公式だとしても、常に沈黙を挟んでくる。
「なんかいいなさいよ」
 納品先に機械を運ぶ竜車を先導しながら、話しかけてもシルバは黙っている。
「話してくれないとなに考えてるのかわからないんだけど」
「うん、時間を使いたいんだ。ルナはなにかを言うとすぐに大陸の端まで飛んでいってしまうから。シャビまで行ったんだろ? やりすぎだよ」
 ルナはむくれて反論する。
「でも、ダマスカス鋼の調達ルートを作ってきたじゃない!」
「それは感謝しているよ、でも、働きすぎだよ。困ったな、この工房にはすごいメンバーしかいないんだ。あまりにもすごすぎて、おいて行かれそうになる」
 シルバはいつもこんな感じで、常にバックヤードにたたずむ老人のよう。まるでその遅さで全工房の時刻調整をしているようで、掴み難い。気付くと工房の標準時になっている、そんな感じ。言葉をかわすと時間が溶けて、シルバの時間に染まっていく。
「あの、ルナさん、シャビ行きの話聞かせてもらえませんかねぇ? わたし、ボーナスで釣られているので、社主の思うツボなんですが、出すと言うんだから貰うのが筋ですよね!」
 あー、面倒くさいのが来た。
「どうせ、シルバの評伝の隅っこにちょろっと乗るぐらいでしょ?」
「ええ、まあ、そういうことは言わない約束になっているので」
 へらへらとリラは笑うが、このときの取材内容は最終的にはルナの評伝のほとんど全てになるのである。神秘に包まれた蒸気の女王の評伝として。
 ルナが野バラの諸侯のひとりになるのは、この取材のおかげだった。


 まず、短かすぎるw
 これは勘弁して下さい。いちおうこの文章は表紙をデザインした後に書いているので。
 けっこうラストに向けての作業が目白押しで、完結と同時にパブーに全部読める体裁で載せられるように動いているのです。一人何役だよと嘆くのですが(^_^; まあこの文化祭のようなお祭りも、ラストに向けての楽しみと思わないと辛いなあw などと思っています。

 当たり前になるんですが、ルナはシド側のヒロインですので、大量の仕掛けがあったりします。これは仕掛けないほうが不誠実というか、ここでドラマが起こらないとおかしいんです。
 たぶんこの感覚は分かりにくいと思うのですが、何だこいつと目立つやつには、何らかの意図があって目立たせているのです。ルナが物語を面白くすることは保証するのですが、どう面白くするかは言えないんですね。これが明らかになるのは第三作のクライマックスですねえ・・・。
 あんまり中身の無いことを書いていても仕方ないですので、解説いきますか。

 この回はシルバを書いています。
 シルバがなぜ恐ろしいほどの混成部隊をまとめられたのかを、端的に書いています。その答えは積極的な沈黙を駆使していたからとなるんですが、他者が何かをするのを、積極的に傍観しているのです。
 観察していて、それに一切の言葉を挟まないのです。
 シルバは我がないことが超人的な人なのですが、自分の意のままになる方策があったとしても、それを一切しないというところが超人的なのです。
 こんな人はたぶんいません。わたしも含めてありえない人です。
 わたしももちろん欲望はありますし、シルバの立場に立ったらやりたいことはいくらでもあります。それをやっているのがルナで、ルナは主にシルバの欲望(金銭的予算的な)機関として機能しています。ルナが、ひたすらにシルバの研究資金を集めているのが分かりやすいと思うのですが。
 そして思いのほか資本主義の話をしています。ルネサンス人はどう商売をしていたのか、というような。どう資本主義が生まれていったのかを端的に書いています。
 そもそもこのお話は、世界最強の蛮族国と世界最強の文明国はどっちが勝つのか。それを追求すると、文明とはなにかということが分かるはずだ、という確信のもとに書かれているので、ひとりひとりの生き様には、共感するのですが、それは歴史という数百年単位のひとりだろうという意識で書いています。
 わたしは年表の中にいる人達も生きていたんだ、ということを書きたい。
 ただ、テーマが広大すぎて、わたしの手には余ります。

 まあ何よりもお楽しみいただければ幸いです。
 それだけでも大変です(^_^;


| 自作小説 | 22:01 | comments(6) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』14


「あれ? ルナさんじゃないですか、なんでこんなところに?」
 見慣れたとはまだ言い難い猫のような猛禽顔の女の子が、しらじらしくへらへらとして立っていた。
「ひどいですよ〜、工房に行ったらどなたもいなくて、近所に聞いたら谷底に向かったと言うじゃないですか。それで、たぶん降りるならここからだろうなと思って先回りしていたんです。しかしなんですかそれは? ずいぶんたくさんの機械があるじゃないですか。これからなにが始まるんです?」
 ルナはシルバをみて戸惑うが、
「リラさんですよね? 週報の。なぜうちの工房に?」
 シルバが聞くのに、リラは爆竹のように話す。
「上がしつこく言うんですよ。もっと取材してこいって。わたしの取材が片手落ちだって言うんです、なんで竜狩りの方法を聞いてこなかったんだとか、銃の最新型はどうなっているんだとか、大規模なスポンサーが興味を持っているんだとか、全社的にこれは追わなければならない案件だとか、たまったもんじゃないですよ! ちゃんと取材できたと判断できたらボーナスは弾むとかまで言われているんですよ!」
 リラは相変わらず、要らないことまで話すけれども、この無邪気であけすけのない性格にはどうしても心を許してしまう。リラは上と言っているが、クリフォード社は各国の支局を除けば、本体と言えるラスペ・ペネスを担当するのはクリフォードとリラしかないはずだ。となるとそう言っているのは自然とクリフォードになる。
「取材は受けるから、落ち着いて。これからテストするのはぜひシド全土、いえ、他国にも広めてほしいことだから」
 リラは複雑な機械群を眺めて眉をしかめるが、
「これは何の役に立つのです?」
「これから実演するから、みてて! これで世界から奴隷を一掃するの!」

 竜車を動員して、谷底まで下り道を重機械を運ぶのは予想通りに難儀で、ペネスの吊橋から谷底まで何百メートルあるんだと大げさに思ったほどで、実質的には曲がりくねった数キロの数十メートルの高さだったかもしれない。
 そうやって河面まで降りると、ごつごつした河石の上に無骨な機械を設置していく。
 発電機のモーターは遥かに崖上、コンパクトなモーターとポンプを設置して、油紙を針金で補強したホースを河面に浸す。
 上空を見上げると、果てしないホースが伸びている。
 ちらりと見ると、シルバの表情が輝いていて、声をかけていいか迷った。
「ゴーサインは出してね。これはあんたが考えたんだから」
 ためらうことはなかった。
「やろうよ! いますぐ、今すぐさ! なんでやらないの?!」
 なんで失敗するとは思わないのだろう。そうなったら、大失態なのに。シルバは未来に対して太陽のように明るい。片手を上げると、わたしの蒸気機関が動き始めた。こうなると止められない。暴力的な機関が動き続け、この揚水システムが失敗であるかそうでないか以外の結論は出なくなる。
 シルバが確信していた蒸気機関は動いて、それはわたしが信頼されていたことになるんだけれども、シルバが信じてくれたから動くというのは、まるで宗教のようで気持ち悪い。機械は造ったとおりにしか動かない。何百ものパーツが組み合わされたシステムを個々にはテストしているけれど、すべて組み合わせてテストするのはこれが初めてなのだ。
 水を数十メートル上に汲み上げる負荷に、蒸気機関の部品が耐えられるのか、モーター・ポンプもこんな負荷で作動させるのは初めてなのだ。
 ポンプに近い給水側のホースが短くて、遥かに崖上に伸びるホースが長いのは、お粗末なホースが圧力に弱いからだ。吸い込み側のホースは基本的にホースの径が狭まる力が働き、揚水側のホースには外側に広がる力が働く。径が狭まると流れる水の量が減る。なので吸い込み側の径を保つためには、ホースを短くしてできるだけ補強する必要がある。
 こういう話が通じるシルバの工房は楽しくて、なんで誰もが当たり前のように、それを理解しているのだろう、たぶんメイファが、こまごまと言い含めているのだと思う。
 ただそれが、実質的に全権限を握っているわたしに対する抵抗だと考えると複雑になる。お金だけじゃない、わたしがしてることなんて。なんで、お金を差配すると、仲間に入れてもらえないのだろう。
「ルナ! ポンプの様子はどう!? ポンプは動いてる!?」
 明るい声にあわてた。
 理論上は光速で電力は伝わるので、聞くまでもないのだが、作動しているポンプを確認して崖上に両腕で丸印をおくる、どうでもいいけど、これも光の速度だ。声よりは速い。
 ぶるぶると水を吸い上げるポンプを見ながら、これは役に立つのだろうかと考えるのは贅沢な時間だろうか。たぶんシルバはいつまでも見ていて、組み上げられた水にずっと興奮している。
「そっちにいったでしょ! これはだめなの?! いいの?!」
 大声で音速で返すと、光速で丸をくれた。
「これはどこに売るんですか?」
 リラが崖上より崖下を選んだのはさすがの猛禽類だった。
「鉱山、もう最初の売先、ああ、お試し価格だから、売ってはいないかな。そこでテストしてもらうことはもう話はついているけど」
「ああ、テスト協力費と、製品価格は相殺なんですね?」
 うるさい。
「鉱山は頻繁に地下水を掘り当ててしまって出水するでしょ? それをこれまでは奴隷を大量に使って、命の危険にさらせて掻き出してたの。でも、シルバはそれが許せなかったの。だって死ぬじゃない? そんなことさせたら。だけど、機械にそれをやらせれば誰も死なない。計算してみると、奴隷を継続的に買うよりも、機械を買ってそれにやらせたほうが安いの。だったら、機械を買うほうがいい。だから売りたい」
 リラは考えていたが、しつこく考える。
「それって、奴隷業者に喧嘩売ってますよね?」
「売ってる。それがシルバの意思。機械を使って、奴隷をこのシドからなくすのがシルバの意思。わたしはそれを最大限に尊重する。奴隷は悪でしかない。書いてもいいわよ、奴隷を買うより遥かに機械を買った方が安いって」


 10枚ないんですが、この辺が限界かなあと。
 単純に時間がかかっているのは、終わりに向けての文章を整えているからで、だいたいそこに一週間ぐらいは使っています。
 この終わり方は、自画自賛ですが、ルナがかっこいいんですよね(笑)。
 だからここで切ったのですが、えーといちおうこの後に10枚程度の検討していない原稿はあったりします。
 「リラを使う」というのが見えてなかったので難儀したのですが、ながい事考えているうちに、リラを使えばいいんじゃない? と気付いて、このような形になりました。ネタバレはしないのですが、だいたい先が見えるような内容になっているのではないでしょうか。

 機械工学的な話では、ホースの問題ですね。
 吸い込む側のホースは短くて、送り出す側のホースは長いという話です。
 これはこの書いているポンプシステムの問題になるのですが、そもそも、蒸気機関を坑外において長いホースを垂らして、汲み上げればいいのではと思う人もいる気がするんですが、これは簡単な実験でそれが無理であることがわかります。
 それは、ストローの袋をストローから分離させて、袋の方です、袋を思いっきり吸ってみてください。そうすると潰れて吸えないのです。吐く方はいくらでも吐けます。
 ポンプというのは、現在の日常で一番馴染み深いのは掃除機なのですが、掃除機のホースって執拗なほどに針金で補強されていないでしょうか。それは単純に、掃除機の機構上ポンプに当たる部分が、吸込口から遠いからです。掃除機のホースはビニールですが、そんなものはない設定になっているので、油紙を分厚く重ねたものに針金の芯をいれたものという描写になっています。これは実際に機能するのか微妙なんですが、半年ぐらいなら持つかなあとか。こういうところが感覚だよりになっているのは面白い、というか自分で面白がっているだけなのですが。
 まあシルバとルナが設計したなら、そういうところは抜かりがないだろうとか、設計図まで文章上で書いているわけではないので、登場人物のせいにしてしまうのですが、まあたぶんあいつらならちゃんとしたものを造っているだろうなどと思っています。


| 自作小説 | 21:02 | comments(0) | trackbacks(0) | 昨年の記事
 『あらしにあこがれて』13


 シルバたちが作り始めたのは、ドライゼ銃のボルトアクション部分で、その両端が閉じられたものだ。銃の装填部分だけがあって、銃身がない。装填するのは本来は打ち出す弾と火薬と起爆装置から弾を除いたもので、一弾ごとに油紙で包んで携帯しやすくしている。シルバはベルトに革のポーチを付けたものをどこかで作ってきてもらったのか、そこに数十発の弾を入れる。
「じゃあ、やろうか、まず10ミリから」
 おもむろに言って、出来上がった試作機を、必要はないのだけれども構える。
 たぶん、シルバにしてみればドライゼ銃の使い勝手のテストのつもりなのだ。
「お金がないから、それぞれ20発ずつ」
 誰にも見えない標的に照準を合わせて、放つ。それから射線の先を凝視して、舌打ちをする。外したようだ。装填口を開き、革のポーチから新しい弾を掴んで装填して、また放つ。
 それはうつくしい所作を見ているようで、流れるような動作にルナはシルバがなぜ射撃の天才なのかが分かる気がした。10分も経っていないはずなのだけれども、その狂気の時間に出資をしたくなった。
「こんなもんかな。銃身がないと結構ぶれるね。銃口を重たくした方がいいかな?」
 シルバは装填口に手袋越しに触れ、それから手袋を脱いで触る。
「あち! まあ、いつもこんな感じだし、やっぱりこの銃は熱が弱点だなあ」
 にこにこと笑っていう。それから、手袋をして装填口付近の様子を綿密に見る。先込め式の場合は爆発させた火薬のすすを取るのが普通なのだ。それですすがどれだけついているかを見ているようで、うんうんと頷いた。
「20発までは大丈夫。限界がどこにあるかはわからないけど、冷却も必要だし複数持つか、整備をしてくれる人が必要になるのかな?」
 ルナにはそれが異次元の発想すぎて、なにを言っているのかわからなかった。
 なにを想定しているのかがまったくわからない。
 まるでサウス人と話しているよう。
「じゃあ、5ミリ行こうか」

 テストを終えたシルバは始終満足げで、メイファがいれたおいしい紅茶を飲みながら、ビスケットを食べる。
 テスト結果を聞くまでもなく、シルバが5ミリのダマスカス鋼を気に入っていることは明らかだった。頭のなかではシャビの工房に送る発注書に添える挨拶文の草案が渦巻いていたのだけど、卓を汚さないように丁寧にビスケットを食べるセレンの姿が目に入ってしまって、あれ、セレンって孤児院あたりから来たんだっけ? と思ってしまう。
 それはシルバの姿と重なってしまうからで、そんなに遠慮する必要はないと、どうしても思ってしまうのは、ルナが特権階級の人間だから。
 いや違う、セレンは読み書きができるし、それは修道院で習ったと言っていた。
 そうなると、やはり身寄りがなくて引き取られたのだ。セレンの高潔さはたぶん修道院の空気を引きずっているのだろうし、厳格な規律の中で植え付けられたものなのだろう。
 そんなに丁寧にビスケットを食べなくてもいいのに。
「セレン、もっとざっくばらんに食べていいのよ。難しいかもしれないけど」
「あ、あの、わたし堅苦しかったですか?」
 あわてるセレンの頬に指を触れる。
「いえ、でもあなたが好きよ。それはあなたがあなたである以上変わらない、信じて」
 セレンは当然なのだが赤面する。
 それからもごもごもと何かを言おうとして、やっぱり言えずに黙る。
「セレンはよくやってくれているわ。正直わたしがいなくても大丈夫なのではと思うぐらい。でも汚れ仕事はわたしがやる。それはわたしの永遠の職務だから。でも、それはわたしがやるから、もうちょっと汚れていないところをやってくれないかしら? けっこう手一杯なの」
 セレンは、すこしずつ泣き始めた。
「ルナ、さまは、ずるいです・・・。だって、なんで、断れる、んですか。お金の計算ぐらいさせてください・・・。わたし、算術は習ってるんです。もっと頼ってください・・・。それぐらいできるんです・・・」
 目の前で起こっている光景が信じられなくて、その心細い肩を抱いた。
「わたしはあなたに汚い仕事をしてほしくないだけ、そんな犠牲はわたしだけで充分。わたしにはそれをしなければならない十分な理由があるの。だって、兄の妹なんだもの。でも、セレンがそれを手伝う必要は一切ない」
 セレンは悲しい表情をした。
 しばらく考えて、
「それはわたしが相応しくない、下賤の身だからですか? ルナさまは高貴なご身分ですから、わたしなんかに任せられないと・・・」
 ちがうちがう!
 そんなふうに思っていたのかとショックを受け、それをどうしたらいいのかわからなかった。
 こんな仕事、やっちゃあいけないのよ。
 投げ出していいと言われれば、正直投げ出したい。それをか細いセレンに丸投げするのは虐待のように感じるし、たぶんセレンはわたしに任せきりなのを酷い仕打ちをしているように感じているのだ。
「あの、ルナ?」
 ぽかんとしたシルバを見て、現実に引き戻された。
「なんだかわからないけど、ぼくたちも頼って欲しいかな。この工房は自慢じゃないけれど、みんな優秀だ。メイファのすごさは分かっていると思うけど、手伝えることなんていくらでもあるよ。ルナが抱え込むことではないよ」
 我に返って工房を見ると、好意的な眼差しが自分に向いているのに気づいた。
 照れ隠しにビスケットを齧る。
「じゃあ・・・、テストをするから・・・。わたしの蒸気機関、バーナードのモーター、ハッカビー兄弟のポンプ。それを合わせてみましょう・・・。シルバ、あなたの望みどおりのものになっているかはわからないけれど」
 シルバは太陽のように笑った。
「最高だね!」
 なんでこんなに眩しいのだろう。
 この太陽に照らされると、ぽかぽかと陽だまりにいる気になる。


 もう1シーン書くべきではないかと思ったのだけれども、ここからテストのシーンにつなげるのも何だかなあとと思ったので、短いと思うのですが、ここで切ります(これまで15枚平均だったのが10枚ないですもんねえ)。
 出していないので分からないと思うのですが、この直前に書かれていた文章はひどいものでした。わたし自身のコメントとして、「なんだこれ、ひどい。小説を忘れている」と書いているほどです。ただ、そこからの復旧方法を、なんか会得したかなとか、そんな自信回復につながる回でした(まあそれだけ下書きの時点ではひどいものを量産しているわけなのですが・・・)。
 なにげに前回書きたいと思っていたセレンの話も掘り下げられましたし、ルナがよく書けていて、シルバもよく書けている(唐突に介入してくるシルバとかお気にいりw)。短い文章ですが、まあいいか、というぐらいには書けている気がします。
 ちょっと臭いかなあとは思ったのですが、好きで読んでる漫画とかけっこう臭くて、自分はこういうのが好みなのかなと・・・。まあ前作が結構殺伐としていたというか、ほぼほぼ戦闘シーンの連続だったので、今回は日常モノ(と言うか文法的には少女漫画の文法ですよね・・・)になっていて落差がすごいなあ、などと思っています。

| 自作小説 | 20:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』12


 日が暮れて、夜気が冷えてくるとさすがに頃合いになる。
 松明を炊いて綿密に数値を取っている少年たちの間にたたずむバーナードに、無言で視線を送った。
「耐えたと思っていいのでしょうか?」
「充分。はじめから分かって分かっていたけど。でも軽さ。もっと軽くして。ダマスカス鋼は使えると思うからそう言ってるの。あなたはこの鉄の実力をハッカビー兄弟よりは理解していると思っているでしょ? だったら証明して」
 わたしの仕事はだいたい現場の尻を叩くことだ。
 脅しはしないけれども、顧客が望んでいるであるであろうことを確実に伝える。
 それをちゃんと達成してきたら、それは命をかけて売る。
 それで利益が入ってくると、だいたい信用される。
 殺伐としているけれども、それがわたしのサイクルだ。これが商売だよ、お兄さん、と思うのは皮肉なのだけれども、核にシルバがいないと回らないサイクルではある。シルバの信用の力はすごくて、シといえばだいたいうまく回る。
 このバーナードだって、シルバのシステムに入ってしまえば、たぶん資金になる。
「ずいぶん寒くなってきましたね。明日の朝にはペネスに立つのですが、」
「ああ、すみません。泊まるところが薪の前とはいきませんね。部屋は用意してあります。それよりも夕食ですよね。実は用意してあるんです」
 キャンプファイアのような篝火の前にクッションの効いたマットを用意され、そこに座る。セレンを側に呼んで、細かなペネス行きの打ち合わせをしながら、お茶が振るまわれて、それをおいしく飲む。
 前菜は、わらびの塩漬けで、それからオイリーな魚の燻製が出た。
 そうするとだいたいくるのは、サーモンだ。
 臭いほどに新鮮なサーモンが刺し身ででて、暴力的なほどにわさびとしょうがで食えと主張する。ひとくち口にするサーモンは美味しいけど、どう食べたら一番美味しいかが分かっていない味付けだ。
 たぶん、アボガドとわさびを合わせると凶悪なのだけれども、それに合わせるパンの塩分が気になってしまう。醤油はどの醤油がいいのだろうとか、魚醤がいいのだろうかとか、生醤油がいいのだろうかとか、つい考えてしまう。
「ルナさま、明日なのですが」
 うん、分かっている。
「バーナード、どれだけダマスカス鋼を置いていけばいい? シルバの方でも使うから必要最低限にしてほしいのだけど? もし足りなかったら発注して、届くのは1月後だけど」
「もっと薄いほうがいいのですが、5ミリ板を20枚ほど」
「そんなのでいいの?」
「あー、モーターは細かい部品の集合体なのです。それを加工するのに1月はかかります。つまり作業している間に次の荷が届くのです。それにモーターの心臓部はコイルです。そこが一番重いのですが、電気抵抗の関係で鉄を使うわけには行きません。銅線なのです。それに強度の必要なところではありませんし。要らないと言っているわけではありませんよ? ペネスからお戻りになる頃にはだいたい試しし尽くしていますので、そのときに発注します。ですから、かならず寄ってください」
 ルナは、うんと頷く。
「安心したわ。わたしも自分の工房を見なくちゃ、こんなの久しぶりなの、わくわくしているのよ? あのクレーンの旧型がわたしの蒸気機関だなんて思われたくないじゃない? ぼろいじゃない?」
 苦笑する初老の男がこれほどに楽しそうにするのを見たのは初めてだった。
「ルナさまがこんなに機械狂いで、仲間だとは思いませんでしたよ」
「あら、わたしはこれでも蒸気機関の技師なのよ。機械にさわれない雑用なんてしたいだなんてこれぽっちっも思ったことはないの。でも、わたしが好きな機械いじりを犠牲にしないと、兄の工房は回らないでしょ、仕方ないの」
 気おくれしているセレンに気付いて、夢中になっている心を取り繕う。
「ですがお料理は、落第点があります」
「え? はい?」
「醤油にお詳しくないですよね。醤油は新鮮なほど美味しいのですが、これは数年経っている醤油です。調味料は厨房にずっとおいておくのではなく、その日使う分を市場で買ってくるといいですよ? できれば一番美味しいところを選んで。お店ではこれは出せません。あ、そう・・・、いやですよね、こんな知識ばかりがつくんです、接待ばかりしてると」
 おもわず言ってしまって、あわてて誤魔化すが、こういうのが、だめなのだ。率直に言い過ぎる。
 言ってしまったあとに、さりげなく打ちひしがれるセレンを見た。
 あなたに言ってるんじゃないのよ。
 これを引き継げと言っているわけではない。
 こんな汚れ仕事を引き継いで欲しいとは思っていない。

 ペネスに経つ日は、だれも見送りしなかった。
 バーナードはそんな人だと思っていたし、逆に見送りされたら何か変なものでも食べたのではないか、なんか悪いこと言っただろうか、と考えてしまう。
 ペネスが特別なのは、シルバがいるからで、兄貴の工房からすると、唯一の利益を上げられる工房があるからだ。
 ペネスに竜狩り都市の名を冠されているのは、だいたいシルバのせいで、かれは特別な狩りをし、それを仲間に教えている。もともと伝統的な狩りではあったのだけれども、シルバが完成形といえる領域に磨き上げ、幾つもの狩猟団が繁栄するようになった。
 それは誰も見たことのない狩りの仕方で、ペネスに根付いてしまった鉄砲文化と、シルバが製造する銃で成立している。これに誰も注目していないのがふしぎなほどで、大量に上がる利益は兄の工房を支えているのだが、そこに着目する人はあまりいない。
 シルバの射撃の腕が支えていると思われているからだ。
 その通りであって、その通りではないのだが、もう少し理解しようとしてもいいではないか。
 あのリラという猛禽のような取材者でもドライゼ銃に気付かなかった。たぶん、シルバのような射撃の天才であれば、百発百中なのだろうという誤った理解をしているのだ。
 彼の狩りは特別で、呼子と呼ばれる追い込み衆が竜を特定の場所に追い込み、獣脚竜に乗ったシルバが、その躍動する竜の背から、襲いかかる竜の急所に命中させて、失神させる、組織的な猟なのだ。
 これはなんど見ても手品にしか見えないのだが、何百という失神した竜が、貴族に売られている記録が残っている。
 その中心に、メイファという天才的な工房主がいる。
 シルバがそれを見つけてきたときは、この幼馴染の圧倒的な才能に、打ちのめされた。
 奴隷だったという。
 当たり前のようにシルバに恩義を感じて、見た感じは恋愛感情も持っている気がするので、面倒くさいのだけれども、あの女の言い分なんて聞く必要はないんですよ、と言われてしまう。
 頑張ってお金を回そうとしているのに。

「はー、でも、ほんとにこれがシルバの役に立つのかしらね? だって、あいつ外さないじゃない。後詰めとか意味ないでしょ。だって一発しか打たないんだから」
 セレンはまたかと思い、ルナを諌めようと考える。
「たしかにシルバさまのような射手は稀有です。ですが異常者を前提に工房を考えるのは間違っていますし、商売相手の売り先は下手くそですよね?」
 バツが悪くなるというよりは、まあそうだと素直に思った。
「そ、そりゃ、そうよね。一番気にしなければならないのは、だれがなにを望んで、何がほしいいか。そんなのわかってるし、」
 隊列となった竜車を先導しながら、言葉少ないセレンを、背丈の関係で見下ろす。
 この少女はだいぶ無理をしていた。
 わたしは譲るべきだし、この子が背伸びをしていることを、自分の責任だと思うべきだと思った。というかセレンや各工房にどんだけ低い賃料で働かせているんだよ、と思うし、どんだけわたし無報酬で働いているんだよ〜、と思う。

 ペネスまでやってくると、どうしてもどれだけ稼げるかと思ってしまう。
 それは良くないことだと思う以前に、どれだけ搾取してきたのだろうと思う都市だし、この地に足を踏み入れると、罪の意識でアウェイだと思ってしまう。
 ラスペは盛大にお金を配っているホーム。ペネスはお金をむしり取っているアウェイ。
 連れてきた竜車の列にも、金稼ぎなさいよと言っている気がするし、そもそもわたしはシルバに金を稼げという以外に興味が無い気がないような気がして心細くなる。
「これはなんですか? 書類の申請がないのですが? 鋼板ですか?」
 入り口で捕まって、うっかりしていたことに気付く。
「ダマスカス鋼です! シルバさまの工房から申請が出てませんでしたか!?」
 あー、いえ、えーと、書類は来てませんねぇ。
「へー、シルバさんが、ダマスカス鋼ですか! それはニュースだ」
 何か面倒になりそうなので、セレンをなだめる。
「シャビからの荷受け証はあるから、これで代わりにならないかしら? ダマスカス鋼をシルバの工房で使っていることが証明できればいいんでしょう?」
 ルナの顔を見て、税関の役人の顔が固まった。
 こういうのは楽でいい。
「あ、はい、ルナさんですよね! 光栄であります!」
 税関を通過して、うんざりしたルナはセレンに追い打ちをかけられる。
「ルナさまって、顔パスなんですね!」
「いえ、あれ、不快なの・・・。特権階級みたいに見えるでしょ?」
 ああ、まあ、実際に特権階級の人間なんだけど。

 シルバの工房にダマスカス鋼を運ぶと、数字を測るテストが行われて、ルナが数字を言って、だいたいそのとおりだとわかると、テストの輪は消えた。
 メイファを伴ってシルバが目の前に座り、興奮した様子で話し始める。
「この鉄はすごいね。どうしてわざわざシャビから仕入れてきたの?」
「ああ、うん、渡した文献にダマスカス鋼って書いてあったでしょ、だからそっちのほうが性能が良くなると思ったから」
「ルナってそういうところ律儀だよね、まあ助かるけど」
 きょとんとして言われると、それぐらいしか取り柄がないと言われているような気さえしてしまうのだが、シルバは明るく他意がないことは明らか。
「まだこれはサンプルで、お金は払ってきたけど、正式に発注したわけではないの。10ミリ板と5ミリ板を持ってきたから試してみて。この工房で使ってるのは10ミリ板でしょ? でもシャビでは10ミリ板なんてめったに使わないっていうの」
 シルバはしばらく考えたが、まあ、爆破してみないとなあ、と不穏なことをいう。
「爆破?」
「そりゃそうだよ、鉄砲なんだから。発砲時の熱と圧に耐えられなくちゃ。しかもドライゼ銃は前込め銃よりも頻繁に連射するんだから、熱はとんでもないことになる」
 ああ、なるほどと理解するが、それ以上突っ込むのは専門でないだけあって野暮だ。
「でもこれで、劇的に軽くなるかもなあ。5ミリ板で10ミリ板並の耐久性が出たらとんでもないことになるよ!」
 まあわたしはこうやって、きわめて精密に有頂天になっているシルバを見ているのが好きなのだ。
「それよりも、例の鉱山のポンプの話、蒸気機関とモーターとポンプを持ってきたから、あとでテストしましょう。それに最初の顧客も見つけてきた」
 なんかそう言ってしまうと自分がシルバに忠実な猟犬のような気がしてしまう。
 でも多分セレンの言うように、わたしはシルバの名前を使って勝手に儲かる商売を作っているだけなのだ。それがシルバの望んでいた事の実現につながるなら、それでいいじゃないか。


 えーと、定型句になっておりますが(^_^; 大変遅れました。
 なんか前回の立て直し部分で持ち込んだものが結構効いていて、ああこう効いてくるんだと、とても勉強になりました。ただセレンの扱い方が雑かなあとか思っていたり、掘ると楽しそうなのですが、掘りすぎると本題があいまいになってしまうかなあとか。本作はルナ視点なので、ルナの内面を大量に書くことになっていて、シルバを客観的に見ているのですが、セレンはルナを客観的に見るのに大変便利だったりするのです。
 でも、セレンにも内面はあるわけで、そこを書き始めるとどうなるのかなあとか。まあ、シルバの衛星である、ルナの衛星である、セレンを掘りすぎるのはどうかなと思ってしまうのは甘いのですかねえ・・・。なんか展開のさせ方があるのですかねえ。
 研究課題です。

 今回解説が必要なのは電動モーターですかねえ。
 電動モーターというのは、電磁石となるコイルを永久磁石の磁界の中で磁力を使って回転させることで動力となるものなのですが(分かりにくい説明だ・・・)。動力となる一方、反対に回してやると発電機になるものです。
 ルナが作っている装置では、蒸気機関を動力にしてモーターを回すことで電力を発し、その電力をもう一対のモーターに送ることで、動力を発生させてポンプを回すのです。
 なにか、なんで2つのモーターを介する必要があるのかと思われるかもしれませんが、これは単純に蒸気機関が排気ガスを出すからです。なので、蒸気機関は坑外に置き、発電側のモーターで発電し、長い電線を通して坑内に電気を送って、そこでポンプを稼働させるという仕組みなのです。
 かなりショートカットして言うと、かなり強烈な電池があって、モーターを稼働させるのに充分な電力が永久に供給できるのであれば(ほとんどありえない前提ですが)、わざわざこんな装置を作る必要はありません。電池にモーターを直結してポンプを回せばいい。それができないので、石炭を燃料とする蒸気機関を動力として、発電機を噛ませて、坑内に電力を送っているのです。また発電所と送電網が整備されていれば、とうぜんにこんな装置は必要ありません(現在使われているのはこれですね)。

 現在と産業革命当時は大幅に前提が違うので、説明が必要になりました。
 いちおう歴史小説なのです・・・。
(かなり苦しいけど・・・)

| 自作小説 | 22:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
 『あらしにあこがれて』11


 バーナードの工房にたどり着くと、少年の従事がはきはきと迎えた。
「ルナさま、お話は聞いています。シャビから戻られたとか、ですが主は懐疑的です」
 頬を赤くして必死に訴える少年がかわいそうに思えて、ルナはその子に同情した。
「機械が全部揃っているから、それを確かめてほしいの、全部やってね。信じないだろうと思ったから全部持ってきたの。テストしてほしいの」
 親指を立てて、蒸気機関が稼働していてぶるぶると震える竜車を指すと、やっと意味がわかったようだった。
「あー、主に伝えに行きます!」
 ばたばたと少年は奥へと戻っていく。
「ここはいつも変わらないわねぇ・・・、ハッカビー兄弟の工房みたいにすんなりとは行かない」
 セレンは遠慮がちに言う。
「も、もしかして、ここって面倒な工房なんですか・・・?」
「あー、うーん・・・、そうかも・・・。そんなこと考えたこともなかったけれども、面倒といえば面倒かも。馬鹿と天才は紙一重と言えばいいの? 売り方がわからなかったから放置してたけど、今回の件でどうも役立ちそうだと思ったから、お願いしたの。わかるでしょ? 天才肌の、すごく神経質な工房なの」
 セレンがメモをし始めるのを見て、いやぁ、困るなあと思ってしまう。
 わたしが考えていることがだだ漏れじゃないか。
 ただ、セレンがわたしの仕事のだいぶの部分を肩代わりしようとしてくれているのは、心強かった。屈んで耳元で囁く。
「言っちゃ駄目よ。わたしがあなたが天才か馬鹿なのか掴みかねてるって言ったら問題でしょ? ちょっと問題はあるけど、天才だから許す、くらいでちょうどいいの」
 すぐに初老の男が駆け寄ってきて、口を開く。
「す、すみませーん。来る気はしてたのです。それで最終試験をしていたのですが、あれ? どうしたのですか?」
 バーナードがきょとんとした顔をする。
「ああ、驚かせてごめんね。ハッカビー兄弟のポンプが素晴らしかったから、ぜひ、合わせてみたいと思って、持ってきたの。テストする準備はできているんですよね?」
 バーナードは竜車まで寄り、そこに備え付けたる旧式のクレーンを見上げる。
「これ、だいじょうぶなんですか・・・? だいぶ古いですけど」
「今のところは問題は起こってないから」
 ふんふんと見聞きしながら、バーナードはきざに高価な葉巻を吸い、合わせてみましょうという。
「実機は全部持ってきてるから、なにか不満があれば言って」
 ルナは竜車の従事に、慣らし運転していた蒸気機関から、熱した石炭の入った鉄籠を外すように告げた。

 電気で動く駆動系というのはだいたい問題だ。
 内燃機関とまったく違う理屈で動いているし、蒸気機関のスペシャリストであるルナでも、電気工学に通じてるわけではないし、ほんの少数しか専門家がいない分野だからだ。
 それで、技師のほとんどは、でんきにふれるのがこわい。
 触れると、しびれて感電死するとも聞くし、電気系のスペシャリストと話す機会も滅多にない。そういう意味ではこのバーナードは希少な技術者なのだけれども、どうも扱いが面倒で、いつも口うるさい要望を投げてくる。
 中庭に竜車をよこすと、バーナードが新作のモーターと思わしきものを運んできた。
 対になっている2つのモーターで、その間を長い電線が繋いでいる。
「これって感電しないですよね?」
「いちおうゴムの被膜で覆ってますし、設置するのもだいぶ高所にします。動力はチェインで伝えますので、設置には結構自由度がありますよ」
 設置場所は自由と言っているのは、水をかぶる心配のない場所に設置できることを言っている。
 そうか、歯車じゃなくてチェインでやればいいのかと、ルナは感心し、シルバはこういうことを見越してモーターを使おうと発想したのかと思うと、その差が圧倒的すぎて少しこわい。
 サウスと対話できる、変態的な天才と自分を比べるのはこわい。
「あれがルナさまの新型ですか? ずいぶん馬力が出そうですねぇ、耐えられるかな。こっちは旧式でテストするしかなかったので」
 バーナードは自信なさげに言うが、ルナはこの男の変態的な神経質さには自信があった。つまり過剰性能で設計していることはほぼ間違いないのだ。それで必要以上に割高になりがちなのが玉に瑕なのだが。
「じゃあ、ちょっと見てみる? いちおうここまで慣らし運転してたから、火種はあるの。すぐにでも最高出力がだせるから」
 石炭の入った鉄籠を指差すと、バーナードは頷く。
「じゃあ、おねがい! もう一回、蒸気機関を稼働させて!」
 従事たちが籠をルナの蒸気機関に格納すると、派手な蒸気を上げ始めた。ぷしゅぷしゅという力強い音が響き始める。
「こりゃあ・・・、なんですこれ? 8本シリンダーとかですか?」
「12本」
「そりゃあ、オーバークオリティなきが・・・」
 おまえに言われたくない、とは流石に思ったのだが、それでも恐れを感じていない表情を見て、ああ、たぶんこのへんは想定内なんだろうなぁと思う。鉄籠を外させ、注水をして、蒸気機関を文字通りクールダウンさせていく。それを遠巻きに見ていた少年たちがバーナードのところへよっていき、細かな指示に頷きながら、重いモーターを設置場所に運んでいく。
「それはそうと、あの鋼材は何なのですか? ずいぶん積んでますが」
 目ざとく竜車に積まれた鋼材を見つけたのはさすがだった。
「ごめん、忘れてた! あれ持ってきたのも用事の一つなのよ。ダマスカス鋼。ペネスのシルバの工房でおもに使うつもりなんだけど、この工房でも試してみて。シャビから運んだの。うちに工房ではすごい評判だったわよ。テストした数値を聞く?」
 さらっと数値をいうと、バーナードは青ざめた。
「なんですかそれ」
「長期契約するつもりだから、発注したければわたしに言って。船便で運ぶつもりだから1月ぐらいは到着まで時間がかかるけど、ハッカビー兄弟は40ミリと25ミリのシャフトがほしいと言ったわ」
「うーん、40ミリってちゃんと理解していってるんですかねえ、その数字じゃあ太すぎでしょう」
「ああ、半信半疑なのよ」
 こういう突っかかるところが面倒なのだ。
 それでもたぶん、数字から40ミリは意味が無いと思っているところが、天才なのか馬鹿なのかわからないところで、ルナはいちおう干渉しないことにしている。
「発注は好きな注文をして」
 バーナードは考えた。
「では25ミリから、1ミリ刻みで15ミリまで」
 わかっていたけど、めんどい。

 バーナードのモーターが設置されていくと、いよいよこのシステムの中核部分が揃い始める。それはわくわくする光景で、ほんとうに発電機側のモーターと電動機側のモーターが電力をやり取りできるのかという、誰も試したことない再現に立ち会うことになる。
 サウスの理論が正しければ、何の問題もないはずだ。
 それでも、実際にそれが再現できる光景を見たものはないのだ。
 バーナードの言によれば、旧式の蒸気機関で試しているようなのだけれども、それでも実際に商品として売るレベルで稼働した実績はない。お金にならないならばそれは存在していないものと扱われるのが、シドだ。
 心細くて、シルバに祈る。
(失敗しちゃったかなぁ。12本シリンダーは無謀すぎた? だって、パワーは必要でしょう? でもさ、バーナードはちゃんとやってくれるよ!)
 もうわからなくなって、機材を設置している所を手伝うんだけれども、凝り性のバーナードの工房の仕事は理不尽なほど整然としていて、ミスはたぶん起こらないとわかる。蒸気機関と発電側のモーターをつなぐチェーンが装着されると、もうやることがなくなる。それでもバーナードは執拗で、チェックリストをもたせた少年たちに最終チェックをさせた。
 OKでーす、の声があちこちから聞こえる。
 最後の一声が聞こえたのを確認して、バーナードはわたしを向いた。
「耐えられますかねぇ。どれぐらい試してみます?」
 わたしの蒸気機関には問題がないことは前提の発言だ。
「そうね、夕暮れまで、それで充分でしょ。わたしたち、まだ朝ごはん食べてないの、突貫でここまで来たから。パンとお茶だけの質素なものでいいから、ごちそうしてくれない?」
 たぶん、こう言うと、この工房は恐ろしいほどに凝るだろうなと、思ってはいたのだ。
「朝食の研究はあんまりしていないので、ご期待には添えませんでしょうけど」
 ああ、こわいことを言っている。

 お招きされた卓で出されたのは、バターの効いた焼いたバゲットの上に乗せられた、塩麹まみれのイカゲソで、ほどよく唐辛子とガーリックが混ぜられたものだった。
「なんですかこれ! ラスペでお店出してくださいよ!」
 セレンが感激するのに、わたしもこれはファストフードとして優秀だなあと、思ってしまう。実際的に言うと、焼き立てパンじゃないとこれはできないので、屋台ではたぶん無理なのだが、セレンの感激はよくわかった。
 バーナードは調子に乗って、お昼はどうしますか? と聞く。
「パスタ!」
 これはセレンだ。
 うかがうように視線を向けられるので、もうちょっとひねろうかと思う。
「ミートソースの一番うまいやつを」
「時間かかりますよ、いいですか?」
 まだ朝だろとは思ったけれども、煮込む始めると時間がかかるのかもしれない。
 ちらっと見ると、大量のトマトソースに香草を混ぜ始めて、配合はわからない合い挽き肉を混ぜて、オリーブオイルでいためていく。しばらく焼き目と火を通すと、だいたい美味いミートソースになる。
 トマトがだいたい美味ければミートソースは美味い。
 もちろん、オイルは大切だけれども。

「ルナさまって、シルバさまの仕事をしているときはいつも嬉しそうですよね」
 耐久試験をしてる間はだいたいは暇だ。
 それでセレンとのんびりとお茶を飲んでいるのだけど、セレンはいつもどおりキツくて、挑んでくる感じが心地よくはある。
「なにか問題があるの?」
「いえ、なんでこんな仕事続けていられるのかって、疑問に思ってしまって。蒸気機関の設計しているときのルナさまの集中を見てしまうと、しかたなくやっていることがまるわかりなんです。でもシルバさまの仕事は別。楽しそうなんです」
 しばらく考えるが、自分のことなんて観察していない。
「なにを言っているかわからない」
「自覚がないんですね。ルナさまは、この仕事を「あなたが作った」と理解していないのです。ルナさまとシルバさまの会話は聞いていました。ルナさまはやるべきよ! と言ったのですよ。お金なんてわたしが集めるから、心配しないでって、格好良かった。ルナさまのようになりたい」
 どぎまぎするというか、だいたい褒められるのは照れる。
「し、シルバの名前で取引すると、だいたい成約するのよ。わたしはシルバの名前を利用しているだけ。この前の蟹伯爵との出資交渉でも、シルバが関わるのか聞かれたし」
「蟹伯爵?」
「ああ、有力な出資者よ。蟹が好きだから蟹伯爵。正直、外観でたぶらかしているの。でもわかるでしょ? わたしが好きなのは外観とか気しない人なの。セレンはたぶん、子供でなくなれば、大人になれば、ぐっと魅力的になる。でもそれで仕事してほしいとは思わない。あなたは、わたしからみればもっと魅力的だわ」
 セレンはぐっと言葉を謹んだ。
「殺し文句がお上手ですね、ルナさまは・・・」
「本気よ。シルバと仕事していて楽しそうに見えるのは、どんな無茶な提案でもシルバの名前を出すと、全部通るからでしょうね。わたしはただ話に行っているだけ。そこにシルバがあると全部通るの。わたしは何なの? と考えてしまうわ。いったい、数千キロを飛んできたわたしはなんなの? って。シャビで実感したでしょ?」
「それは違います! ルナさまはルナさまです! もっとご自分を大切にしてください! あなたさまが、シルバさまを作ってるんです! あなたさまがシルバさまのすべてなのです! なんでわからないのですか!」
 衝撃というものは、直撃を食らうとよくわからない。
「わたしは」
「言い訳しないでください!」
 考える時間はあった。たぶん3分ぐらい。その中で、シルバとの関係を整理できたかと言われると厳しいわけで、目の前の閻魔大王が憎たらしくは思えた。
「好きなんですか? 嫌いなんですか?」
 究極の問題に答える。
「すきです・・・」
 セレンは清々しく笑った。
「予定通りです」


 えーと、大変遅れました。
 端的にいうと、木曜日ぐらいにできていた文章があまりにもひどかったので、土日で立て直しが必要でした。それでも直りきっている感じはしないのですが、まあ、この辺がタイムリミットです。
 しかしなんでこんな消化試合のような文章を書くようになってしまったのだろうと。先週はきつかったけれども、まだましでした。たぶんそのきつさから逃げたくて、いい加減になってしまっていたのですね。
 もともと、このお話はルナとシルバが、産業革命期時のスタートアップとしてどんなことをしているのか、ということを掘り下げるために書き始めたものでした。それはわたしが特許法が制定された時代が異様に好きで、その時代の資料を溺愛しているから生まれているお話であったりするのです。そういう意味では、かなりハードなスチームパンクな話になっているのですが、もうちょっと掘り下げたい地点に踏み込めていないなあという感じはしてしまうのです。
 ただ慣性の法則みたいなものはあって、スタートした時点では予定していなかった話題にいまから踏み込むのは無理だろうと、いま断念している感じです。このお話は第三作のプレストーリーなので、第三作で語るんですかねえ・・・。まあそういうことが大量にあるから、書きたいと思うんですね(^_^; いろいろと技術面では難しいところもあるのですが(本来はルナ視点で書かなければいけなかったのに、シルバ視点で書かなければいけないとか)、まあお楽しみにしていただければ幸いです。

 さて、土日使っちゃったぞ、次は間に合うのか?
 この綱渡りって、案外楽しいものだなあと思っていたりします。


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 『あらしにあこがれて』10

 鋼板を満載した竜車が工房にたどり着くと、なぜだか歓声がわいた。待ちわびたように顔を出した工房の面々を見ていると、ふしぎな光景に見えてくる。
「なに? どうしたの?」
「ああ、ルナさま、そのダマスカス鋼の数字を知りたいですか! 信じられません! 丁寧に浸炭した鋼材よりも、果てしなく上の数値を叩き出したのです! 引張強さもいいですし、耐力もいいですし、うかれてひねり耐性も調べてしまいました!」
 ルナは理解できずに、工房長の肩を掴んで落ち着こうと言ったのだが、落ち着きが必要なのはルナの方だった。セレンに荷を解くようにいい、それで了解を得たと思ったのか、工房の誰もが群がり始めた。
「ハッカビーにも、バーナードにも持っていくから、全部取らないで! 発注すればいくらでも運んでもらえるから! 欲しいものがあったら、わたしに発注して! ただし、船便よ! 一月はかかる。それは了解して!」
 それで混乱は収まった。

「うちの工房では大混乱だったわ。争奪戦というの? 性能テストをしてもらったの。その数字がどうもすごかったらしくて」
 ルナは疲労困憊で言う。
「どうもお疲れのようで」
 ハッカビー弟は気を利かせるが、兄は無言を貫く。
「ポンプは軽い方がいいの。鉄の量が減れば軽くなるでしょ? 鉱山ではどこで出水するかわからないでしょ? そうしたら、すぐに運べるのがいちばん。そのためには軽いのがいいの。テストしてみて。サンプル置いておくから。うちの工房の評価を鵜呑みは嫌でしょう? 信じられる? シャビでは10ミリ鋼板は使わないというの。5ミリで十分だって。どんだけ強靭なのよ?!」
 兄はしばらく考えていたけれども、口を開いた。
「40ミリ径と、25ミリ径のシャフトを。それでテストします。いやですか?」
 ポンプはシャフトなのだ。
 それで武者震いをした。
 なんだ、気付いたらそれなりの工房を抱えていた。
 鋼材一つで劇的に変わる、利益になる宝の山が目の前にあった。それを活かすも殺すも自分なんだと思うと、その重さに怖くなった。セレンと一緒になって鋼材を降ろしながら、置いていった鋼材の在庫管理をしはじめると、気が紛れる。
「じゃあ、シャフトは発注しておくから。他に欲しいものがあったら、すぐに言ってね、いつでも回ってくるから、わたし工房を見ているの好きだし」

 シャビの工房に発注をするというのはけっこうな手間がかかる。
 そもそも数日居合わせただけの工房だし、こっちをどれだけ信用してもらっているのかもわからないし、相手がどれ具合の幅でこちらの要望に応じてくれるのかもわからない。
 それでも真剣な儲からない工房の発注に応じなければならないし、わたしはだいたい嫌われているのだ。
「どうするんですか? なんか誇大妄想だけが発展している気がするんですが」
 セレンの鮮烈さには、ちょっとイラッとする。
 わたしは正直助けが欲しかったのだが、冷静に考えるまでもなく、セレンに権限を移譲する以外の方法が思いつかなかった。いいか、ルナ、よく考えろ、どうすれば工房から莫大な利益を得られる? どの方法が1番効率よく利益になって誰もが幸福になる? そのために捨てるのはどこで、犠牲にするのはどこか。答えがあるはずもない。どこも大切なわたしたちなのだ。
 ルナはためいきをついて、セレンを見る。
「あんたは、ニホに相談しなさいよ。わたしはペネスに行く。それまでに話をつけてきなさい。わたしにおんぶ抱っこは重いの。横暴なのは分かっているし、私の名前はいくらでも使ってもいいし、責任は取るから、あなたはもうあなたの名前で仕事をする時期よ」
 セレンは黙り込んだ。
 正直この年令には酷だ。
 それでもわたしはもっと幼い頃から、何故かそれをやる羽目になった。
「わたしは、じゅうぶん、でしょうか?」
 言いたいことが分かって、思わず抱きしめた。
「ど、どんだけ、買われてないと思ってるのよ・・・」

 ラスペの立ち食いの屋台はルナには慣れたロケーションで、大抵はピザのような粉物を食べるのだけれども、この日はたまたま汁物の麺を食べた。大きな海苔が3枚も乗っていて、食べ方に困ったのだが、スープに浸すとうまかった。
「まいど!」
 小銭が足りなくて、変な払い方なったけれども、お札を払って終わる。
 なんか、蜂の巣を叩いている気がする。それはセレンを焚き付けているのもあるだ。いいのかと考えると、仕事だろとしか考えが返ってこない。
 すぐ間近な未来に明らかな敵がいる。それはボルニアだったりシドの奴隷商人たちであったりするのだけれども、それはシルバが見ている世界と違う。あの馬鹿は、どちらも敵ではないと思っていて、世界は丸く収まると思っている。あからさまに侵略をしてくる騎竜兵団を敵ではないと思うのはシルバのおかしなところだが、そもそもボルニアがシドの奴隷売買以外の理由で滅ぼそうとするのかがわからない。
(なんか決定的な原因があるに違いない。誰に相談すればいいのだろう?)
 あらしにあこがれているシルバを見て、あれのアンカーにならなければと思っている自分がいる。それは同じようにセレンに期待することだし、年長者の期待のしすぎなのかもしれない。
「機械のテストを終えて宿舎に戻ったら、特訓をするわよ! 兄の工房に属している限りは、これは必須なの! あらゆる工房の千の問に答えられて、初めて一員なの」

 千の問というのだいたい大げさだけれども、数百の問をひたすら浴びせ続けられる数日間は地獄のはずだ。セレンは学がないことがコンプレックレスのようなのだが、100%の正答率を出す変態はいない。
 それで問を出すたびに問と正答を並べたリストを渡してやり、体系だって整理してやる。そんなながら作業をしながら、ああ、これはいいマニュアルになるなあなどとぼんやりと考えるのだが、その間にもやらなければならないことが山積みだった。
 まずは機械のテスト。
 ハッカビー兄弟の工房から搬出したポンプを桟橋に運び、わたしが設計した蒸気機関と合わせてみる。のろのろと進む竜車の荷台に揺られながら、あいつちゃんと動くかなあと、自分の設計した機械のことを考え、セレンに質問をする。
「高性能な電動モーターを主に作っている工房は?」
「えーと、バーナードさんですよね」
「そうそう、あの工房は凝りすぎるから大変なのよ、まあ高級品作っている分にはいいのだけど、そうそう高いモーターって使いどころがなかなかないのよねえ、だから売れない。今回みたいにセットにしてやらないと、いけないのよねぇ」
 もうメモをとるのはセレンがやるようになっていた。
 リュディアからやってきた紙にペンを走らせ、書き終えると慎重に荷台に置いた。
 ルナはセレンを話し相手に自分の知識を吐き出しながら、次第に自分たちを取り巻いている状況がどうなっているのかがつかめ始めた気さえしていた。なんだ、案外わたしが整理していなかっただけなのかも。
「ルナさま〜!!」
 遠くから呼び声が聞こえる。あれ? ついた? と聞くとセレンは慎重に頷く。
 幌から顔を出すと、ぴかぴかの蒸気機関が眩しいぐらいに陽光を反射していて、水面のそばに鎮座していた。隣に竜車を寄せると、低速ギアを噛ませたクレーンを寄せてだいぶ年季の入った蒸気機関を作動させる。
「結構重いよ! 慎重にね!」
 ポンプの下にある木組みのパレットに鎖を通し、慣れた面々がてきぱきとポンプを新作の蒸気エンジンのそばに降ろす。すると工房の人間がポンプの接合部に蒸気エンジンの軸をジャッキで合わせ、ゆっくりゆっくりと接合していく。凹に凸を入れる。プラスドライバー、マイナスドライバーと同じ原理だ。
 機械の設置が終わると、油紙を分厚く重ねて針金で補強したホースをポンプにつなぎ、川面にそれを入れる。
「やるか」
 許可するのは必要で、それで石炭班が動き始める。石炭に着火するには時間がかかる。それで、せわしなく動くのだけれども、こわいぐらいの火種を用意して、それを盛大に燃やしてやる。石炭と石油が違うのはここだ。石油はマッチを寄せるだけで爆発する。
 石油というかガソリンエンジンの開発者はいたのだけれども、あまりにも不安定すぎて実装化を投げてる。エネルギーの高いものはだいたい不安定なのだ。爆発するし。壊れるとお金かかるし。
 燃え始めると石炭は、火が消えない。
 それでもやっぱり石炭以外の方法がないので、炊くようには言わないのだけども、無言のうちに石炭に火を灯すように話が進む。目の前の蒸気機関に石炭がくべられ、熱源になっていくのをぼんやりと見つめる。
 蒸気機関が徐々に出力を上げていき、設計通りに稼働していくのは快感だ。
 ポンプは予定通りに水を吐き出し、全員の拍手が湧く。それでも、なんと言ったらいいのだろう、これはシルバの望んだものなのだろうかと考えると、そこに至ってないと思ってしまう。なにかわたしの中にまだ見ぬシルバの姿がある気がして、それに足りないと感じることが、わたしには苦痛なのだ。
「まだ、これで喜ばないで」
 ついそう言ってしまう。


 えっと、今回は厳しかったです・・・。
 毎回順調にすこしずつ遅れているのですが、いよいよ全力疾走しなければ予定のタイムに間に合わなくなり始めた感覚です(^_^; たぶんすこしずつ物語が複雑になっていき、書かなければならないことが雪だるま式に増えてきたのでしょうか・・・。
 まあ、書けてはいるから、あとはここからラストスパートで息が続けばいい、などと考えています。

 作中で、鋼板の評価をしている部分が出てくるのですが、ここで使われている用語はJIS規格の用語です。いちおう工学部だったので(まあ今の仕事でも使うのですが)、そういう所はいちおう本物っぽく書いています。

 残り2回か、3回ですねぇ(そう考えるとすこし楽になる)。
 そろそろラストスパートに入りますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
(そして走りきれると想いたい・・・)


| 自作小説 | 15:57 | comments(0) | trackbacks(0) | 昨年の記事
 『あらしにあこがれて』9


 ラスペに空路で着くと、ルナは5ミリの鋼板を一枚持ち上げて、それを胸に抱えた。
「セレン、竜車を調達してちょうだい。これ、工房まで運ばないといけないから。わたしは一足先に工房の様子を見てくるから」
「はい」
 背丈ほどもある鋼板を抱えて歩く姿は、たぶん異様だろう。
 それでも兄パルの工房はそれなりに名は通っているので(儲かってないけど)、後ろ指を指して笑うものはいない。それよりもダマスカス鋼を真っ先に届けてやりたかった。わたしは工房が好きだし、思い描いていたものが形になっていくことは好きだった。
 それに設計図を渡した蒸気機関がどう仕上がっているかを見るのも楽しみだ。
 胸がすく。
 鼻歌を歌っていたかはわからないのだけれども、わたしの工房となっている貴族の旧邸宅にたどり着くと、ウキウキが止められなかった。
「みんな! 帰ったわよ! 大収穫! みて! これがダマスカス鋼! びっくりするぐらい安く買えちゃった! もし性能がよかったらじゃんじゃん使っちゃってちょうだい!」
 ハイテンションに唖然とする、工房の面々の間を歩きながら、
「蒸気機関はできてる?」
「あ、ああ、はい、あそこに……」
 広間の中央にある設計したとおりの蒸気機関を見て、無骨な機械の表面がピカピカに磨かれているのを見て、わかってきたなと嬉しくなる。
「もうテストはできる? できるなら河岸に運んで、ポンプと合わせてみるから」
「ポンプの方はもうできていると聞いています」
「まあ、もともと昔使ったやつをちょっと丁寧に作るだけだからね。ハッカビーには、ちょっと儲けさせてやらないと、いい仕事するから。すぐに鋼材を乗せて竜車をよこすから、蒸気機関を運べる準備をしておいてね。それからポンプを回収して、河岸の桟橋に。うちの7番桟橋に。ハッカビーには通しておくから」
 手はずを整えると、ふいに工房の職人が聞いた。
「このダマスカス鋼はどうするんですか?」
 ルナはしばらく考えるが、うまい方法が思いつかない。
「好きにして。別に転売してもいいのよ?」
 さすがに溜飲を下げた。
「技術者ですから、端くれですけど」
「じゃあ、頼んだ。ぜんぶ任せるから、なにに使ってもいいから、でもこの鋼板は自信があるから、おもしろく使ってね」
 ルナは簡単に言うが、蒸気機関の第一人者だけに、言葉が重い。
 工房の誰もがわたしなど気にもせずに、熱心にダマスカス鋼板の特性を測定する算段に入るのを眺めながら、わたしはこの場所が好きなのだという想いを新たにする。
「じゃあ、頼んだから、ハッカビーのところへ行ってくる」
 軽く声をかけても誰も聞いていない。
「スイッチ入っちゃったみたい」

 それから返す踵で、ポンプ屋のハッカビーの邸宅に向かう。
 入ると別案件のポンプの試運転中で、わたしが過去に設計した蒸気機関にポンプを繋いで、たぶん耐久テストだと思うのだが、張り詰めた様子でポンプの音を聞いている。
 暗号にも似た専門用語が飛び交い、それを聞いて設計者のハッカビー兄弟が頭を抱えている。わたしはそれをしばらく見ていたのだが、二人のところまで歩いて、声をかける。
「トルクはどの辺まで耐えられそう?」
「え、ああ、ルナさん、帰ってたのですか。新設計の蒸気機関、見ましたよ。でもあの馬力に耐えられるかなあ、ちょっと厳しいかなあ」
 ルナはすかさず言葉を挟む。
「じゃあ、朗報。ダマスカス鋼の製板工房をつかまえたの。ちょっと試してみてくれない? サンプルはもうすぐ運ぶから、もしよかったら、なんでも発注してちょうだい。もしシャフトが欲しければ言って? 径さえ言ってもらえれば、それを用意してもらうから。強度の強いシャフトはほしいでしょ?」
 ええ、まあと戸惑いがちに言うのは、精密な加工が必要なシャフトは外注したことがないからだ。
「別に、精度に問題があるなら、ここで直すのは問題にしないわよ?」
 ルナは軽いように見えて、独裁者的なプロデューサだ。
 サディストとは言わないけれども、押しが強くて、話し相手に何かを押し付けるのを苦に思わない。シルバと不思議な協調関係にあるのは、なにも言い出せない奥手なシルバを、ぐいぐいと引っ張る力があるから、というのは変な見解だろうか。
 ハッカビーの工房の少年が、軽く言う。
「じゃあ、サンプル持ってきてくださいよ! 現物を見ないと、発注もできません!」
 ハッカビー弟は申し訳無さそうな表情をしていたが、ルナは気楽に片手を上げる。
「まあいいわ。でも、それを使って大儲けして! ダマスカス鋼よ! こんなの使ってるの、ラスペでもうちぐらい!」
 ルナが特異な地位にあるのは、血の問題もあるのだけれども、工房全体の原材料の流れを全部把握している事にある。本人はひたすらにその仕事を捨てたがっているのだけれども、それをできる人が他になくて、やめられない。
 ルナには代わりがいない。
 たしかに突拍子もない性格をしている。
 でも、それが好循環で進んでいるうちは文句も出なくて、代替不能で、ルナはその役割から開放されないでいる。ルナがうんざりしているのはまさにその部分なのだけれども。
「あの、シャフトの径って・・・、いくらぐらいがいいですかね・・・」
 わたしが決めるの!? 少年は怖気づいたが、
「すみません、やはり現物がないと、どうにもならないんですよ」
 ルナの表情を見て、申し訳なさそうに、ハッカビー兄が言う。
「あ、ごめんなさい。いま、竜車を手配して運んでくるから。特性テストが終わったら、欲しいものをリストにして渡して。空路で運ぶととんでもない事になるから、海路になるから、試作機には間に合わないわね。でも、量産機ができたらそれに交換してもらうから、それに間に合えばいい。試作機の納品から1月後でいいわ。それまでに、ダマスカス鋼で仕上げたものが出てくればいい」
 理路整然というのに兄弟が安堵の視線を合わせた。
「できそう?」
「あ、いえ、現物を見ないと」

 セレンが待っているであろう浮遊船の港につくと、荷台に鋼板を満載した竜車が待っていた。セレン一人では搬出は無理だろうだったから、幾ら使ったんだろうと心配になったのだが、どうも賢く周辺の配金している工房から動員したらしい。
 話を聞くと、それがダマスカス鋼だと触れ回っていなかったのが玉に瑕で、それでも十分な仕事をしていた。
「テストするから。まず竜車を工房にやって、蒸気機関とポンプを7番埠頭に運ぶ、それはいい? テストが終わったら忙しいわよ」
「え、えーと」
 ここがオーバーフロウの地点のようだ。
 そうするともう少し前の地点を探す。
「テストをします。それは7番埠頭でします。そこに蒸気機関とポンプを運びます」
 それでセレンは頷いて、わちゃわちゃと動き始めた。
 わたしがしていなかったというかサボっていた連絡までいれ始め、お金の交渉まで始める。そこまでくるとわたしはやることがなくなる。
(ニホと組んだら、いいコンビなんだけどなあ)
 工房の有望格はセレンを始め大量にいる。しつこくニホといい仲にしたがっているのは、ニホと組むと良さそうだから。セレンは律儀で細かい数字の計算をさせたら間違いは起こらない。ニホは、大雑把だけれども本質を掴む力だけはすごくて、大局観だけは誰にも負けないホープなのだ。
 正直に言うとルナはセレンとニホに、自分とシルバを重ねている。
 ああ、こいつは不器用だなと、自分と同じだなと思う時に、救いであるシルバを重ねてしまう。セレンはたぶんニホに、自分にはない才能を感じるだろうと。
「ニホに相談しなさいよ。あなた、ニホを侮りすぎ」
「なんで、そんなに言うんですか!」
 さすがに10歳も年齢が離れていればわからない。
 わたしが思春期の頃にシルバにどう接していたのだろうと考えてしまうし、たぶんセレンがするようなことしかしていなかったようなきがするのだ。
「聞かなくていいから、聞きなさい。誰だっていつも足りないの。一人でできる人なんてどこにもいないの。あなたの良さを褒めようとすると、どうしても他の人が頭に浮かぶの。その人と組めばどんだけいいかって」
 セレンはためらった。
「じゃあ、ルナさまは、なんでシルバさまと公の関係にしないんですか!」
 どきりとして、いろいろと言い訳は思いつくのだけれども、説明として説得力のあるものはない。
「あなたは全部見ているでしょ」
 これはヤケクソに近かった。
「わたしはシルバを搾取するしかないの! 罪の意識なんて、もう無限に感じている! でもこのあの無能な兄の工房群を維持するにはそれしかないの! どうしたら良いというの?! わたしがシルバにどう謝ったらいいの? 謝って、好きですと言えば、許されるの!? そんな簡単なの!?」
 セレンは圧倒されて、それから内省して、考えた。
 たぶんこの子は賢いのだ。
「・・・、はい・・・、シルバさまは全部許すでしょう・・・」
 それを信じるには時間がかかった。
「・・・、じゃあわたしが言ったら、あなたもニホに告白する?」
「なんでそうなるんですか!」
 わたしは冷静なつもりだったけども、冷静なはずがない。それでもしばらく考えて、正直に言う。
「ニホはシルバに似ているの。わたしはシルバが好きだけれども、ニホもいいやつだなあと思っている。それをセレンが助けてくれれば、工房が回るでしょ。リラと話したとき、わたしがシャビに飛ぶわよと言った時に、あなたはそれに備えていた。その時にわたしと同じ考え方をするんだと思った。なんでわたしの後継者と思ってはいけないの?」
 セレンはひたすらに黙っていた。
「不快?」
 セレンは黙っている。
「お金の計算は叩き込んだとは思っているから、会計の能力でセレンよりも上回る人はいないと思うわ。あなた才能あるわよ。数字で間違ったことがないじゃない。あなた以上を見つけるのが難しいの」
 ルナのそばにいて、セレンはその数字の正確さがもたらす秩序は見ているのだ。ルナの愛弟子という地位は否定し難いが、それで人生を決めてしまっていいのかと思う。
 難しい問題だ。


 今回はあんまり書くことがないのですが、一週間に15枚程度とか短いなあと、そのへんですかねえ。
わたしが尊敬する作家の中で、1番作品を書くペースが速いとされるのが、ディック・フランシス(故人)の年一作(長編)なのです。それも本人が一度書き上げた作品を、第二稿、第三稿と書き直すのは信じられないと言っているので、ほぼリトライなしのペースだと思われるのですが、だいたい一週間に15枚ならば、同じペースなのではないかと思ってしまっているところがあるのかもしれません。
 もちろん、広い世界を見渡せば、2週間で書いた(長編)などと変態的な事を言っているフィリップ・k・ディック(故人)とかもいるのですが、彼が生活のためにとにかく量を書かなければならなかったことを考えると、それが適したペースだったのかというのは疑問に感じますし、日本語版のwikipediaの作品一覧(ただし邦訳されたもののみ)を見ている限り、多くて年二作が普通のペースだったようです。
 いまふと思ったのは、大河ドラマを小説化したらどれぐらいの文章量になるのだろうということなのですが(もちろん去年の大河ドラマ真田丸を念頭に言っている)、誰かやってくれないですかねえ(他力本願w)。
 なにかとりとめがないのでこの辺で。

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